第45話 特訓

 レイドの街からメイデンまでは、結構な距離がある。しかも道中は、山間を進まなくてはならない。


「「無理だな!」」

 俺と小村丸先生の声が、ハモった。


「ち、ちょっと、待った!!!」

 納得いかないのかミツキは、不服そうな声を上げた。


 今回のメイデンへの調査にミツキを連れて行くのは、難しいだろうとの俺と先生の判断だった。


「あたしが、できる子なのはイオリが一番良く知っているはず。戦力ダウンもいいところだよ」

 必死に営業アピールを仕掛けるミツキ。


「だけど、今回は、途中に団子屋は、無いみたいだぜ」


 ミツキは、俺の告げた事実にえっという顔をした。どうやら知らなかったらしい。


「そそ、それは、か、関係無いよ」

 ミツキは、ひどく動揺していた。


「ミツキ、今回はイオリ殿の負担になるかも知れない。残念だろうけど諦めなさい」

 小村丸先生は、ミツキを優しく諭した。


「わかりました……」

 ミツキの言葉に俺と先生は、ほっと息をついたのだが……


「だったら行ける体力が付けば良いという事ですね」

 ミツキのこの頑固さは、誰に似たのだろうか、俺の視線に小村丸先生は、眼を逸らした。



 その日からミツキの特訓が始まった……



 雨の日も風の日も太陽の照り付ける日もミツキの特訓は、続いた。ひたすら重い荷物を背負って階段の上り下りを続けたのだった。もちろん俺が付き合わされた事は言うまでも無い。


「ミツキっ、あと一往復で団子だぞ」


「はあ、はあ、わかったイオリっ」


 Run&Dango これがミツキのプレイスタイルだった。


 特訓の成果が出たのかミツキは、以前とは、比べものにならない体力を手に入れた。


 ただ俺には、どうにも引っかかっている、ひとつの疑問があったのだ。


「先生、今更なんですけど、転送術で移動できないんですか?」


 俺の言葉に小村丸先生は、あっと言う顔をした。確実に忘れていたようだな。


「イオリっ、転送術は、そこに行った事が無いと使えないん……」

 ミツキは、話している途中で行ったことのある人の存在に気付いたようだ。


「あんなに努力をしたのに……」

 そしてミツキは、小村丸先生をジト目で見た。


「ミ、ミツキも狙い通りに体力が付いたから、逆にイオリ殿を助ける事が出来そうで良かったよ」

 天才小村丸らしからぬ苦しい言い訳であった。


「ミツキ、今回の調査が危険だって事はわかるよな、真面目な話、やばい時には逃げる必要があるとは思うんだ。もちろん命を賭けてお前を守るけど少しでも保険はかけておきたいんだ」

 嘘では、ない……よね、俺の言葉。



「い、命を……かけて……大切な私を」

 ミツキは、別のところに食い付いた。しかも内容が少しアレンジされているような。

 顔も少し赤いように思えるのは、きっと気のせいに違いない。



 それ以上、文句を言わなくなったミツキに先生と俺はひとまずホッとしたのだった。


 先生との話が終わった俺とミツキは、ネネの部屋を訪ねた。メイデンの街に行く事を伝えておこうと思っていたからだ。


「そうですかイオリ様、しばらくは寂しくなりますが、足手まといになりますので、私は、ここでお待ちしております」

 誰かに聞かせてやりたいセリフだった。


 その誰かは、まあ任せなさい見たいな事をネネに言っているのだが。


 その晩ミツキとネネが風呂に行ったタイミングに俺は再び小村丸先生の部屋を訪ねた。どうしても相談しておきたかった事があったからだ。


「なるほど、わかりました。私もイオリ殿の考えに賛成ですから」


「それでは、よろしくお願い致します」


 メイデンには、明日出発する事になった。

 俺は、その事をミツキとネネに伝える為に急いで風呂に向ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る