第18話 『荷物が来たぞ!』


"ピンポーン"


 翌日、マンションのエントランスからシゲルの部屋に呼び出しがあった。


「こんちにわ、トヤマ運輸です。午後3時の時間指定で、フィジカル・ロック・ソリューションズ様からの、お預かり荷物を配達に参りました。ちょっとサイズが大きいので宅配ボックスには入りそうにないんですが、お部屋までお届けしてよろしいでしょうか?」


 もう夕方近いというのに寝起き姿のシゲルは、


「ハイ...」


 と、ぶっきら棒に答えると開錠のボタンを押した。


 昨日から今日まで、ずっと IT 大儲け前祝いパーティーを開いて飲みまくっていたアキヒコとショウが、二日酔いでガンガン鳴り響く頭を抱えながら奥から出て来た。


「あ〜、飲み過ぎて頭イテ! で、最新ナントカが届いたのか?」

「おう、そうみたいだぜ! なんかデカイらしくて、今ここまで持って来てくれるってよ。一昨日の夜入金して、もう届くたぁ幸先さいさきがいいぜ! なあ、ショウ!」


「オ、オェ〜... ウウ〜、吐きそうっす」

「あ、バカてめぇ、ショウ! こんなとこでゲロるんじゃねえぞ、オイ!」


「ウップ、大丈夫っす。投資の見返り第一弾の最新ナントカは絶対見たいっすから、ゲロはノドの所で止めて頑張るっす!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんなやり取りの中、3分ほどすると今度は玄関のチャイムが鳴った。


 シゲルがドアを少し開けると運送会社のスタッフが立っている。


「あの〜、先ほどのトヤマの者ですが、お荷物、大きいんですがドアの中に入れるんでよろしいですか?」


 と、再度確認した。シゲルは "んだよ、うぜえな" と思いながら言った。


「ああ、いいっすよ」


 するとトヤマの社員は二人がかりで大きな段ボール箱を、どんどんドアの中に入れ始めた。

 それは一辺が30〜40センチある引越しの時に使うような大きさだ。一箱くらいなら玄関の片隅に置いても生活に支障はないのだろうが、今日はそれが次から次へと運び込まれて来る。


 シゲルがあっけに取られているうちに段ボール箱は玄関ホールに高々と積み上げられてしまい、外に出る事もできないような事態になってしまった。


「お、おい、これなんなんだよ?」


 シゲルが聞くとトヤマ社員は、


「ええ、先ほどの申し上げた、フィジカル・ロック・ソリューションズ様からのお荷物です。全部で20個口になります。あ、こちらにハンコかサインいただけますか?」


 と確認する。シゲルは荷札を見たが、荷主も受取人もあっている...

 彼は仕方なく荷物と壁の隙間から強引に顔と手を出して受領書にサインをした。


「ありがとうございました!」


 挨拶して帰って行くトヤマ社員の足音が積み上げられた段ボールの隙間からにぶく聞こえてくる。


 箱に貼り付けられた伝票には『Secure P-Lock System x2000』と書かれているが、なんの事やらよく分からない…


「ハァ〜?!?!」


 積み上げられた段ボール箱を見ながら、しばしトランス状態に陥いっていたシゲルたちだが、正気を取り戻すと、


「と、とにかく開けてみようぜ。おら、アキヒコ、ショウ、手伝え!」


 と、一番上のダンボール箱を引きずり下ろそうとした。しかし、箱は異常に重い。


「お、オイ、重いなこれ? なんか金塊でも入ってんじゃねえのか?」

「ゥゲゲ... 二日酔いで頭が... 力が入らねえ」

「ォ、オェオェ〜、は、吐きそうで力が入らないっす...」


「あ、オメエらバカバカ、力抜くなコラ! ァアァアァア〜!!!」


 アキヒコとショウは目の視点が合わないような表情で、その場にフニャフニャと座り込んでしまった。


「ドァァァァァ!」


 シゲルは顔を引きつらせながら荷物を床にすべり落としてしまった。


"ドズン!!!"


 荷物は鈍い音と共にシゲルの足の上に落ち、フタが開いて中身が飛び出した。


「イデデデデ〜!!!」


 片足を押さえながらピョンピョンと飛び跳ねるシゲル。その横では、


「ォ、ォエ〜〜、ォエ〜〜、吐きそうっす、ゲロゲロ〜...」


 と、のたうち回るショウ。


「た、頼むからちょっと静かにしてくれ、オレ、頭割れそうに痛い... 死・に・そ・う・だ・か・ら...」


 と、朦朧もうろうとした表情で倒れたまま天井を見つめるアキヒコ...

 マンションの玄関ホールは、一瞬にして阿鼻叫喚あびきょうかんちまたと化した。

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