第90.5話「ダンジョンマスター優雅な一日2」
「で、なんでいきなり書類を読み始めたの?」
「……」
彼の惚気話を始めた悪魔ちゃんと不機嫌そうに書類を読み始めたダンジョンマスター。
「定例報告書見てんのよ……誰かさんが超級モンスターの情報をかく乱してくれたおかげで私の管理能力が疑われてんのよ……そうよね」
『そーですね』
ダンジョンマスターに呼びかけられて神樹の息子が天井の蔦から文字の書かれた看板をおろして返事をする。
「あー、共同経営者くんだっけ」
『初めまして、あ、悪魔ちゃんブログ見てます』
蔦と握手する悪魔ちゃん。笑顔である。
『因みに! 地上に(悪)影響を持つ神様100選面白かったです!!』
「でしょ~。でも、流石は仕える神様を乗せちゃまずいかなと思って、100選から外したのに……後から怒られちゃったのよね~アレ……」
『見る目ないっすね。因みに入れたとしたら何位?』
「83位」
『微妙~、いっそ乗らなかった方がいいレベル(笑)』
「だよね~」
因みにかなりの辛口評価の100選から外された神がもう1柱、やりたい放題わがまま神様ブラック様も対象外となっています。あの神様の周辺の『愛でる会』の皆様は冗談が通じないと評判の皆様ですしね……。
さて、そんな2柱を横目に報告書に目を通すダンジョンマスター。
ーー15階層階層主
『樹から流れてくる風がたまに冷たい。温度調節できるような機能が欲しい。着ぐるみおじさんが最近元気がないたまに遠くを見る目でため息をついている。そっとお肉を運んであげたが元気がない。アユムに聞いたら地上に戻った婚約者が戻ってこないのが不安らしい。それを聞いた師匠達が笑顔で『らぶじゃな!』といっていた。【らぶ】って食べ物なのかな?あんの猫の人形が持ってきてくれるのかな?楽しみでなりません。貰えたらお母様にも【らぶ】をおすそ分けしようと思います。』
タイムリー!
「……」
ダンジョンマスターはそっと報告書を置くと、端末を開き帳簿にメモを入れる。……ラブっておすそ分けできないって……。……睨まれた。感のいいダンジョンマスターである。
ーー20階層階層主
『最近樹液が甘くなる方法を発見しました。肉に塗りつけて焼いて見ると香ばしくなり肉を引き立ててくれます。さらに最近発見したのですが低温で樽に樹液と肉を漬け込むと最高に柔らかく肉汁からも最高の旨みが出る事を発見しました。手伝ってくれた肉屋のサントスには感謝しかありません。ああ、これをお母様にお届けしたいが、お母様はいまダイエット中とのことでしたので報告のみにとどめた行く思います。追伸、不審者・不審人物は……たまに見かける魚人ぐらいです。あいつの笑顔胡散臭い、何か隠している気がします。』
「……クソぐまが! ダイエット中って知ってるなら書くな!! よし決めた!! 今度白黒に染めてサンダーパンダにしてやる!!!」
すっかりお怒りのダンジョンマスターはこの時ムウさんの警告が目に入っていなかった。残念である。
ーー18階層のスパイ
『今日見る貴女も美しい。私は毎朝君に一目惚れをしている……。この想いいつか貴女に届けます。それまで待っていて欲しい……。今日は作業中に少し貴女と触れ合えたのが嬉しかった。このままでは僕のハートが壊れてしまいそうで怖い。でももう少し関係を進めたい自分もいる。少しづつ、少しづつ進んできっと私は貴女を手にしてみせます。』
ダンジョンマスターに会心の一撃!
「……」
何度も報告書の裏表を確かめたダンジョンマスターはやがて右下に『僕の想い記録vol102』と書かれているのにを見つけてほっと優しい笑顔になった。
ーー30階層階層主
『茶葉は奥が深い。生成するまでなかなかの重労働な上に品質を安定させるのが難しい。我らにはハインバルグという頼もしいアドバイザーがいますがこれが中々辛辣です。ですが負けません。もとより一朝一夕で完成すると考えておりません。しかし、今後は本日献上した紅茶以上のものをお送りできると自負しております。権兵衛』
ダンジョンマスターは額に手を当て瞑想する。
そうオーク帝国がオークお茶農園に変わってしまったのだ。単純に嘆けばよいのか、それとも収入源が増えたことを喜べばいいのかわからない。
ーー35階層階層主
『最近色んな所に出張しているので報告事項はありません。ていうかたまに変えるとなぜか魚臭いです。何かあったのでしょうか?あ、それよりも先日ブラック様の関係者の方にお母様のことを尋ねられました』
ぐっと報告書を凝視するダンジョンマスター。ごくりと生唾を飲み込んで続きを読む。
『お母様のことを包み隠さずお話しすると【お姉さま♪】と何か楽しそうでした。同類の香りがしたので微笑ましく見守っております。【下着がほしい】とご要望でしたので1枚拝借いたしました。事後の報告にて失礼します。』
「ああああ、あのくそトカゲがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
女性に大人気! カッコいい系キャリアウーマン、ダンジョンマスター。
「荒れてるね」
『荒れてますな。あ、これ15階層で製造が開始されたお酒♪いっぱい如何?』
「気が利く~♪」
『彼女どうしましょう?』
「壁を殴りたいお年頃みたいだから放っておきましょう♪」
神樹の息子から小さな樽を受け取ると栓を抜き割符に並々と継ぐ悪魔ちゃん。
フルティーな香とお酒の甘い匂いが良い感じである。
『お嬢様、今年のアユム農場の新作でございます』
「うーん、少しきついけど芳醇な香りのよい芋焼酎ですわ♪」
酒盛りが始まる。
ーー共同経営者からの報告
『おかげさまで地上の体も大きくなってきたので、そろそろ樹木ダンジョンを開園しようと思います。そこでダンジョン作物を育ててドロップアイテムにしようと思ったんだけど、育てるのが難しい。外に光ではうまく育たないみたい。ちなみにモンスターはすくすく育っています。虫系は貴女が居やがったので止めましたが鳥系が増えました。そしてせっかく育てた虫系を食べてしまいました。野生か! って思ったら野生のモンスターが混じっていました。中々難しいね、ダンジョン経営って。あ、そうそう先日数十回に及びダンジョン管理システムに攻撃をかけられました。簡単に撃退できなかったのできっと神様の誰かがやってるのだと思います。ちょっとそこらへん探りをいれてみてください。貴方と一心同体神樹の息子』
ダンジョンマスターは『ダンジョン管理システムに攻撃をかけられました』の部分に強くくいついた。この木のくせに一見お茶らけた神樹の息子だが、彼らの一族は情報、特に管理システムの情報操作にたけていた。西大陸で大規模ネットワークを構築する神樹の一族は伊達ではないのだ。その情報のプロが苦戦する相手、しかも世界への干渉を厳しく制限されている神が手を出している。激しく事件の香りがする。
鬼気迫る様子でダンジョンマスターは神樹の息子を見ると、そこにはすっかり出来上がった悪魔ちゃんと本体は巨大な樹木のくせに同じく出来上がっている神樹の息子が居た。
「おわった~。このおさけおいし~よ♪」
『旨いであります! 共同経営者!』
「くっ、あたしの文はあるんでしょうね! あと神樹の息子! あんた酔ってないでしょ!」
『空気で酔っているのあります! 空気が読めないと持てないでありますよ?』
「神樹の息子! (・∀・)イイコトイッタ!! さぁ、もう一献!」
『あこれはどうもどうも、悪魔ちゃんにお酌をしてもらえるなんてぼかぁ~幸せ者だな~』
「お上手ね、生まれたばかりのくせに」
「こら~、なんかその樽軽そうじゃない! 残せって、てかコップ!」
ダンジョンマスターはすっかり目的を忘れて宴会に突入するのであった。
僕らコムエンドのダンジョンマスターはどこか抜けてるキャリアウーマン、そこがチャーミングであるが……今回ばかりは笑い事ではなかった……。
※書籍化2巻発売しましたので、仕事の合間で申し訳ございませんが頑張って更新していきます!※
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