第26話「こんな時、頼りになる人(2)」


 ダガルガとはエイバス冒険者ギルドのギルドマスター執務室でしばらく話したあと、ウォードと同じく夜に再び会おうと決めた。


 業務中であったダガルガは仕事に戻る。


 俺達2人はダンジョンで手に入れたドロップ品をギルド窓口で売却後、休息がてらしばらく街で時間をつぶしていた。






 その夜。


 まず先にウォードと落ち合った俺とテオは、自分達が泊まる宿屋・野兎亭の客室へと彼を連れて行き、諸々の事情を説明する。



「……っていうわけなんです。ウォードさん、力を貸してもらえませんか?」


 説明が終わったところで、黙って聞いていたウォードは重い口を開いた。


「……力を貸すとか貸さないとか以前の問題としてよ……その話、本当なのか?」

「え?」

「言っちゃわりぃが……おめぇが勇者だってのが信じられねぇんだ」

「そ、それは……」



 ウォードの言葉が、胸にずしっと突き刺さる。


 特に助けてもらったあの2回――空腹で死にそうだった姿、オークジェネラルに追われる姿――を見られている以上、俺の言葉に説得力があるわけがない。



「タクトは本物の勇者だよっ! ステータスの称号に『勇者』って書いてあるの、【鑑定】スキルでちゃんと確認したし!!」


 テオが必死に加勢してくれるものの、ウォードは表情を崩すことなく否定する。


「確かに【鑑定】は便利なスキルだがよ……それを簡単にくつがえしちまう【偽装】とかいうスキルがあると言ってたのは他でもない。テオ、おめぇじゃねぇか」

「あ……」


 テオの目が泳ぐ。

 どうやら心当たりがあるらしい。


「だからよ、ステータスの情報だけじゃ裏付けにはなんねぇな」

「……」


 テオは何も言い返せなくなってしまった。




 さすがに気まずいと思ったのか、ウォードは少し笑って言う。


「ま、タクトが勇者だって証拠を、この目でしっかり確かめられたらよ……力でも何でも貸してやるさ」

「証拠……」



 エレノイアやイアンの時は『神様からのお告げ』があった。

 テオは自分から、俺が勇者であると確信して動いていた。

 そしてダガルガは……ただ真っすぐに信じてくれた。


 だけど、この世界の人にとって『勇者』は特別な存在だ。

 むしろ俺が何もせずとも信じてくれた今までが特殊であって、普通はウォードのように「証拠を見せてほしい」と思うものなのだろう。


 勇者である


 というかそもそも勇者って何だろう……。




 ここまで考えたところで、俺はあることに気付いた。




「「【】!」」



 どうやら同時に同じことを思いつき、同時に言葉を発したらしい俺とテオ。

 お互い目が合い苦笑い。




 【光魔術】は、この世で唯一『勇者』だけが扱える魔術である。

 そして『勇者』とは、【光魔術】が扱える者のこと。


 『勇者』と【光魔術】は切っても切り離せないものなのだ。





 同時発言に少し驚いた顔をするウォードだったが、気を取り直したように言う。



「……そうだな。【光魔術】見せてくれるってなら……信じるぜ」



 俺は黙ってうなずき、瞳を閉じて詠唱の準備を始める。



 ウォードに信じてもらいたい。

 そんな気持ちからか、いつもより不思議と気合いが入っているような気もする。



 

 しっかりと集中力を高め、そして唱えた。


「……光よ集え。光球ライトオーブ




――ポウッ




 俺の詠唱にこたえるように現れたのは、ひときわ白く輝く光の球。

 言葉を失ったウォードは、ただただポカンと目の前の光球を見つめていた。





「これで、信じてもらえましたか?」

「……ああ」


 若干戸惑いを残しつつ、ウォードは言葉を選ぶようにゆっくり口を開いた。


「……疑って……すまんかった」

「いいんです! 逆に、疑ってもらえたからこそ気づいた事もありますし」

「そ……そうか?」

「はい! ……あの、ウォードさん」

「なんだ?」

「改めて、俺達に力を貸して貰えないでしょうか?」

「……おう。出来る限りやらせてもらうぜ」



 俺とウォードは、笑顔でがっちりと握手を交わすのだった。

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