第0.17法 普通じゃない高校生たち
「え、それってどういうことだよ?」
響矢が純粋な疑問を口にした。だが、それに葵は怒った。
「あなたは、兄さんが自分のことをバケモノだといったことがどういうことかお分かりにならないのですか?」
「は?」
「っく、あなたは、普通の人間が、たとえ魔法士でも十三歳で各国各種族との戦争で生き残り、あまつさえ戦果を挙げられると本当に思っているのですか?」
周りのものは唖然とした。葵から出ているものはひとつの殺気だ。だが、それはこの場に居るものではなく、どこかはなれたものに放たれているようなものだった。
「おい、葵、別に言わなくてもいいだろう」
零機が窘めるが葵は聞かない。
「兄さんは、第一世代の人間です。これは馬鹿にするなどということでなく、事実として魔法の行使に向いてはいない。なのに、その第一世代が魔法を行使し、かつ魔術を熟知した吸血鬼に勝つにはどうしたらいいと思います?、簡単ですよ、人体改造です。それも、その名目は私、呪われ血の
「葵、もう黙れ。それに君のせいじゃないだろ俺の魔法があんまり使い物にならないのは。吸血鬼になってからはさっきのが原因でより魔法が上手く使えなくなったけどね。それ以外の原因もいくつかあるんだし、気にしなくていい」
「ですが……!」
葵は泣いていた。その蒼い瞳から出る涙は、逆に零機を強制的に冷静にする。
「泣かないでおくれ。僕はそれに弱い。人格の変化も生じる。それに僕の言ってることは間違っていない。僕の魔法行使が遅かったり、一般開示の魔法の威力が低いのは僕がそういう風に創られていないからだ。呪われた血の女王、それに燐火、呪われた血の
零機は他の五人に問いかける。他の五人はまさか、とでも言いたげな表情を作る。
「零機、お前は国家戦闘級魔法士なのか?」
錬太郎が言った国家戦闘魔法士というのは、国家間の大規模戦闘などで主力になる魔法士で、単独で都市の破壊、それどころか国家を破壊しかねない魔法士のことだ。だが、
「少し違う。僕は才能とか出なく、人工的に創られた国家決戦級魔法士だ」
「国家決戦級魔法士?!」
「あの国家戦闘級魔法を二つ以上使えるっていうやつか?、そんなの普通じゃありえないだろ、いや、現代魔法ならできる魔法もあるんだろうけど、その二つに適正を持つ人間を作り出すなんてもはや正気の沙汰じゃねえな」
麻衣と響矢が唖然とした様子で言った。零機は錬太郎が魔法学などを知っているのはまあ当然といえ、なぜこの三人がここまで詳しいのかが気に掛かった。
「なあ響矢、麻衣、愛理。君たちは確かに第二世代だが、魔法学を学んでいるわけじゃないんだろう?、なぜそこまで詳しい?」
零機の質問に真っ先に答えたのは響矢だ。
「俺は母さんと父さんが軍の情報部に居るからな。その都合で魔法についてもまあまあのことは知っているつもりだ。その俺が魔法学院に行かなかったのは俺の特殊体質にある。俺は回りに飛び交う魔素粒子の『音』が聞こえるんだ」
「なるほどな。俺はさっきまで一般軍人が私情で流せる情報量の限界を超えてると思ったが、そういうことか。感受性心魔感音声難聴か」
「それはなんのことなの?」
零機が言ったことに燐火が反応する。純粋にわからなかったようだ。それは周りのものも同じだった。
「これは西暦2850年くらいに魔法医療学会で発表された病名で、この病を持つものには飛び交う
「いや~ご名答。完璧だ。まあそういうことだ、だから俺には心素粒子が情報を伝えてくる。まあその膨大な情報量の制限のために普段は専用のヘッドフォン、MMGを使ってる。だけど学校にもってくるわけにも行かないから普段はつけずに自分に全く聞こえないように遮断しているけどな」
「響矢はわかったが、麻衣、君はどうしてだ?」
麻衣は少し唸るようにして言い始めた。
「零機君は、剣術、はもちろん知っているよね?」
「ああ、魔法と剣技をかねた戦闘体系のことだろ。そのくらいは常識だ。そうかなるほど。君は柊の剣舞の一族か」
「そうだよ。私は柊の剣舞をつかさどる剣術の大家ってことになってる。まあ剣術の大家っていったら数字付き《ナンバーズ》、一之瀬家のほうが有名だけどね~、だから自衛隊や軍、魔法庁や警視庁魔法課なんかにも顔が広いの。だから私はその次期党首候補として育てられたからいろいろ知ってる。まあ多分党首にはならないと思うけど」
柊一族は2600年前後からできた一族で、剣舞と呼ばれる特殊な剣術を使う。まさに踊るように剣を振るう。そのさまは優雅だ。それに対し、数字付きと呼ばれる魔法発足当時、2500年にできた十士族の名家のうちのひとつ、一之瀬家は堅実な技を極めた剣術の大家だ。発足当時は、第一次魔法大戦の戦力としてその当時に国の長になった戦皇家、綺羅姫についていたが、今はどちらかというと東雲よりの名家だ。まあ家ひとつでも十分な権力と魔法力を持っているのだが。
柊と一之瀬は昔から競うようにして剣術を発展させていった一族だ。ちなみに柊は国寄りの一族だ。
「じゃあ最後は愛理だ。君はなぜそんなにも魔法について知っている?」
愛理はどうでもよさそうに答えた。
「私は、銃術の大家、美輪家の人間。数字付き、八文字家の分家筋の家の人間なの。私は党首候補ってわけじゃないけど、この立場に居れば魔法なんて嫌でも学ばされるわ」
「美輪家、現在の軍における魔銃戦闘の地盤を作った一族か。開発に携わったまさに軍事勢力派の人間ってわけか」
「そういうこと」
十士族のうちのひとつ、八文字家は、軍事魔法に精通した部分のある家だった。軍のなかでもその力は絶対的なものである。その分家となれば軍とも無関係でいれないだろう。
「なるほどね~、こんなオールスター普通じゃそろわない。桐谷は元は東雲家発足当時にできた分家だし、これは仕組まれてたものかもしれないな。ったく軍も回りくどいことしたがって。ここまで知られた上に皆普通の人間じゃないとくると、これから俺が話される内容は聞かせてもいいか。別にいいだろルシファー?」
零機が振り向くと、そこにはさきほどまで居なかった存在が居た。正確にはいたのだがそういう姿ではなかった。さきほどのグリフォンの姿ではなく、傲慢の悪魔は人型になっており、長身のほっそりとした体に黒い執事服を纏った男がそこに居た。
「はい我が主よ。主と
「ならさきに確認したいことがある。お前の主は俺だよな。燐火じゃなくていいのか?」
「その言い方ですと、我々の秘密に触れた、もしくは推察したということですか?」
「まあな」
「さすがは私の主でありますね。そのこともお話させて頂きます」
傲慢の悪魔、それは本来普通の人間が話すことができない高位な悪魔だ。だが、零機はその悪魔を自分の従者といった。そのことに周りのものはまたもや唖然とする。
「さしあたってはまず、我々、七つの大罪の話から申し上げましょうか」
そしてその男の姿をした悪魔はまたもや世界的にも禁忌にふれるような話を始めた。
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