第9話 討伐体験

「さて、じゃあ今日は実際に幽体離脱して外を歩いてみましょうか。

 「討伐」の体験ですね。付き添いは誰が行きますか?」


「はーいっ!」


 愛さんの提案に、元気良く手を挙げたのは2人。

 樫儀さんに京さんだった。


「京ちゃんは私とお留守番だから、樫儀さんですね」


「ちょっと愛ちゃん。それは無いよ!」


 あっさりと京さんを候補から外す愛さん。

 それに明るく突っ込みを入れる京さん。


「京ちゃんは「扉を封じる力」専門でしょ。

 それじゃ、いざという時に、朝生さんに降りかかる危険から守れないでしょう」


「それはほら、頑張るからっ!」


「それで何かあったらどうするの?」


「裸踊りでも何でもするからっ!」


「別に京ちゃんの裸踊りなんて見たくないよ!」


「あら、私は見てみたいかも。京さんの裸踊り」


 可愛い姉妹喧嘩をしている中に、露草先輩が水を差す。


「露草先輩の命令なら仕方ない! 狩野京、脱ぎます!」


「やめなさい!」


「はーい……」


 不思議と寂しそうな声を出す京さん。

 裸になりたかったのだろうか。


「ま、裸踊りが見たいっていうのはウソだしね♪」


「ウソかいっ!」


 ハイテンションで突っ込みを入れようとする京さんの手を軽く避けながら、

 露草先輩は言葉を続ける。


「それはともかく、愛さんの言う通りよ。

 樫儀さんなら悪魔を討伐する能力があるけど、京さんには無い。

 いざ、朝生さんを守るとなると……」


「そこはほら、頑張るから!」


「頑張ってもらうのは構わないんだけど、

 それで朝生さんを守れなかったとなれば、責任はどう取るつもりかしら」


「うぐっ……」


 珍しくおしゃべりな口が止まる。


「私が行ってもいいんだけど、せっかく立候補者もいることだし、

 その意志を尊重してあげたいかな」


「もー、露草先輩。それじゃ、もう決まってるようなものじゃないですかー」


 ぶうたれる京さん。

 それに反して、パッと明るい表情になるのは樫儀さんだ。


「じゃあ、私が一子と一緒に行っていいんですかー?」


「えぇ、むしろお願いするわ。よろしくね」


「よろしくされたでーす!」


 くるくると回って喜びを表現する樫儀さん。

 そして器用に回転したままこちらに近づいてきて、私の正面に来て止まる。


「これからずっと、俺の味噌汁を作ってくれないかーです」


「何でプロポーズ」


 思わず突っ込みを入れる。

 それに対し、満面の笑みで返してくる。


「違ったですかー。まあ、あれです。

 一子は私がしっかり守るですから安心してくださーい!」


 なるほど、そういう意味だったのか。

 まだ日本語は難しそう……

 というより、語彙の情報源に一抹の不安を感じる。


「あ、そうだ、樫儀さん。

 ついでに、言葉使いについての注意事項も色々教えておいてあげてね」


「分かったでーす! じゃあ一子、行くですよー」


 露草先輩の言葉を聞いているのかいないのか。

 私は、よく分からないまま、腕を引っ張られて、

 昨日と同じ暗い部屋へ入っていくのだった。





「あらー、一子。今日はツンツルリンじゃないんですかー」


「……ツンツルテンってことかな?」


「あ、それでーす!」


 どうやら、幽体になった際に、裸になっていた私を期待していたようだ。

 でも残念。

 一度犯した過ちは繰り返さない。

 無難に制服を思い浮かべるだけで、見事いつも通りの私が再現出来た。


 一方、樫儀さんはというと、前と同じ羽織だった。


「いってらっしゃい。気をつけてね」


「はーい、いってくるでーす」


「樫儀さん、よろしくね」


「ボクの代理なんだ、頼むよー」


「京ちゃんよりは頼りになるから大丈夫」


 露草先輩と狩野姉妹に見送られ、廊下へ出る。

 と、そこへ露草先輩から一言。


「別にいいんだけど、何でわざわざドアから出るの?

 そこらへんから出ればいいのに」


「大和撫子たるもの、常に礼節をわきまえるでーす。

 じゃあ一子、いきましょー!」


 そのまま廊下を歩き、昇降口へ向かう。

 鼻歌交じりに歩いている樫儀さん。

 私は、先輩の言葉が気になって樫儀さんに聞く。


「先輩の言っていたことってどういうこと?」


「私たち、今は幽体ですからねー。そこらへんの壁だって抜けられるです。

 でも、そこは大和撫子のたしなみ。きちんと玄関から出ましょー」


 なるほど。

 何かこう、樫儀さんらしい感じだ。

 ただ、そんな風に言われると、靴は上履きをイメージした私は、

 そのまま出るのに少し抵抗が出てくる。

 それを気にしつつ、ふと樫儀さんの足元を見ると、樫儀さんは長靴だった。


 羽織にそれは無いでしょ。

 

 と、心の中で突っ込みを入れた。

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