第72話 創作

 イオリ達は、ユリネの案内でワダツミの里に向かっていた。ワダツミの里は佐々木の屋敷から数時間もあれば辿り着く。ちょうどお昼時には到着する予定なのだが一時間程歩いた所でミツキが意を決したように語りかけた。


「お腹空いたね、イオリ」


「ミツキ、お前朝ごはん食べて無いのか」


「あーーっ、だって寝てないから気持ち悪くてさあ、朝ごはんは食べ損なったんだよ」


「だけど今日はカニ饅頭を食べに行くんだぜ。今食べたらダメだろ」


 イオリはミツキが想像していた通りの答えを返した。だがここで引き下がる訳にはいかない。

 それがミツキの食戦士としてのプライドだった。


「でも二日酔いには迎え酒ってのは常識でしょ。だったら迎えメシもあるはずよ」


「ねえよっ!」


「だったらおやつを食べてやる」


「飴ならいいぞ」


「えええっ、飴はもう食べちゃったよ」


「はやっ!?」


「ミツキさん、私が用意したお弁当があるから良かったらどうぞ」


 にこやかに笑うルリの姿に自分は、もしかして今まで、とんでもない勘違いをしてたんじゃ無いかとミツキは思った。ルリと言う娘は外見だけじゃなく、中身までもが天使なのかも知れない。


 イオリとの仲の良さにイライラしていたけど所詮妹なのだから、ヤキモキすることも無かったのだ。だって将来は自分の妹に……

 そこまで考えている自分の妄想に気付いて顔が赤くなるミツキ


「わっ、ルリさん、ありがとう! いえルリちゃん、もうそう呼ばせてもらうわ」


「構わないですよ、私もオミツさんと呼んでいいかしら?」


「…………ミツキでお願いします」


 ミツキは、ルリの弁当を受け取り、イオリに休憩を要求した。


「私からもお願いします。少し疲れたようですから」

 ネネもイオリに申告する。恐らくミツキに気を使っての事だろうとイオリは思った。


「わかった、急ぐ旅でもないし少し休むか」


 ちょうど道の脇に原っぱがあり、一同はそこに腰を下ろした。イオリの隣にはルリとユリネが座り、少し離れてクダンとネネが並んで座った。

 ミツキは、ひとり離れた場所に陣取った。


 キラキラした眼差しで弁当の包みをあけ蓋をとるミツキ。



「は、はぎゃあああ!」


「ど、どうしたミツキ!」


「お、おにぎりがっ! おにぎりが」

 ミツキは、ルリの弁当を見て驚きの声をあげた。


「おおっ、おにぎりか、今日は、普通じゃないか」

 イオリは、 ミツキの側に近づいてお弁当を覗き込んだ。


「は、はあっ!? こ、これは!」


「一体どうしたのですか? イオリ様。ルリ様のお弁当に感動したのはわかりますが、あまり騒がしいとぶち殺しますよ」


 ユリネは、半ば呆れた様子でイオリとミツキのもとに近付きやはりお弁当を覗き込んだ。


「うっ! あ、いえ、あの、お、美味しそうだわ」


 その弁当は確かにおにぎりだった。いわゆる塩むすびというものだった、しかしその中身の具材は天むすのようにおにぎり本体に突き刺さっており、タワーのようにその存在を堂々と主張していた。


「羊羹か?」


「羊羹ですね」


「羊羹ね」


 チラリと弁当の製作者の方を振り返る三人の眼にウルウルとした表情で俯くルリの姿があった。


「だめ……かなっ……」


 ルリの消えそうな声にブルブル首を振る三人


「いやぁ、ちょうど甘い物が食べたかったんだよな」


「奇遇ですねイオリ様、疲れた時は甘い物と決まってますよね」


「ほ、本当におはぎの進化系、美味しそうね。そうだ疲れているネネさんもどうぞ」


 ミツキは、ネネにおにぎりを手渡した。


 パクリと躊躇なく食べるネネにギョッとする三人組。


「あら、美味しい! ルリさんのアイデアですね」


「「「えっ!?」」」


 驚いた三人組は、おにぎりをかじってみた。


「あれ!? 美味いぞこれ」


「なんでコレ美味しいの?」


「ルリ様の作ったものがまずい訳ありません」


 意外に米と羊羹は、相性が悪くないのだった。


 皆の美味しいという声を聞き、ようやく青空のような笑顔を取り戻したルリであった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る