第139話「ニルルク村と、火山を守り続ける者たち(1)」


 ダンジョンへと変貌してしまったザーリダーリ火山の攻略を開始した俺・テオ・ムトト。

 まずは火山中腹にあるニルルク村を目指し、時おり襲い掛かってくる魔物どもの相手もしつつ、急勾配きゅうこうばいな岩場の斜面が続く東側登山道を進んでいく。





 道中、洞窟の入口をいくつか見かけた。


 もともと東側登山道は冒険者達が効率的に狩りを行えるようにすべく、“明らかに歩いて通れないレベルの危険な足場”のみを除き、火山山中に点在する洞窟の入口などを比較的最短ルートで結んで作られたルートである。


 これらの洞窟はどれも腕に覚えがある冒険者達にとって効率よく儲けられる狩場――討伐することで高額で売却可能なレア素材アイテムをドロップ品として入手可能な魔物が多く生息している――として好まれていた場所だった。



 だが魔王が出現し火山全体がダンジョン化した現在では、洞窟内に出現する魔物も軒並み強化されている上、登山道――かつては魔物が現れるはずが無かった場所――にまで魔物があふれるようになり、労働に見合った儲けを得るのが難しくなったことから、冒険者達に敬遠されるようになってしまった。



 ゲームにおいてもこの状況はほぼ同様。

 それなりに強さがないと攻略は難しいが、しっかりとLVを上げたり装備を整えたりしている状況ならば、“ザーリダーリ火山を訪れたら、ダンジョンボス討伐なんか後回しにして、まずは洞窟の魔物狩りをある程度行ってドロップ品を集めて装備等を整えるほうが優先”というのが定番攻略法とされているほど、火山洞窟で入手できるレア素材アイテムを使えば多くの有用でな生産品を作る事ができる上、それらの生産品を所持・装備していることで今後の冒険が有利になるとされているのだ。


 もちろん俺もゲームで初めてザーリダーリ火山を訪れた際には、セオリー通りしばらく洞窟にもり、ひたすら魔物を狩ってのドロップ品収集に専念した。



 だが現況を考えると、今はそういうわけにもいかないだろう。


 この山の洞窟の魔物はただ強いだけでなく、トリッキーな技を持つ個体が多い。

 奴らと今のパーティーで剣を交えるともなれば、ゲームにおける攻略推奨戦力から考えてもその戦闘はギリギリの展開になると予想される。

 立ち回りを少しでも誤れば、あっけなくやられてしまう可能性も否めない。


 また何より、ゲームと違って、ダンジョン攻略のタイムリミット――火山ふもとに程近い宿場町にて勇者の協力者を選ぶ選抜大会が行われる6日後――がすぐ目の前に存在している。

 今後の火山道中で何に時間をとられるか予測不可能であることをふまえれば、「現在は余計なことに時間を割けるような状況ではない」というのが満場一致の意見だったのだ。





**************************************





 現在時刻、午後3時半。

 年中通して快晴が続くこのエリアにおいては、まだまだ日が高い時間である。


 しかしザーリダーリ火山一帯を薄く広く覆う霧がすっぽりと上空をさえぎってしまっている影響で、午前中に山に入ってからもう何時間も太陽の姿を見かけていない。

 ただし周囲が薄っすらと明るく、まだ照明代わりの魔術を発動するほどの暗さではないという点から、間接的にはその存在を感じとることができている。



 さえぎられているのは、何も上空だけではない。


 前後左右の視界はそれなりに確保できているとはいえ、さすがに数十m以上先ともなると霧の重なりに負けてしまっているのだ。







 そんな中。


 歩み続ける一行の前方視界に、が浮かび上がってきた。




 近付くにつれ、その正体が“地面に刺さる無数の焦げた金属柱”であるのが分かる。

 高さも太さもバラバラな黒い柱の数々が、霧の白っぽい色に塗りつぶされた背景に映えた結果、何とも言えない不思議な存在感をかもしだしているのだ。



 実はこれ、ニルルク村の入口を守る門なのである。


 とはいえ門自体も、そして門に繋がっていたと思われる塀も倒壊してしまっていて、かろうじて残っているのは門の骨組みであった部分の残骸のみ。


 ――もはや門としての機能を全く果たしていない――を“門”と呼んでいいのかどうかは、やや微妙な部分だと言わざるを得ない。



 かつてであれば他の多くの街や村と同様に、入口門には守衛らが交代で常駐しており、入場税の徴収をはじめとする手続きなどを行っていたはずなのだが……変わり果ててしまった現在、周囲には誰の姿も見当たらない。





 先頭を行くムトトが立ち止まった。


 やはり、この場所に対しても思うところがあるのだろう。


 悔しさと悲しみが混じった瞳で、ゆっくり残骸達を見渡してから、後ろで待つ俺とテオのほうへ目をやり、無言を貫いていた口を久々に開いた。




「……気を抜くでないゾ」



 そう短く言葉を発した彼は、門だった場所のほうへと真っ直ぐ歩き始めていったのだった。

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