第36話 占石

 女達を解放した後、俺とミツキは、夕飯食べてから宿に向かう事にした。

封印して持って来た氷堂の妖刀もあるし、このまま宿に行くのが最善なのだろうが、ミツキのお腹が許してくれそうもない。


「あの、助けてくれてありがとうございます。ですが、実は私は帰る場所がないのです」

 囚われていた、女の一人がそんな事を言った。先ほど解放した女達は、他には、もう誰もおらず、ただひとりここに残っていたのだった。


「帰る所がないって遠い場所から来たってことかい?」


「いいえ、私には身寄りが、ないのです。図々しいお願いなのですが、どうかしばらく一緒に連れて行っては頂けないでしょうか」


 ミツキが、訴えるような顔でチラリと俺の方を見た。

 やれやれ、身寄りがないのはミツキも同じだ、考えてる事は、言わなくてもわかる。


「俺たちは、レイドの町に行く途中なんだがそれで良かったら一緒に来なよ」

 俺の言葉にミツキは、嬉しそうな顔をした。


「ありがとうございます、助かります。私は、西園寺ネネと申します」


「俺は、イオリ、こっちがミツキだ」


「イオリ様とミツキさんですね、宜しくお願いします」

 ネネは、品のいい話し方をする。もとは、いい家柄の娘だったのかも知れない。


 俺達は、連れ立って繁華街の方に向かった。


「うな丼3つ下さいなーーーっ‼︎」

 ミツキのテンションは、かなり高いようだ。


「ミツキ、お前、零度に悪いとか思わないのか?」

 零度は、うなぎを食べ損ねていたからだ。


「あたしは、仲間の夢を叶えたいんだよ」

 いや、ちっともいい話に聞こえないんだが……


「私が、こんなに高価なものをいただいてよろしいのでしょうか」

 ネネが、遠慮がちにそんな事を言って来た。


「気にしなくていいよ、ちょうど旅の連れがひとり減ったからそいつの代わりに食べてやってくれよ」

 今度、零度が出て来たらきっと文句をいわれるに違いないだろうな……


 ネネは、歳の頃合いは同じぐらいだろうか、薄い紫色のきものに長いさらりとした髪を後ろで結んでいた。色の白い整った顔立ちは、巫女装束とかがよく似合いそうな印象を受ける。


「なあ、ネネは、なんであいつらに捕まっていたんだ」

 俺は、ふと思った事を口にした。


「実は、私は占い師をやっておりまして遊び半分に自分の事を占ってみたのです、そうしたらあの場所で重大な出会いがあると出ましたのでそれを確かめに来たらあんな事に……」

 占い師が自分の事を占わない方がいいというのは、どうやら本当らしい。


「ふふっ、でも重大な出会いは、当たっていたようですね」

 ネネの言葉にミツキがピクリと反応した。


「重大な出会いは、きっとわたしと出会ったことかも知れないわ、ネネさん」


「そうかも知れないですね、そうだ、お礼と言ってはなんですが何か占ってみましょうか」

 ネネは、にこにこしてそう言った。


「えっ、いいの! じゃあ、わたしの重大な出会いをお願いします」


 わかりましたと言ってネネは、皮袋から綺麗な色の石を出した。 何色があるようだ。

 俺の思っていたような長い箸みたいな棒をジャラジャラやるものじゃないらしい。


 ネネは、石で陣の形を作り呪文の詠唱を始めた。うなぎ屋にとってはいい迷惑だが始めてしまったものはしょうがない。


 やがて青い光の陣が浮かび上がり、さらに白い光の文字のような記号を形成した。


 記号を読み取ったネネは、少し驚いたような顔をしたが、すぐにもとの表情に戻ってミツキに内容を告げた。

「ミツキさん、あなたはもう既に重大な出会いをいくつかしていますね、そのうちの一つは、ごく近い内にハッキリするでしょう」


「えっ、ひとつじゃなくていくつか」

 イオリとの出会いは、あるとしても、いくつかは思いあたらない。

 ひとつがハッキリするってまさか、イオリがわたしに……。そういえば、何かにつけてイオリは、わたしのことを可愛いとか綺麗とか女神みたいだとか言っていたような気がする。

 そんなことを考えてミツキの顔は、真っ赤になった。


「違いますよ、その事ではありません」

 ミツキの心を見透かしたようにネネが言った。


「な、なな何も言ってないけどあたし……」

 ミツキが、動揺しながら言ったタイミングでようやくうな丼が運ばれて来た。


 結構、気になる内容であったがミツキのお腹の虫を大人しくさせる為、俺たちは、ひとまずうな丼を食べる事にしたのだった。

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