第147話「山頂に巣食う、焔岩鳥(3)」


 早朝、ザーリダーリ火山。

 山頂の黒い岩場を寝ぐらとする魔物フレイムロックバードが、ダンジョンボス固有スキル【魔王の援護LV5★】により姿を変えた。


 黒と紫が入り混じる不穏なオーラを纏った巨鳥が、灼熱に燃える巨大な両翼でバッサバッサと羽ばたく様子は、上空に広がる灰色の霧によく映えており……さながら往年の巨匠が描いた渾身の油絵のように圧巻で、俺は思わず息を呑んでしまった。


 ……とはいえ、見とれている場合じゃないよな。

 既にボス戦は始まっているんだから。




 衝撃波がおさまったところで、俺とテオは素早く【鑑定】スキルを発動させた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 フレイムロックバード

種族 魔鳥

称号 空を舞いし者:空を自由に飛び回ることができる者

   焔鳥の王者:焔鳥達の王として君臨する者

   烈火の魔物:肉体が火属性の濃密な魔力で構成される者

   魔王のしもべ:肉体が完全に闇魔力で覆われる者

状態 【魔王の援護LV5★】発動中

   【反重力LV3】発動中

LV 41


 ■基本能力■

HP/最大HP 3373/473+2900

MP/最大MP 5428/128+5300

物理攻撃 64+157

物理防御 35+210

魔術攻撃 51+302

魔術防御 45+210


 ■スキル■

<称号『空を舞いし者』にて解放>

反重力LV3:自分にかかる重力を70%軽減できる

<称号『焔鳥の王者』解放スキル>

火炎突進フレイムラッシュLV3:火焔をまとって高速で体当たりする

燃天降石バーンメテオLV4:燃える隕石の雨を降らせる

同族召喚LV3:自分より低レベルの同種族の者を10体まで召喚できる

<称号『烈火の魔物』にて解放>

火特性LV3:自身の全ての攻撃が火属性攻撃に変化、攻撃力が3倍

       水属性攻撃で受けるダメージ増加

       風属性攻撃で受けるダメージ軽減

<称号『魔王のしもべ』にて解放>

魔誕の闇LV5★:周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくする

魔王の援護LV5★:特定の条件下で、魔王の援護により強化される


 ■装備■

なし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 並ぶスキルは、ゲームでのそれと全く同じ構成だった。

 ステータスも事前予測――基礎能力値はゲーム通り、【魔王の援護LV5★】の強化値はこれまでのボスと同じくゲームの約2倍――とほぼ変わらない。


「想定してたとおりだなっ」

「ああ……」


 笑顔なテオの言葉にうなずくと、右手の剣を握り直す。

 “想定通り”、それはつまり「相手が強敵であり、油断すれば俺達が殺されかねない」と再確認できたということでもある。


 強化が一段落ついたフレイムロックバードは、余裕たっぷりに上空を旋回している。

 まずは軽めの攻撃から入るつもりだろうな……ゲームと同じ習性アルゴリズムなら、という前提付きだけど。




「……皆さん、作戦変更はありません! 焦らず確実に倒しましょう!」


 俺の指示に短く答えた一同は、足早に各々の持ち場へ散っていく。




「我々はッ! 誇り高きニルルクの民であルッ!!」

「いつでも来いヤッッ!!!」


 目立つ位置で張り切っているのは、熊と猪の大型獣人コンビ。

 彼らの役割は盾役タンクであり、主に敵の攻撃を受け流しつつ誘導を担当してもらう。装備も防御&回避重視でがっつり固めてあるし、道中の2名の動きを見る限り全く心配ないだろう。




まばゆき光達よ……集え、そしてぜよ、力の限り……」


 彼らを横目に、俺は【光魔術】の詠唱を開始。

 右手に剣を握った状態で、左の手のひらの上に術を展開し、攻撃用の光を集めていく。


 今回は大型獣人達が盾役タンクを引き受けてくれたこともあり、盾は使わず、攻撃重視で立ち回る予定だ。

 この間のボス戦ヒュージスライム戦の時よりも手数が増えたとはいえ、まずは使い慣れた術式で様子を見たいところ。色々試すのはその後だって遅くない。




「燃え盛る炎達ヨ、なんじらは屈強な戦士なリ……熱き闘志を燃やセ、そしてぜヨ……」


 同じく魔術の詠唱を始めたのは、愛用の手甲鉤ハンドクローをかまえた狼型獣人のムトト。


 元は盾役タンクメインな予定だったけど、パーティメンバーが増えたため、急きょ俺と同じく攻撃役アタッカー参加ということになったんだ。

 フレイムロックバードはそこそこ耐久力があるから、俺の攻撃だけで削り切るのはちょっと大変なんだよな。




「……水鎧ウォーターアーマー、……水鎧ウォーターアーマー、……水鎧ウォーターアーマー――」


 テオは後方に下がりつつ、無詠唱魔術で全員を支援していく。


 フレイムロックバードは自由に飛び回ることもあり、上空からの単体攻撃、フィールド全体攻撃など、攻撃パターンが多岐に渡る。しかもどの攻撃もダメージが大きく、1撃当たるだけで命取りになってしまう。


 そのため今回のテオは『水鎧ウォーターアーマー――水魔力を鎧のように具現化してまとわせ、防御力を上げる水魔術 ――』を切らさないようにして、全員の耐久面を上げるのが最大の役割となる。さらに余力があれば他の防御魔術やスキルも駆使して、とにかく“パーティの防御面の支援”に特化して動く予定だ。




「ふム……」


 さらに後ろで、不敵な笑みと共に腕組みしながら様子を見ているのが、魔導具工房長で栗鼠リス型獣人のネグント。

 他の獣人達よりも二回りは小柄な彼だが、本人いわく“冒険者として戦った経験がある”とのこと。


 ただしネグントは昨日の作戦会議で「僕ハ後方で様子を伺ウつもりダ」と自分で宣言した後は、時々助言するだけでほとんど発言してなかった。ゲーム内でも戦う様子を見れないし、今日の道中でも戦闘不参加ってことで全く手の内が読めないんだけど……まぁ彼のことだから、何か考えがあるんだろうな。






 ……ん?

 フレイムロックバードの飛び方が変わったぞ。


 で曲がったってことは……。




火炎突進フレイムラッシュ、来ますッ!!」


 気付いた俺が叫ぶ。



 と同時にフレイムロックバードがグワッと燃え上がって加速。

 炎をまとった姿は、まるで巨大な流星のよう。


 そのまま大型獣人達めがけてトップスピードで突っ込んだッ――




――ブオォォォオォンッッ!



「とりャッ!」

「その程度では当たらぬゾッ!!」


 左右に開く形でかわす熊と猪。ギリギリまで引きつけてから、最低限の動きで素早く回避しているあたり、安定感がすさまじい。




 自慢の突進を避けられたボスは少し減速。

 どこにも巨体をぶつけることなく、地面すれすれを低空飛行しながら、再び空へ舞い上がるための勢いをつけていく。




閃光爆裂フラッシュバーストッ!」

熾炎爆砕ブレイズブラストッ!」


 瞬間、俺とムトトが動いた。

 減速したボスの背後から、胴体目掛けて魔術をぶつける。


 俺はおなじみの『閃光爆裂フラッシュバースト――魔力を強く圧縮し爆発させてダメージを与える【光魔術】の術式――』を、そしてムトトは『熾炎爆砕ブレイズブラスト――破壊力を高める形で魔力を加工し、爆発させてダメージを与える【火魔術】の術式――』を使用。

 爆砕ブラスト系は割と上級術式のはずだけど、ムトトは涼しい顔で難なく使いこなしてるあたり、なかなかやり手だと思う!




 丁寧に組み上げた術式は、狙い通り2つとも“翼の付け根”で爆発。

 事前情報では、現実もゲームと同じくあの部分が弱点とのことだった。


 フレイムロックバードは「ピキャッ」と小さく悲鳴を上げると、俺達のほうを睨みつけてから上空へと戻っていく。あの表情、だいぶ痛かったっぽいな。



「今の攻撃で、ボスのHPが153減ったよーっ!」


 後方からテオの鑑定結果報告が飛んできた。


 HPの減り具合からして、先の攻撃は幸先よく弱点ヒットクリティカルヒットした模様。

 敵の耐久力が高いから先は長いけど、この調子でいけばたぶん大丈夫だろう。




 上空には、さっきより真剣な顔のフレイムロックバード。

 ゆっくり何度か旋回してから、再び火炎突進フレイムラッシュの予備動作を見せる。


「2回目が来ますッッ!」


 即座に俺達も、再度迎え撃つための準備を始めたのだった。


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