第55話「格闘大会ー1日目」
澄みきった青空、外に立っているとジワリと汗をかく。
女性は肌を隠し、日よけ帽子を目深にかぶり、団扇で仰ぐ。
男はむしろ上半身むき出しで老いも若きも健康的な笑顔を浮かべる。
1か月続いた雨季が終わり。ジメッとした熱さからカラッとした熱さに変わる。
収穫を終えた農家が次の収穫に向かう時期。
ダンジョンにこもっていた冒険者たちが順番に外でバカンスを始める時期。
公園で堂々と半裸で寝転がる筋肉隆々の男たち。
日頃の疲れがにじみ出る様な表情で、同時に疲れもにじみ出ており、冒険者たちは日頃の勤勉な態度から一変してナマケモノになる季節である。
カランカラン
歩くと陶器の鐘がなる氷売りが公園を歩く。男たちは待ってましたとばかりに起き上がる。
「氷くれ!」
氷売りの近くに居た男が手を上げると。半袖のシャツにハーフパンツ足元はサンダル、首にかけている紐は氷をかけるシロップが各種入っている箱を支えている。頭は日射病予防の為日よけ帽子を被る氷売りの少年が男に近寄る。
男は椀とその中に金額を入れ氷売りの少年に渡す。
「あれ? 塊でいいんですか?」
「おっ? 砕き出来るのか?」
氷売りは魔法で氷を売る商売である。
通常は椀に塊の凍りを入れるが、レベルの高い氷売りは指先大の凍りを詰めることもできる。
だがそんなレベルの高い者が氷売りなどしないので中々お目にかかれない。
「いけますよ」
平然と言い放った少年。男は倍の金額を椀に放る。
「砕いてくれ」
男は思わぬ幸運に頬をほころばせる。
男のオーダと料金を確認すると、少年は椀に向かって手を振る。
すると粉雪なような氷が椀に積もる。
熱い最中、最も贅沢な品である。
「シロップ何にしますか?」
箱の中には3種類のツボがある。赤と青と黄色である。
それぞれ値段が張ってある。
「おお、シロップか! そんな高級品をその値段でいいのか?」
「大丈夫ですよ。採算取れますから………」
「なら遠慮なく。赤だな」
「はい」
椀の上に尺でシロップを振ると氷が溶けだして少し減ってしまう。少年はさっと手を振り氷を継ぎ足した。
「ありがとよ! これシロップ代な」
「え? 2倍ありますよ」
「適正価格で商売しないと恨まれるぞ。アユム」
「うーん、商売難しいですね………」
ご存知それぞれシロップは15階層で収穫できた作物から搾ったものである。美味しくできたので折角なので売りに出してみたのだが。これでもアユム的には高額に設定している。そもそも結構薄めているので申し訳ないと思っている。
「うめー! アユム値段表早く書き換えろ! そんな値段で売ったら商売人から総スカン喰らうぞ!」
「はーい」
渋々書き換えるアユム。
「そう、初めからそうすりゃいいんだよ」
男は気の匙を口に含みながら気温の暑さと、口内の冷たさ、舌の上の甘味を堪能している。
「てか、アユムは明日っからの格闘大会でないのか? こんなところで氷売りなんてして」
「いえ、クラス20ででますよ」
ほお、っと男は小さく息を呑む。
格闘大会にはクラスに別れる。体重とか年齢、性別などで分けない。レベルで分けるのだ。
最も弱いクラスはアンダー20、次にクラス20、クラス40、クラス60、オーバー80になる。
それぞれ大会登録時にレベル神の判定を受け(神様はお祭りに協力的である)それぞれのカテゴリーに振られる。
アンダー20:レベル10~20
クラス20:レベル21~40
クラス40:レベル41~60
クラス60:レベル61~80
オーバー80:レベル81以上
15歳から始める冒険者で18でレベル20超えるのはまれと呼ばれる時代にアユムは13歳でクラス20に入っているのだ。男が驚いたのは当然である。
「おーい! こっちも氷くれー」
「はーい!」
呼ばれて駆けてゆくアユム。
「おーい! ソルサス! そいつお前と同じクラス20で出るのに働いてるぞ~。お前はそんなところで氷喰ってて大丈夫か~」
男は煽る様にソルサスと呼ばれた20ぐらいの青年に呼びかける。どうやら同じパーティーの様だ。
「マジっすか! 少年幾つだ?!」
「13歳です。レベルは21ですね」
椀を受け取り砕きこおりの注文を受けて氷を多目に盛る。
「…………あ、俺は青で………かー---甘----! ああ、俺の名はソルサス。今年で19歳。レベル28だ。結構鍛えてるだろ?」
ニヤニヤしながら鍛え上げた上半身でポーズする。
「ええ。でもレベルが全てじゃないですよ。負けませんよ」
お金を受け取り財布にしまうとアユムも同じポーズで返す。
馬鹿な張り合いが数分続いていつからか互いに笑い始める。
「おーい! 氷! こっちも!」
「はーい! じゃ、格闘大会でお会いしましょ~」
「おう。負けねーぞ!」
アユムが去った後も周りに弄られ続けるソルサス。
コムエンドの短い夏を人々は楽しみつつ、翌日から始まる夏の祭典を迎える。
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