9回目:佐桐霧宗<心に燃ゆる昏き炎>
「……なんだよこれ。まさか異世界転生ってやつじゃないだろうな……」
まさかの異世界転生だ。そして私があなたを転生させた女神様なのである。
「……ああ、クソ女神ってのは本当にいるのか」
は?
いきなり、何を言い出すのか。
「せっかく死ねたと思ったのに。あれで全部終わったはずだったのに」
「……みんな、みんな壊れてしまえばいい」
どうやら危ない人物を転生させてしまったらしい。生前の彼は、寡黙で、真面目で、困難を前にしても諦めずに一歩ずつ前に進んでいく、そんな不屈の精神を兼ね備えていたはずなのに。
「は、ははは、は、は、はははは」
感情のない乾いた笑いが、道行く人々の視線を集める。
「これが本当に異世界転生なら、今の俺には世界を救えるほどの力があるはずだ」
「おい、
様子のおかしい
「おれに触るな。クソオヤジが」
一撃が、風を切る。
だが、男は微動だにしなかった。
「……あ?」
先程とは打って変わって不機嫌そうな声を発した男の額に、血管がピクピクと浮き出ている。
「な、何故だ。どうして生きている!?」
「ああ?こんなへなちょこな
そう言うや否や、男の
「ぐべぼぁっ!」
殴られた頬を押さえながら
「えうぇえっ!いいあいあうぃうるんあ゛!!」
何を言っているのか聞き取れない。赤く腫れ上がった頬が痛々しい。しかし、この程度は問題ない。ここからが
男は目を見張った。
その人間離れした回復力に、だが、男は
「へえぇ。これなら何度殴っても問題ないってわけだ」
「……いや、待ってくれ。ここは、平和的に話し合おう」
「いいだろう。何か言うことは?」
相手の聞く耳を持ってくれそうな雰囲気に
「さっきは悪かった。あれは何かの間違いなんだ」
そう言いつつ、ゆっくりと男に近付いていく。
「おれは異世界転生者だ。おれに不可能はない。おれに壊せないものなどないんだ」
男は
「だから、今度こそ……我が
「はああああああ!!!」
「……」
「あああああぁぁ…………ぁぁぁ……」
「……」
「……いや、本当にすまな……ぶべぁっ!」
またもや男に殴り飛ばされた
――二日後。
「おい、キリムネ!ちんたらやってんじゃねえ!」
「はい、親方!」
行く当てのない
とりあえず、今回の件ではっきりしたことがある。それは、再生能力だけ高くしても世界は救えそうにない、ということだ。
この教訓は次回以降に生かそうと思う。
それにしても、そろそろ一度くらい世界を救ってみたいものだ。
そう考えて、私は軽いため息をついたのであった。
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