他のお客様のご迷惑になりますので

        【浅井 3】



「運命って信じてる?」


 喧々諤々けんけんがくがくと議論を交わしていた〈エイブラハムの樹〉の意見がまとまったのはドラム担当の女性、美波の発言がきっかけだった。東欧系の香りがする、端整な顔立ちの彼女は長い黒髪を掻き上げ、意志の強い眼差しで浅井を見つめていた。身震いしそうなほどの透明感の中枢にある決意は強く、浅井にできたのは訊き返すことだけだった。


「運命?」

「そう、運命」


 使い古されたちゃちな響きだ。身体の奥深くが痒くなる気さえした。


「あの、赤い糸で結ばれてる、とか、そういうの?」

「いや、そうじゃなくて」美波は口ずさむかのように、続ける。「この世のありとあらゆる出来事は事前に決定していて、覆せない、って私は考えてる」

「美波、何が言いたいんだ?」


 結論を急いだのか、金髪の桐悟が声を荒らげる。しかし、当の美波は彼の態度など意に介していない。どこか遠くを見据えているような表情で、泰然として立っていた。


「浅井が言ったとおり、私たちが口にしてた『いつか』を今に、『誰か』を浅井にしてもいいんじゃない?」


 年下であろう美波が無遠慮に呼び捨てにしたことなどどうでもよかった。むしろ彼女の発言からは初対面であるにも関わらず、信頼めいた感情が読み取れる。その正体が何かわからなかったが、喜びが腹の底からこみ上げるのを感じた。


 美波の発言に感銘を受けたのは浅井だけではない。議論の間、終始静かだった滝が「わたしも!」と声を上げた。「わたしも、もっと誰かに聴いて欲しい、なあ、なんて」

「お前ら正気かよ、いきなり出てきたやつの口車に乗るなんてどうかしてる」

「でも、ドアは開いたでしょ?」

「あ?」

「この店作ったのはいいけど、私たちずっと停滞してたじゃない? 誰も来なかったし、もう限界って桐悟も気付いてると思うけど」

「なんの限界だよ」桐悟は低く沈むような声を出す。「なんの限界だ?」

「我慢の限界。そろそろ外で息を吸いたいと思わない?」

「だからってこいつに何かを頼む理由にはならねえだろ」

「でも、桐悟くん」怯え混じりに滝が割って入る。「浅井さんが初めてだよ? わたしたちの音楽をこんなにいいって言ってくれた人」

「……それも理由にはならねえだろうが」

「十分だと思うけど」美波の言葉は確固たる響きを持っていた。「人の出会いなんて順番でしょ? 誰よりも先に浅井が手を挙げた、私たちにとってはそれが何より重要なんじゃない?」

「試用期間とか、どうかなあ」


 おずおずと向けられた滝の視線に浅井は強く頷く。


「それでも構わない。きみたちと関われるなら」


 そして、もう一度、「どうする」と訊ねた。それに併せて滝と美波、桐悟がそれぞれの思いを込めて他のメンバーに目をやる。後ろに控えていた隼と良志はしばらく押し黙っていたが、やがて底抜けに明るい声が響いた。見れば、ボーカルの隼が威勢よく手を挙げている。


「桐悟には悪いんだけどさ、口車に乗るよ」

「おい、隼」

「どっちにしたって俺、今日のことがなければ黙って何かしてたと思うんだよね。浅井? さんのことは意味わかんないけど協力してくれるならありがたいじゃん。別に俺たちから取れる物なんて何もないし」

「これで賛成が三人」と美波が呟く。

「こういうのは多数決じゃねえだろ」


 桐悟は苛立たしげに頭を掻きむしった。彼の中には事前に計画があったのかもしれない。流れに身を任せることに納得していない雰囲気があった。

 隼と滝が異口同音に「やろうよ」と声を上げる。「どうするの」と美波が良志に目を向けると、その場の全員の視線が、長身のギタリスト、良志の元へと導かれた。寡黙を絵に描いたような造形をしている彼は無表情のまま、全員を一瞥し、それからゆっくりと首を横に振った。広大な大地を思わせる低音で彼は言う。「俺は反対だ」


「マジかよ! そんなこと言うなよ!」

 隼が狼狽し、良志へと詰め寄る。滝が泣きそうな顔になり、美波は彼の意見が気に入らないのかぴくりと眉を震わせた。桐悟が当然だと言わんばかりに短く息を吐き、良志の隣へと歩み寄る。


「俺だけならまだしも良志が反対してんだ。こいつが今まで間違ったことを言ったの、聞いたことあるか? ねえだろ? 今回は諦めろって」

「今までと今は違うと思う」

「違わねえよ、美波。お前も強情だな。早く思い直せよ」

「俺は反対だが、桐悟」


 良志は無表情のまま、隣にいる桐悟に目を向けた。


「俺たちの負けみたいだぞ」

「……おい、良志、何言ってんだ」

「正直、彼が俺たちの演奏に感想を述べたとき、俺もかなり感激したしな。それに美波はどうしようもないくらい頑固だし、放っておいたら隼は勝手に変な行動を起こす」

「だけどよ」

「桐悟、俺たちは今までどうやればいい演奏をできるか、それくらいしか考えてこなかった。おかげでどうすれば多くの人に届くのかに関しては素人も素人だ。それをやってくれるならいいんじゃないか? だめだったらきっぱり縁を切ればいい」

「桐悟、四対一」美波はわずかに笑みを浮かべる。「良志の言うことが間違ってたこと、ある?」


 桐悟はぐっと息を呑み、喉の奥でかすかに声を漏らした。何と言ったのか、浅井には判然としなかったが良志には聞こえていたらしく、彼はわずかに顔を綻ばせ、桐悟の肩を力強く叩いた。


「浅井さん」


 そして、彼は浅井のほうへと向き直り、人一倍大きな身体を折り曲げてゆっくりと頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 それに追従するように隼と滝、美波が恭しく礼をした。ただ桐悟だけが歯噛みし、気に入らなさそうに浅井を睥睨している。だが、やがて彼も一人の力だけでは太刀打ちできないと身に染みたのか、憎らしげに舌打ちをし、盛大な溜息を漏らした。


「ちゃんと責任持つんだろうな」

「任せろだなんて無責任なことは言えないけど、全力は尽くすよ」浅井は胸を叩く。「もしきみたちが若気の至りで失敗しても責任は取るし」

「時間の無駄でした、なんてことになったら血反吐吐くまで殴るからな」

「そうなったら俺もやるから安心しろ」

「良志がやるんなら俺も浅井さんをぼこぼこにするかな」

「スティックで突くくらいは許されるでしょ」

「ならわたしはベースの弦で首を絞めたらいいのかな?」

「勘弁してくれよ」

「おい、浅井、何から始めるんだよ」

「まずはきみたちのことを知らないとな」


 浅井は苦笑しながらステージを指さした。壇上で彼らの楽器が今や遅しと演奏を待ち焦がれている。〈エイブラハムの樹〉を独占できるのはこれが最後かもしれない。浅井一人のために行われる演奏を心から楽しみに、指示を出す。

 至福の時間が始まる。


          〇


「結局、普段と変わりなかったじゃねえか」


 桐悟は狐色に揚げられたポテトを口の中へと器用に放り入れ、げっぷと一緒に不平を漏らした。行儀の悪さに美波が顔を顰めて「ちょっと」と窘める。彼らの向かい側、浅井の隣に座る滝はグラスの中で揺れ動くストローを口で捕まえるのに四苦八苦していた。

 安さと早さが取り柄の若者向けレストラン――場所を貸しているだけの店なのか酔狂なイメージプレイなのかはわからない――の一角、浅井たちは少し早い夕食を摂っていた。隼は〈ヤーン〉へ、良志はライブハウスで店番しているためここにはいない。


 夕から夜に変わりつつある空が窓ガラス越し、ところどころをビルで隠されながらも広がっている。夕暮れの橙と夜の暗い青が混ざった空は紫に近く、細い雲が放射線状に棚引いていた。

 店内は混雑していないもののそれなりに賑わっている。浅井たちの他に三組ほど客がいて、それぞれが遠慮のない声量で笑い声を上げていた。おそらく学生と思われる男たちは互いに対抗意識を燃やしているのかもしれない。一組が高い歓声を上げると、残る二組も呼応するように喧しく騒いでいる。警戒すべき一線を越えそうなのか、店員が厨房から顔を覗かせていた。


「別にもっと美味い店でもよかったんだけどな」


 浅井は萎びた温野菜を突きながらそう言った。

 騒々しく、安かろう悪かろうの料理を出す店での食事は売れないバンドマンのステレオタイプとしては相応しいが、落ち着かなかった。学生時代から数えても片手で収まるほどしか利用した経験がないため、どことなく居心地が悪い。


「話を逸らすなよ」

「周りがうるさいから話が逸れるんだ」

「まあまあ、急には変わらないよ、桐悟くん」


 滝が柔和にそう言うと桐悟は足を組み、そうかもしれねえけど、と口を尖らせた。浅井は半ば宥めるようにして、続ける。


「さっきも言ったけど、まずはきみたちのことを知らないとな」

「それはそうだけど、私たちも浅井のこと、何も知らない」

「それだよ」桐悟は苛立たしげにフライドポテトの先を浅井の顔面へと向けた。「滝は前に会ってるらしいからまだいいけど、俺たちにとったら不審者そのものだ。不審者オブ不審者だよ」

「わたしも大して浅井さんのこと知らないよ。どんな音楽聴いてるかくらいだもん」

「まずさ」美波は滑り込ませるような声色で、訊ねてくる。「浅井って何してる人」

「音楽業界の有名人を期待してたら謝るよ」

「一般人かよ」


 ならご破算だ、と桐悟が立ち上がりこの場を去るのではないか、と危惧したもののそうはならなかった。相変わらず厳しい表情のままだったが、彼も浅井の協力にはある程度の納得をしたのかもしれない。だが、すべてを飲み込んだわけでもなさそうだ。彼は示威するようにポテトを乱暴に摘まみ、白い容器に入ったケチャップへと勢いよく突っ込んだ。皿の縁に赤い飛沫が飛び散る。


「私は別に構わないけど。業界に属した人がそばにいることで得られるのって実績に基づく信頼と安定した繋がりでしょ」

「この世でもっとも魅力的じゃねえか」

「でも、今はそんなに力ないし、なくなってどうにかできるじゃない。ただ」

「ただ?」野菜ジュースを飲んでいた滝が小首を傾げる。

「まともにやるなら、お金か時間が必要になる」


 浅井の周囲で盛大な溜息が漏れた。若く、安い賃金で働く彼らにとって金銭と時間の重要性は身に染みていることだろう。仮想現実の中で活動するならば必要のない費用が重くのし掛かり、それを工面するために時間がなくなる。悪循環の中に立たされているのは推測できた。

 だから、浅井が「金が必要なら全部俺が出すよ」と言った瞬間、彼らは呆けた表情のまま固まった。歓喜すべきか困惑すべきか、咄嗟に判断できなかったらしい。


「それは」と桐悟が口ごもる。それを引き継いで滝が首を振った。「それは悪いですよ」

「全力を尽くすって言っただろ?」


 使う当てがなかったために積み重なった貯金は着実に桁を増やしている。投資の成果もあり、誰が見ても大金であると頷けるほど貯蓄があった。


「だから、心配はいらない」

「……あんたさ、素人だからわかってないんだろうけど、俺たちが欲しい機材集めるのにどれくらい金がいるか、知ってるのかよ」

「いくらいるんだ?」


 桐悟たちは少し悩んでから口々に必要な機材の名称を列挙し始めた。浅井は視界にドキュメントソフトを表示させ、一つ残らず記し、検索していく。この国では音楽機材など製造されていないため、オークションや署名輸入でしか手に入れる術がなく、販売価格の倍以上の費用がいるらしかった。音響機材のレンタル業者などいるはずもなく、総計の概算は彼らには手が出ないほどまとまった金額になった。

 あくまで、彼らには、である。

 桐悟たちの間に漂う終末感めいた雰囲気や先入観から貯蓄を使い切る覚悟をしていた浅井はむしろ肩すかしを食らったような気分になった。


「こんなんで済むのか?」

「は?」

「大丈夫、時間は必要かもしれないけど揃えられる」

「ちょっ」桐悟は慌てふためき、手に持っていたポテトを落とした。「ちょっと待て、いくらかかると思ってるんだよ」

「これくらいだろ」


 浅井はメニューを表示させている投影装置のセンサーに指を合わせる。先ほどまで入力していた文書データが画像に変換され、テーブルの上に浮かび上がった。彼らは顔を近づけ、自身がそれまでに上げていた機材があるか、確認していく。漏れはなかったようで、いちように「合ってる」と呟き、それから遠慮がちに「けど」と付け足した。


「浅井って何者?」美波の視線には猜疑心が貼りついている。「何してる人なの」

「公職者だよ。天候管理局に勤めてる」

「エリートじゃないですか! 全然聞いてないですよ、全然一般人じゃない」

「はじめに言えよ、そしたらもっと高い店選んだだろうが」

「俺はそう言ったじゃないか」

「でもいいの? こんな大金返せる当てなんてないけれど」


 美波は滝や桐悟の興奮をよそに極めて冷静だった。しかし、裏を疑った様子ではなく、対価なしに金銭を受け取ることに忌避感を覚えているようでもある。

 音楽で稼げる金など微々たるものだ。目の前に表示されている金額は彼らが返済するには長い年月が必要な額で、単純な数列ながら強烈な存在感を放っていても不思議ではない。美波の長く、白い指がその数字を指し示す。浮かれていた桐悟や滝も何度か確認するうちに項垂れ始めた。金額が錘となって背中にのし掛かっているかのようだった。


「だから、心配するなって」


 浅井はできるだけ軽々しい語調で諭すが、彼らにのし掛かる重圧を吹き飛ばすほどの効果はなかった。むしろ美波はより冷ややかな視線を送ってきている。


「浅井、これはいずれ伝えなければいけないことだから言っておくけど」と彼女は前置きし、間を開けて、言う。「私と桐悟は遊離症に罹ってて仮想現実での活動はできない」

「知ってるよ」


 浅井が隣にいる滝を一瞥すると、滝が申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめん、わたしが教えたの」

「そう、なら話は早い。仮想現実での活動ができないのはとても不利なことでしょう? でも、私たちは人の少ない現実で勝負するしかない。だから、浅井の希望通りの結果にはならないかもしれない」

「それは、ない」


 浅井は根拠なく、断言した。彼らの音楽が社会に染みこまず、弾かれるなどとは到底思えなかった。少なくとも浅井にとって〈エイブラハムの樹〉は退屈な世界を一変させるだけの影響力を持っており、他の市民たちの価値観を強制するほどの力強さを持っている。


「そう言ってくれるのはありがたいし、私もそうであって欲しいと信じてる。でも」

「ならいいじゃないか。俺もきみたちもそう信じているなら」

「私がしたいのは確認」彼女の声色は潔さを伴った清澄さに満ちていた。「見返りもないですし、失敗したとしてもお金を返すつもりはありませんから」


 その率直で角張った物言いに、滝がどこか意味ありげな笑いを漏らした。先ほどまで費用の大きさを目の当たりにして悲嘆に暮れていたというのに、どこか吹っ切れたような印象がある。


「美波って、やっぱり自分勝手だよね」

「だっていやじゃない。後でややこしくなったら」

「それはそうなんだけど」

「大きいことを言うやつに限って器が小さいからな」


 桐悟の侮るような目つきに、浅井は「まいりました」と両手を挙げた。かけた金銭を惜しんで返済を強要するつもりは毛頭なかったが、こうも念を押されるとは想像していなかった。わかったわかった、と相好を崩して首肯する。

 そして、「絶対に返済を要求しない」と確約を与え、それから「ただし、きみたちも全力でやってくれよ」とおどけてみせた。「当然でしょ」と美波は微笑む。ある種の妖艶さが漂った笑みに、浅井は「敵わないな」と目尻を下げずにはいられなかった。


「じゃあ、今度こそ活動予定を決めねえとな」


 現金なもので、率先して話題を戻したのは桐悟だった。彼は机の上に身を乗り出して浅井や滝たちを窺う。すると滝がわざとらしく唸った。


「どうしよっか、やっぱり、音源作らなきゃ、かなあ」

「滝が折角登録してることだしね」

「え」


 素っ頓狂な声を上げた拍子に、滝の咥えていたストローがグラスの中にするりと落ちる。


「美波、知ってたの?」

「知ってたというか、みんな知ってる」

「嘘」と滝は桐悟に向き直った。「桐悟くんも?」


 鼻先が触れ合うほどに近づいた滝に、桐悟はたじろぎ、仰け反った。言葉を濁しながら頬掻く彼の姿に滝は「ばれてたのかあ」と安堵したかのように胸を撫で下ろす。その後で気恥ずかしげに「ディスプレイ隠す必要、なかったですね」と浅井に囁いた。


「まあ、俺も音源欲しいからその案には賛成なんだけどさ」


 同意を示し、浅井はコーヒーを啜る。冷めたコーヒーは香りが飛んでいて、固形のような甘さだけが舌に貼りつくように残っていた。


「せっかく新しい機材を手に入れるんだから今すぐ音源を作るのはもったいないだろ? だからそれまでは曲の調整とか新曲を作るとかかな」

「ああ、ちょっと前に作った曲だから粗が目立つしな」

「じゃあ機材が手に入り次第、音源ですね」

「その前にやって欲しいことがある」

「やって欲しいこと?」


 滝にはそれが見当もつかないらしく、手を顎に当てて考え込み、それから桐悟と美波に「なんだろ」と視線を向けた。既に曲のことに思考が寄っているのか桐悟は生返事だったが、美波は浅井へと目を注いでいる。


「ライブでしょ」


 浅井は口角を上げ、鷹揚に頷いた。なるほど、と滝が顔を輝かせる。正式に人前で演奏するのは初めてだからか、喜色満面に騒ぎ立てた。いいですよね、やっぱりライブですよね、とはしゃぎ、テーブル越しに桐悟の肩を繰り返し叩くと桐悟はうっとうしそうにその手を振り払った。おざなりに返事をし、それから、冷や水を浴びせようとしたわけではないだろうが、「でもよ」と口にする。


「でもよ、ライブったってどこでやるんだよ。路上とかでやったら騒音なんたらで警官が飛んでくるんじゃねえの」

「許可さえあればできるって聞いたことはある」美波はそう返しながらも桐悟に同調を示した。「せいぜい鳩くらいしか観客はいないかもしれないけど」

「場所を選べば運動してる人くらいはいるんじゃないかなあ」

「どうなんだよ、浅井。何か考えあるんだろ?」

「ないよ?」

「は?」

「だって、今日こんなことになるなんて想像してなかったし」

「じゃあなんて自信満々なんだよ!」


 信じられねえ、浅井号はとんだ泥船だぞ、と桐悟は店内に響き渡る大声で喚き立てた。美波が、滝までもが険しい表情をしていたが、それが周囲に頓着せず叫ぶ桐悟にではなく、自身へと向けられていることくらいは自覚していた。

 大丈夫かよ、と桐悟が顔を歪めるのと同時に、慣れた表情の店員に「他のお客様のご迷惑になりますので」と注意されたもの至極当然では、ある。

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