第97話「選ばれし少女、エレノイア(2)」
神殿の一室でテーブルを囲んで座る俺とテオとエレノイア。
しばらく話し込んだところで、エレノイアが気付く。
「あらいけない、夢中になっておりましたわ。お時間は大丈夫でしたか?」
「大丈夫です!」
「平気だよー」
俺達の返答を聞き、「良かったですわ」と微笑むエレノイア。
「エレノイア様こそ、俺達と話し込んでて大丈夫でした?」
「ええ。本日は夕刻までは自由時間となっておりますので。ところでタクト様とテオ様の今後のご予定はもうお決まりなのでしょうか?」
「はい、ニルルク村へ行く予定です」
「まぁッ!!」
身を乗り出すように勢いよく立ち上がったエレノイアが、うっとりと語り始める。
「ニルルク村といえば!!! 素材加工から建築、土木、武器、防具、道具、魔導具、そして装身具や衣類まで!! 世界屈指の生産系スキルを習得した達人の方々が多くお住まいだと言われる、まさに夢のような村!!! ああもうぅ……うらやましい限りですわぁ!!!」
ゲームでも現実でも常におっとりと穏やかなはずの彼女が、初めて見せるハイテンションな姿に、俺は思わずポカンと固まってしまう。
そんな俺の視線に気づいた瞬間、エレノイアは我に返ったらしい。
「……いけない、
へなへなと椅子に座り込んむエレノイア。
「あ、いえ! あのエレノイア様がニルルク村にそんなに食いつくなんて意外だなぁと思って、ちょっとびっくりしただけなので――」
「ですよね……」
慌ててどうにかフォローしようとする俺。
しかし逆に裏目に出たらしく、エレノイアは消え入りそうな声と共にうつむくと、そのまま黙り込んでしまった。
……無言の空気が重苦しい。
俺からすれば正直、今のエレノイアの挙動ぐらい可愛いものだと思う。
だが目の前の落ち込み具合――まるで世界が終わったとでも言わんばかりの絶望っぷり――を見る限り、彼女にとってはそうではなく、非常にまずい振る舞いであったらしい。
何とかしなければと必死に頭をフル回転するが、解決策が浮かばない。
気まずい沈黙を破ったのは、しばらく様子を見ていたテオだった。
「あのさーエレノイア、別に言っちゃってもいいんじゃない?」
「えっ? ですが――」
「だいじょぶだって、タクトならさ! ね?」
と意味ありげに俺に目配せしてくるテオ。
「あ、ああ……」
いまいち状況が掴めていないながらも、一応うなずいておく。
何やら考え込むエレノイア。
「……そうですわね」
ややあって彼女は、いつも通りの穏やかな表情に戻った。
そして俺のほうへ真っすぐ向き直る。
「タクト様、もしよかったらなのですが……ほんの少し、
「はい、俺でよければ」
「ありがとうございます。これからお話しする内容は、ここだけの話にしておいてくださいね?」
とエレノイアはにっこり笑ってから、おもむろに喋り始めるのだった。
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