第30話「テオ先生の、魔術講座」


 他の冒険者も魔物もほぼ寄り付かない、エイバス近くの森の中に広がるいつもの練習エリアを陣取っている俺とテオ。

 初めて挑戦した回復魔術を1回で成功させた俺は、引き続き魔術を模索している。



 これから1週間の目標は、「小鬼こおに洞穴ほらあなダンジョンボスに通用するぐらいまで、光魔術の攻撃威力を上げること」。

 そのヒントとするため、魔術について改めてテオに教えてもらうことにした。


 かつては俺だって高難度の魔術を使いこなしまくっていたのだが、あくまでそれは架空世界ゲームの中での話であり、現実世界リバースでは勝手が違う。

 ある程度この現状に慣れた今だからこそ、より詳しくその違いを知りたいと思うようになっていたのだ。





「まず、魔術とは何かっていう基本から始めるよー」


 笑顔で説明を始めるテオ。

 俺はボードに挟んだ紙にメモを取りつつ、真剣に耳を傾ける。




 そもそも『魔術』とは『精霊の力を借りて、魔力を自由に扱う技』だ。

 精霊へ上手くイメージを伝えられさえすれば、やり方次第で様々な魔術が使える。



 ちなみに『魔術以外のスキル』は、『精霊の力を借りず、そのまま魔力を扱う技』だと言われている。

 精霊による補助が無いため、1つ1つのスキルの効果は『自由度が低く限定的』となってしまうけど、そのぶん特定の目的に対しては安定した効果を発揮できるのだ。


 また魔術とその他のスキルを組み合わせると、その自由度は格段に上がる。

 生産系スキルは特に魔術と相性がよいため、生産系の職人は自ら魔術を習得したり、工房に術士を雇ったり、必要な魔術術式を発動するための魔導具を購入したりすることが多い。

 



 テオによれば、魔術の系統は大きく分けると『生活魔術』『回復魔術』『戦闘魔術』というように分類されていると。


 ただ、この分類は少し曖昧なものとなっている。


 例えば火球ファイアオーブ――火の魔力を球形に具現化する術式――の場合は、明かりとして使えば『生活魔術』、敵にぶつけて攻撃に使えば『戦闘魔術』と、同じ術式でも使い方で分類が変わるのだ。






「……回復魔術については、さっき話したから飛ばして……お次は生活魔術について説明するぞっ」



 『生活魔術』は、主に日常生活やアイテム生産で使う魔術を指す。


 生活魔術においては、【火魔術】は料理や照明などに、【水魔術】は生活用水の確保などに、【風魔術】は空調設備などに、【土魔術】は建設などに使用することが多い。



 長年比較的平和であったこの世界リバースでは1番研究され、そして普及している魔術であるため、『魔導具――魔術を使えない者でも簡単に魔術を発動できる道具――』も生活魔術関連についてはかなり発達している。

 テオの持つ『ニルルクの究極天幕アルティマテント』は、その技術の集大成の1つと言えるだろう。


 なお回復魔術の研究も昔から盛んではあるけれど、これに関しては魔導具として加工するのが難しいため、使い切りの『回復薬』としてアイテムに閉じ込める方法が一般的となっているのだそうだ。



 俺が見たところ、魔導具は『地球でいうところの生活家電――照明・洗濯機・冷蔵庫など――にあたるもの』を中心に、幅広く庶民まで普及している模様。

 動力源が魔力であるため、エネルギー問題なんて関係なさそうだし、細かい理論を知らなくても直感的に使える物が多いし、ある意味地球より便利なのかもしれないとも思う。


 しかし電話のように『通信機能』を持つ魔導具は全く知られていないようだ。





「そうか……が広まってないからだな……」


 テオに聞こえないぐらいの小さな声で、ボソッとつぶやく。




 ゲーム『Braveブレイブ Rebirthリバース』では現状、7つの属性魔術スキルが確認されている。


 まずは【光魔術】【闇魔術】。

 これはそれぞれ勇者、魔王のみが持っている魔術スキルだ。



 残り5つの属性魔術のうち【火魔術】【水属性】【風属性】【土属性】という4つはそれなりに使い手も多く、この世界の住民達の生活にも浸透している。


 ただし残りの1つは……あれはみたいなもんだろう。




 ある時ゲームにおいて1人のプレイヤーが偶然『あの属性』を発見。

 それはまさにだった。


 7つ目に発見された新たな属性の存在は一般には知られておらず、他の6つの属性とは全く異なる性質を持っていた。

 プレイヤー達はその属性の魔石を使った魔導具を競うように研究し、夢のような魔導具を数々作り上げた。電話のように使える通信魔導具の開発時には、同時にそれを使って発生するイベントも多数発見され、プレイヤー達が歓喜したのだ。



 様々な発明が生まれた中で、最も大きな発明と言われるのは、あの有名な『どこ○もドア』を元に開発された魔導具『自由転移扉テレポーテーションドア』だろう。


 1度行った場所ならどこでも一瞬で行くことが出来る『自由転移扉テレポーテーションドア』。

 あの革新的な魔導具を、もしも本当に手に入れることができたなら…………。






「……タクト?」



 急に聞こえたテオの声で、俺は現実に引き戻された。



「ど~した~? マヌケな顔になってたぞ?」

「すまん、ちょっと考え事してた! せ、生活魔術って便利だよな!」


 慌ててそう答えると、テオは「そーだな!」と笑って返し、そして話を続ける。


「最後は、戦闘魔術について話すぜっ」



 『戦闘魔術』は、戦闘時に使うために特化して発達した魔術だ。

 それぞれの属性魔力を具現化し、攻撃や防御などに使う。

 

 攻撃に使う場合は、具現化したものを直接敵にぶつけるのが主となる。 

 スキルLVが高いほど扱える魔力量も増えるため、攻撃威力も上がる。


 またどのような形に具現化するかでも威力が変化する。

 例えば同じスキルLVの場合、球形にして具現化する『オーブ系』魔術よりも、鋭い矢のような形にギュッと圧縮して具現化する『アロー系』のほうが攻撃威力は遥かに高い。



 他に【魔術付与エンチャント】スキルを使い、武器や拳に魔術を纏わせる方法も知られている。


 習得条件が非常に易しいため【魔術付与エンチャント】スキル自体を習得している者は多い。だが自分が装備する武器にしか纏わせることができないため、自身が武術にも魔術にも通じていないと扱いが難しい。

 大抵の魔術師は魔術特化型であり、あれもこれもと器用にこなせるような術師はほとんど存在しないことから、【魔術付与エンチャント】を実戦に活かそうとする者は非常に少ない。

 



 戦闘中の防御に魔術を使う場合は、具現化したものを盾のように使ったり、味方に纏わせて鎧のように使ったりするのが主だ。

 これまたスキルLVが高いほど扱える魔力量も増えるため、防御力も上がる。


 盾のように使うパターンの基本は、『ウォール系』だろう。

 火壁ファイアウォール水壁ウォーターウォールなど、地面に直角な真四角の壁を出現させる。

 この『ウォール系』を元にした、『障壁バリア系』――対象を囲むように半球形の壁を発生させる術式――などの派生形が多数存在する。


 そして鎧のように使うパターンの基本は、『アーマー系』である。

 風鎧ウィンドアーマーなど、名前の通りまるでその属性の鎧を纏っているかのように具現化する術式だ。





「……で、戦闘魔術において最も重要なのは、だっ!」


 特に強調するように言ったテオは、属性の相関図を地面に描きながら説明する。


 

「火は、風に強く、水に弱い。火・土と相殺」

「水は、火に強く、土に弱い。水・風と相殺」

「風は、土に強く、火に弱い。風・水と相殺」

「土は、水に強く、風に弱い。土・火と相殺」



「……ここまではOK?」

「ああ」


 属性の相性に関してはゲームと全く同じ理論だったため、俺はすんなり受け入れることができた。



「じゃあここで問題! 小鬼の洞穴のボスであるゴブリンリーダーは『土の魔物』、つまり肉体が土属性の魔力でできています。火・水・風・土の4属性の中で、どの属性で攻撃するのが1番ダメージを与えられるでしょーかっ?」

「風属性だな」

「あったりーっ! これでひととおり説明したと思うけど、何か質問あるか?」


 一瞬考えてから答える。


「……今のところ大丈夫。何かあったらまた聞くかも」

「OK!」

「詳しくありがとな。色々参考になったよ」

「またいつでも説明するぜっ」

「助かるよ。じゃ、本題いくか!」



 ここまではあくまで下準備。

 ボス攻略のための具体的な戦力アップは、ここからが本番だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る