第40.1話「モンスター農家スカウト!そのいち」

 「従業員がたりねぇ」


 温泉復旧が終わった後の食事会でランカスが口にする。

 先日のグールガン騒動だがブラック&ホワイトの処遇とグールガンへの決着のつけ方で神々も気が付いた。『あっ、これ一方的に迷惑かけただけだ!』と。

 そして神々の統一見解として『褒美を与えよう(そしてうやむやにしよう)』と。


 まず、ブラック&ホワイトを謝罪に向かわせた。アユムの機嫌が少し戻ったようだ。

 そして、次に農業神のご褒美として15階層の拡張を提示した。


 『あ゛? 私のダンジョンで好き勝ってした挙句、保護対象である技術者を弄んでおいてそれだけ?』


 ダンジョンマスターの言葉である。

 結果、多くのダンジョン改修のための力をせしめた。


 『アユムの所と直結エレベータ作ってダンジョン作物で………』


 黒い笑顔のダンジョンマスター。


 『どうせ、アユムの指導なしでダンジョン作物なんかうまく作れないし……いける……アユム印のダンジョン作物……高値で行ける……商標登録とデザインで差別化……くふふふふふふふ』


 心の声が駄々漏れのダンジョンマスター。


 『ダンジョンマスター界のてっぺんは私が取る! 見てろ自称エリートども! 次回の神コンで私が主役だ!! くふふふふ、あ-っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは』


 はい、ダンジョンマスター。音量下げてねー。他のダンジョンマスターに気付かれるよー。


 さて、そんな事情で広がりを見せてしまった15階層。

 そもそもがアームさんとの一騎打ち用に用意されたフロア。故に広さは10階層の半分。

 20階層の様な森林ステージでゲリラ戦を想定したボスフロアに比べると4分の1。

 つまりは用途が用途である為必要以上に広くなかったのである。


 で、どれだけ広がったかと言うと20階層と同じぐらいである。

 つまり4倍。縦2倍。横2倍。

 そもそも農業用地として利用できていたのが元の2分の1。

 まるまる農地にするのであれば実質現状の6倍近くの土地が手に入ったことになる。


 現状、未熟者と師匠達から地上と15階層を行き来することを義務付けられているアユム。

 アユムが居れば現状であれば1人で賄えるが、度々アユムが地上に言っているときはどうしているかというと……。まず、アユムの指導の元、戦力となったワームさんや権兵衛さん、そして権兵衛さんの部下、ジェネラルオーク。彼らが仕事を覚えてきて大まかな管理を担ってくれている。次にマールや交代で15階層に駐留する師匠達の手伝いがある。これは権兵衛さんに指導されながら四苦八苦している状況である。しかしそれらの労力がすべて存在して、ようやく成り立っていた。

 なので神々のご装備で土地が広がった。やれることが増えて夢が広がったが、有効活用するには現実的には人手が足りなかった。


 「人間は……これ以上難しいな」

 「それこそ国内あちこち遊び歩いてる弟子どもを呼び戻すか……地上に居る弟子どもは力不足だしな……」


 ドワーフの石工職人にして槍の達人ドワーフのランカスと、銀髪に銀の髭を蓄えた陶芸家にして剣の達人シュッツの言葉に、魔法組合組合長にして食肉加工業者だが本当の筋肉フェチのちょび髭スキンヘッドことギュンドルと人気の万能服飾職人にして暗器使いルーゾンはうなずく。

 医療術師にして無音の断罪者ことモンクのリンカーは黙ってタヌキチの修業を見ている。そして動きを間違ったところを無言指導する。無言の師弟のやり取りである。


 「がう(ワーム、そういえば追加従業員の話してたよな?)」

 「本当ですか?」

 「ボッ(うん、すっかり拗ねちゃってるけど、声掛けにいくっすか?)」


 そう、ずいぶん前の話題にのぼっていたワームさんの友人で従業員候補である。お待たせしまくったので19階層で拗ねているようです。


 「あとは、むうさんとか手伝ってくれると嬉しいんですけどね」

 「がう(あいつかーーーー、うん。なんか嫌)」

 「ボウ(一応20階層のフロアボスだしな)」

 「ボッ(でもお客さん来ないから常に暇してるっすよね………こないだもムフルの木の育て方聞きに来てたし‥‥…うまくいってないようっすけど)」


 そこでアユムは思考に没入する。

 そして。


 「じゃあ、むうさんには農業研修生として技術勉強しに来てもらうのでどうかな? それで配下の人(モンスター)たちとかにも一緒してもらって、希望者は移住とか」

 「がう(一時的ならOK! 同じフロアボスとして長く一緒に居ると背中がかゆくなるのだ!)」

 「ボウ(おい、俺も一応30階層のフロアボスなんだが……)」

 「がう(お前の所集団戦だろ? もしろ一緒に居て落ち着くのだ)」


 エンペラーオークの能力に味方(モンスター限定)の戦意向上並びに身体能力20%向上のパッシブスキルがある。

 

 「ボッ(権兵衛さんの配下にまとめて来てもらえると楽なんすけどね……)」

 「ボウ(すまぬ。いま開拓中の22階層の茶畑で皆手いっぱいだ。あと、これ以上割くとフロア管理に支障が出る)」


 権兵衛さん。21~30階層管理が主な仕事の大地主です。


 「アユム。モンスター従業員ならこれそうなのか?」


 黙って聞いていたランカスが挟む。


 「ええ、なんとかなりそうです。はじめは農業研修で来てもらって特性見て希望者には永住してもらおうかと………」


 ランカスとシュッツは少し考え込んで互いに意見交換する。ルーゾンはその隣でうなずく。

 ギュンドルはすでに興味なく。筋トレに励んでいる。飛び散る汗と激しい鼻息。アームさんは一歩後ろに下がった。


 「ボッ(アユムん! 俺っちの同類、他にも誘ってもいいっすか!)」


 ワームさんが興奮気味に言う。

 もちろんワームさんが農園にもたらす恩恵や、仕事は大きい。

 6倍となった農地を活用するにはワームさんの同種のモンスターにぜひ来てもらいたいアユムであった。


 「あ、それはぜひ! 何人ぐらい呼べます?」

 「ボッ(ひっ1人は確実! …………うん、確実に!!)」


 息巻くワームさん。そう、あの声もかけられない彼女の事であろう。


 「ボッ(この機会にお声がけする……)」


 皆、ワームさんの言葉を聞かなかったことにした。……優しさである。


 「じゃ、スカウトの旅行かないとですね!」

 「がう・ボッ・ボウ(おっけ~)」


 話がまとまったところでランカスから重要な指摘を受ける。


 「人数が増えるってことはちゃんと管理職も用意できるんだろうな?」


 アユムはそこで固まる。

 ここのフロアリーダはアームさんである。……不適格。

 能力的に適格者は権兵衛さんだが、本職は30階層の階層主なのでダメである。


 「ボッ(無理っす!)」


 ワームさんには期待していない。


 「ボッ(何気にひどいっす!)」


 アユムはリーダもついでに探すことにした。

 きっといるに違いないと確信しながらスカウトの旅に出ることにした。


 【急募! バイトリーダ(住み込み)】


 難関であった。



その頃のグールガン(その一)――――――――――――――――――


 「クラーケンだ! やばいのがでたぞ!!」


 荒くれ物で埋まった船内に悲鳴がとどろく。

 船員の誰もが『もう無理だ』と最後の抵抗として天に祈りをささげ、手近なものにしがみついた。

 船員たちが死を覚悟した直後……。暗雲を切り裂く一条の光が迸り、曇り空とクラーケンを切り裂いた。


 「裁きの槍だ! 俺と出会うとは運がなかったな……」


 舳でポーズを決めるドワーフが1人。白かった肌は褐色に輝いている。ドワーフは白いひげを撫でると振り返る。


 「「「おお!!! さすがグールガン先輩! カッコいいっす!!!」」」


 英雄グールガン(借金持ち)。


 「てめーら、騒いでんじゃねぇ! サッサとクラーケン括り付けろ沈んじまうぞ! グールガン! てめーもだ! あの槍だって安くないんだ取ってこい!!」


 船長にどやされて海に飛び込むグールガン。さわやかな笑顔だった。


 「俺、港に女が5人いるけど。グールガン先輩に抱かれたい……。これが漢心(オトメゴコロ)ってやつなのか?」


 きっと幻想です。後悔する前に踏みとどまることをお勧めします。

 そしてグールガン。お気をつけて………。世界の声的には決してその場を実況中継しませんので逃げてねください。お願いします。


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