第99.4話「魚ボッチの戦争・後編1」

「格好つけて登場したところ悪いんだけど……馬鹿弟子どもを〆るから先に行くね」

 メイちゃん(大志)の後ろから登場したのは拠点攻略型武装のニャンダーである。

 更には黒子の美少女2名と人形王が談笑しながら続き、苦笑いのアユムがアームさんに乗って神剣を手に現れた。


「……何故……」

『……もののついでだ……』

「それは僕たちだけですけどね」

 照れ隠しのメイちゃん(大志)。しかし普段は不器用な兄役の彼にアユムのツッコミが入る。

 ……時間は1日ほど戻る。

 30階層へ登ってくるモンスターの制圧が完了した。

 ダンジョンウィルスから解放されたモンスターを加え、寧ろ戦力向上した。

 余力が生まれ35階層の救援に向かうと言う話になったときのことである。


『俺も行こう……』

 人形王と供に、つい先ほど着ぐるみファイトで敗れた、メイちゃんが現れた。


『戦闘はしょうがない……』

 悟相手に手も足も出なかった……。


『芸術審査で負けるなんてありえない……』

 お題は『カップルに受けろ!』であった。

 相当の自信を持って挑んだメイちゃんだったが……何故か貧相な着ぐるみに圧倒される。

 敵方は彼氏も彼女にも受け入れられ盛り上がっている。

 しかしメイちゃんとて商店街のアイドル。低予算にもほどがある着ぐるみに負けるわけには……。


『負けたので憂さ晴らしに来た』

 ……本音であった。

 微妙に戦力を向上させた彼らは早速彼らは行動に移った、

 まず35階層への救援。35階層の防衛を確固たるものにしたあとはエレベータの復旧だ。

 復旧させることで35階層へ10階層経由でお茶、酒などの抵抗物質を作成するために必要な物資を届けることができるようになる。

 そしてダンジョンの制御を取り戻すべく深層で奮闘しているダンジョンマスターと悪魔ちゃんと神樹の息子との連絡を取る事である。

 ダンジョンウィルス対策が確立された事を早く伝えなければならない。

 情報は勝利のカギである。

 ダンジョンマスターたちがどこまで制御を取り戻しているか、権兵衛さん達には不明だった。だからはまずは35階層での地盤固めに動いたのだが……。ここで予想外の人物である。


「ダンジョンへの不干渉が約束だが、荷運びぐらい良いだろう?」

 人形王と人間達である。

 権兵衛さんは初めこの状況で人間に介入されることを好ましく思わなかった。

 モンスターとは本来人間を襲うものである。行動原理の奥底にそれがある。

 だからむやみに介入されるのは何を引き起こすのかわからない。

 それ故に権兵衛さんはアユムたち人間の支援は後方のみに限定していた。


「攻勢に出るのであればリスクを抱えることだ……、最低限の保険はあるわけだしな」

 自分を指さしおどける人形王。権兵衛さんは判断しかねていた……だが。


「ボウッ(あいわかった。攻略部隊に入っていただく)」

 決断を下した。人形の言う通り、彼が居る限り万が一はないだろう。

 権兵衛さんはチラリとアユム達に視線を向ける。イックン(神剣)も来ていた。


「ボウッ(くれぐれも無理だけは……)」

「わかっている。攻略部隊の保護者役は任せてくれたまえ」

 こうして彼らは深層派遣部隊を組織した。

 人間はメアリー、リンカー、アユムそして15階層の冒険者たち。

 モンスターはジェネラルオーク率いる戦士タイプ30、魔法タイプ20、それにアームさん。

 特別枠で人形王と黒子の2名。


『さぁ、翔子と魚の馬鹿野郎を取り戻すとしよう……』

 メイちゃん(大志)は秘かに使命に燃えていた。

 35階層までは電撃戦であった。

 人形王が用意したのおかげで脅威の侵攻速度で進む。


「ギャッ(あれ?30階層の皆、なんでここのいるの)」

 途中34階層の熱砂エリアでグラトニースライムを倒した後捕食していたドラゴンイエローと遭遇し攻略部隊に組み込んで進む。


「ギャッ(暗黒竜先輩の言った通り、あれ美味しかったの♪)」

 曰く、17体ほど食べた。美味かった。お代わり。

 30階層に3体到着した旨伝えるとドラゴンイエローはあからさまにがっかりしていた。


「ボフッ(くくくくっ、あははははははははは)」

 ジェネラルオークの爆笑である。


「ボフッ(潜んでいるのではないか?30階層に挑まれたら?とか我らが警戒に警戒を重ねていたものを喰らったと?流石は暗黒竜殿の腹心! いう事のスケールが違う、いやはやお見事! して、美味かったのですかな?)」

「ギャッ(美味かったの! でも残念! もうないの! 私もお変わり欲しいの! そしてあの素材を生かす方法が思いついたの!!)」 

「ボフッ(ハッハッハッハッハッ、然らばお代わりを求めて35階層以降に挑みましょうぞ!)」

 こうして『お前天才なの!!』と上機嫌なドラゴンイエローを加え一行は35階層に到着する。


「がおっ!(お前ら、なぜここに!?)」

 困惑する暗黒竜先輩を横目に戦士タイプのオークが盾を掲げて前に出る。そして格上のモンスターに体を当て押し返す。


「ボフッ(構え!)」

 ジェネラルオークの号令で戦士タイプが明けた空間に魔法タイプが走りこむ、同時に15階層の冒険者と共にメイちゃん(大志)も走りこむ。対応物質が入った樽を抱え。

 そして魔法タイプの前に置くと魔法タイプが魔法と唱え一定量の影木状の物質が宙に浮く。

 その光景を呆然と見つめる暗黒竜先輩。そして、その時間を稼ぐために盾を掲げ続ける戦士タイプ。


「ボフッ(狙え!)」

 魔法タイプが前を向く。各自目標を捉える。


「ボフッ(放て!)」

 液体が霧状に変化し狂ったモンスターを襲う。

 暗黒竜先輩は何が起こったのか理解できなかった。

 先程まで狂った瞳で襲い掛かってきていたモンスター達が1体、また1体と動きを止めほとんどの者は踵返して下層へ、戻っていった。数体意識を持った者が戦場で戸惑っているが入れ替わりに侵入してきた狂ったモンスター達と交戦状態に陥り嫌がおうにも交戦を始める。


「ボフッ(意識ある者どもよ! 下がれ!)」

 ジェネラルオークの号令に知性を得たモンスター達は従う。状況が分からない中自分たちと同じく知性を得たジェネラルオークの言葉は無視するに値しないと本能が、得たばかりの知性が言っていた。



「ボフッ(構え!)」

 ジェネラルオークの号令で、再び液体を浮遊させる魔法タイプ。

 その背後で知性に目覚めたモンスター達に状況を伝えるアームさん。

 アームさんの階層主としての意外な一面に目を白黒させるアユム。


「ボフッ(狙え!)」

 魔法タイプが再び前を向く。


「ボフッ(放て!)」

 2射目で第2派も先程のモンスター達と同じ結果となる。


「ボフッ(諸君! 反撃の時は来た! お母様のこのダンジョンを! 我らの誇りを踏みにじった者どもの野望を! 打ち破るぞ!!!!!!!!!!)」

 ジェネラルオークの雄たけびに呼応するモンスター達。

 こうして35階層の犯行作戦も成功へと進み始めた。


「がおっ(あれ?ここ私の階層。なのに何?このその他大勢みたいな扱い???)」

「しょうがいないって、暗黒竜先輩はそんな役回りだしな」

「がおっ(え?何それ嬉しいんですけど)」

「はははは、俺はそんな暗黒竜先輩が結構好きだぜ」

「がおっ(ごめんなさい。人間は守備範囲外です)」

「そうかそうか、うれしいか!」

 暗黒竜先輩が死守していたエレベータから料理人たちを率い現れたハインバルグが豪快に笑う。

 全て正しく理解していたアユムが彼らが持ち込んだ物資を運びながら苦笑いを浮かべていた。


『……』

 35階層から36階層に通じる階段を見下ろす着ぐるみ。

 場違い感が半端なっかた。


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