第126話 宿敵再び
「は、は、はっぴょよう、しましま……」
コレは変な動物の鳴き声でも新種の動物の名前でもない。今度の魔王軍との決闘に参戦が決まった兵士の発表の進行をグライドに任せたのだが、またしょっぱい結果になってしまった。
奴は、兵士達の前でガチガチに緊張し、カミカミどころではない。所々で兵士の失笑が漏れ聞こえてくる……
「そ、それでは、だ、だいだい、大賢者メメジカル様から……どうぞ!」
かなりのショートカットだな、グライド……丸投げ感が半端ないよ!
メジカル様からは国王の勅命として選者の名が告げられる事になっているのだが、兵士達も大体の流れは察しているので特に問題はない。
グライドが、よろよろと脇に退場し入れ替わりにメジカル様が台座の中央に立つ。発表は、兵士の訓練場で行われているのだが、メジカル様の強張った表情に皆緊張の色を走らせた。
「う、うおっほーーん! ゴホッゴホッ! あああ、ここ、このたびび……ご、ご紹介にあずけまして……」
おい! アンタもガチガチじゃん! メジカルさまっ! ダメだよ、あずけちゃ!
緊張をほぐす為か、クラッカルは、魔王城で手に入れたお土産の『チョコレート』の箱をメジカル様の視界に入るようにチラチラと振りかざした。
その途端に花火が弾けるようにメジカル様の瞳に火が灯り輝きを増す。
どうやら大賢者のゼンマイは、クラッカルの機転によって目一杯巻かれたのに違いない。しかし、こんな人ばかりだから今までのクラッカルの苦労がしのばれるな……
「聞けーーーーいっ、皆の者! 魔王軍は、確かに我らにとって強敵じゃ! しかし、しかしじゃ、味方となればこんなに心強い事は無い! 今から発表する者は、必ず、必ず、魔王軍より土産を持ち帰るのじゃーーーーっ!!」
力強いメジカル様の咆哮は、兵士達を活気付けた。沸き起こる声! メジカル様の言う土産が、チョコレートの意味じゃない事を願う。
「おおおおおおおおおーーーーっ!」
「それでは、まず1人目の発表じゃ! 古くから城におる兵士の中には、この者の過去の愚行を忘れておらん者も少なくなかろう。人望ゼロ、更にボッチ飯を頬張る影の薄いファントム・ナイト、ボーレーンじゃ! 亡霊ならぬ座敷わらしとなれっ!」
これはヒドイな! どう考えても映えある代表の紹介には思えないよ……
「そして、更に二番じゃ! これは、二番手が最も相応しい男、二番手オブ二番手のホサマンネンじゃーーーーっ! 常に高みを目指し続けるこの者に頂点は、決して似合わん! 故に上を目指し続ける事がエブリタイム可能なのじゃ! 生来の打たれ強さを生かして引き分けを掴み取るのじゃ!」
勝つこと前提じゃなくなったよ!
二番手の二番手って三番手のことじゃね!?
ホマンネンさん、メンタルは、決して打たれ強いわけじゃないのに!
「最後は、戦場に咲く一輪の花、いや暗黒きくらげ、可憐なる萌え兵キュレリア! その胸のごとく堅い勝利を我が軍にもたらさん事を願う!」
上げたり下げたりどうなんだよ!
完全なるセクハラ発言だよ、爺さん!
しかし、ホサマンネンさんもしっかり選ばれちゃったな。選抜には俺の意見も含まれているのだが現状だと妥当な線だと思う。後は魔族側の力量次第だから、こればかりは始まらないと全く予想が出来ない。
とは言え、志願したからには頑張ってもらうしかないのだ。例え、それぞれの志願者が持つ個人的な恨みや野心があろうとも……
三日目の朝を迎え、対決のメンバーと共に魔王城に乗り込む俺達。クラッカルの転移魔法を使っての移動だから話が早い。
魔王城の入り口にはお馴染みの巨人たんが待ち構えていた。巨人たんとは、ヒナが名付けた、魔王城の巨大な魔族の番兵だ。
まさかとは思うが巨人たん達が闘う相手ってことはないよな……
「タケル、まさかあいつらが相手ってことはないよな」
リンカが、嫌なフラグを立てようとする。まさに俺が心配したまんまのことなんだが……
「わかった、初戦は、私が戦おう」
わかってねえから! まだ戦い始まってないよ!
ボーレーンがスラリと剣を抜き、まるで予告ホームランのように巨人の魔族を指し示す。
更にボーレーンは、剣先をクルクルと回し始めたのだがトンボじゃねえんだからそんな技、通じないから!
「目がまわるーっ」
まわるのかよ!
巨人たんは、フラフラしてその場に倒れこんだ。その振動はちょっとした地震並であった。
「ふっ、まずは、一勝といったところか」
ボーレーンは、得意げに剣を鞘に納めた。
だからまだ始まってねーよ!
「ああっ、これは一体どういうことなの!」
倒れている巨人たんに気が付いたドルフィーナさんが慌ててやってきた。ドルフィーナさんは、シュベルト達の攻撃に備えて城の外の警備にあたっているのだ。
「ドルフィーナさん、ごめんなさい。ウチの兵士が間違えたみたいで。でも攻撃はしてませんから」
「あら、タケルさんでしたか。あまりに大きな音がしたものだからシュベルトが仕掛けたのかと思って慌てちゃって」
巨人たんが、倒れただけとわかり、安堵の表情を浮かべるドルフィーナさん。
「大きな体をして全くだらしないわね。しっかりなさい!」
やれやれといった様子で巨人たんの額にデコピンを入れるドルフィーナさん。
その瞬間、巨体は跳ね上がり宙に浮いた。
巨人たんの体は、ちょうど気を付けの姿勢でピタリと止まった。
すげーーっ、ドルフィーナさん!
俺だけでなく他の奴らも驚いて目を見開く。
一番驚いているのは巨人たん本人だけど。
「くっ!」
キュレリアは、悔しそうに敵意むき出しでスカートのフリルをギュッと握りしめている。
「タケルさん、思ったよりも早かったのですね。こちらの準備は、もう少しかかるようなので中でお待ち下さい」
俺が、返事をしようとしたタイミングでキュレリアが口を挟んだ。
「ちょっと! アンタは、決闘に出るんでしょうね! こんな所で警備をしている位だから平魔族なんでしょうけど」
それを言うなら下級魔族だよ。会社じゃないから。
ドルフィーナさんは、キュレリアの問い掛けに返事をする様子もなく俺に話しかけた。
「あら、今日は、ペットを連れて来たんですね。でも小さいのに凶暴そうですね。首輪に縄でもつけた方が良いかもしれませんね」
う~ん、どうもキュレリア相手だとドルフィーナさんも冷静さを失うみたいだな。
「はあ~っ? 私が可愛い愛玩動物ならアンタはホルスタンでしょ! 例えじゃなくてそのものかも知れないわね!」
ホルスタンは、牛に似たモンスターの事だ。ネーミングに全くセンスが感じられないが、どうでもいい。
両者の間には、火花が散りすぐにでも戦闘が始まりそうな気配だ……
「今は、争っている時じゃないよ!」
メルの言葉が場の空気を変えた。それもそのはずだ。こいつが、まともな事を言ったのだから。
シュンとするドルフィーナさんとキュレリア。
「すいません、つい取り乱してしまって……」
「ごめんなさい、タケル様」
「いや、分かればいいんだよ。それより早く中に入ろう」
頷く二人と一緒に仲間達も魔王城の中に歩を進める。今日の結果が今後の運命を左右するかと思うと少し緊張に震えた。
「あの、ちょっとお待ち下さい」
入口の守衛を務める魔族が、俺を呼び止めた。
「えっ、何か?」
「入場料が、まだですけど……」
とるんかい! 入場料!
今回は、人数多いし!
軽くなる財布に年間パスの購入もチラリと頭をよぎる俺だった……
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