第42話 すごいよ召喚獣アリサ
ヒナとアリサは、俺の忠告も聞かず、タージリックを倒すと決めたようだ。
俺と交わした"頑張る"という約束も守りたいのだろう。どうも俺の仲間たちは、気持ちの部分で行動しがちだ。危なっかしくてしょうがない。
まあ、本当は少し嬉しいんだけどね……
タージリックは、いったいどれほどの強さなんだ、ヒナは、同じ候補生ということで奴の力を把握しているんだろうか?
「グライドっ、ヒナは、ヒナはタージリックを倒せるのか?」
ヒナが、勝算があって忠告を振り切ったと信じたい。俺は、グライドの返答を待った。
「ダメに決まってるだろう!ばーかっ!」
えっ、う、うそ……だろっ!
驚いてグライドを見た俺の目には、指輪を取り合う3人の姿があった。
今は、グライドが、指輪をメルに取られまいとして上に高く掲げていた。
「グライド、あたしの指輪返してよー」
「ダメだろう、争うなら僕が預かって……」
「そっちじゃねえーーだろおおおおーーーーーーーーーーーーーうっ!」
俺は、渾身のコントラルクの呪文を唱えた。
その瞬間、グライドの王冠は、締め付けられた、きゅっと。
「いててて、魔力だけで比べるならヒ、ヒナも引けは取らないだろう。だがタージリックは、狡猾な野郎だ、単純に強い、弱いで判断は出来ない、しかもあいつは魔族だしな」
王冠の締め付け呪文を解除した後、涙目のグライドが頭をさすりながら言った。
ー 本戦に進む5名が決定致しました ー
場内アナウンスが流れ、観客席から歓声が聞こえる。本戦は、バトル要素が絡むため場内の興奮度は、かなりの高まりをみせているようだ。
見事というか残念というかヒナとアリサは、本戦出場者5名の中に残っていた。
グライドから指輪を取り戻して歓喜していたメルは、左手に指輪をはめながらこう言った。
「タケル、あたしは、信じてるよ……」
そっ、そうだよな。いま俺がヒナとアリサにしてやれる事は何もない。だったらあのふたりを信じるしかないよな。
メルは、頷いて左手の指輪を見せながら
「あたしを選んでくれた事をねっ」
くっ、こいつは、もう使い物にならねぇ!
メルの両方のほっぺたをぎゅうぎゅうに引っ張った後、俺はヒナとアリサに視線を移した。
ふたりは、なぜか口を触っていた……
ー 準備が整いましたので只今から本戦を開始致します ー
またアナウンスが流れて出場者の簡単な紹介が始まった。エントリーする時に書かされた自己紹介の内容だと思うのだが。
ざっくり、まとめるとこんな感じだ。
①エクシオス(エルフ)
雷魔法のスペシャリスト、エレキマスター
②ベオグリッド(ドワーフ)
ダブルアックスの使い手、頭脳派アウトロー
③ターメリックス(人間)
魔の刻印を刻みし者、クレイジーソード
④ヒナ(人間)
とにかく頑張る、がんばり屋さん
⑤アリサ(人間)
横笛の悪魔、蒼き果実の渇望者
アリサのは、なんかいかがわしいな、メロンの事だと思うけど。たぶん……
「タケルっ、このメンバーだとターメリックスって奴が、怪しいな」
リンカは、眉をひそめて俺にささやいた。耳元でささやかれると何だか照れ臭い。
「ち、ちょっと待ってくれ」
俺は、激しく抵抗するメルから指輪を取り上げて指にはめた。ターメリックスを意識すれば、奴に俺の考えが伝わってしまう可能性がある。
全く便利なのか不便なのかわからないな俺のテレパシー能力って……
準備完了!はいどうぞ!
「確かに名前が似ているのと、魔の刻印っていうのが気にはなるな」
グライドも今の見解だとリンカと同じターメリックスを疑っているようだ。
「よし決まりだ、メル、ターメリックスに攻撃っ!」
俺は、迷わない。
「「おいいーっ!」」
グライドとリンカに怒られた……。
闘技場の中央には、上部に大きいボタンのついた円柱のような装置が設置されていた。
あれが解答ボタンなのだろう。
ー え〜っ、それでは始め〜っ! ー
アナウンスがあり、ゆるい感じで本戦は、始まった。
ー 第1問、世界で一番有名な水兵の名前を次の3つから選びなさい ー
① ザビエル
② リーベ
③ マウナロア
問題もかなりゆるかった……。
「くそっ、最初から難問だぜ」
そ、そうなのか、グライドっ。
突然、闘技場にカミナリのような閃光が走った。いち早く詠唱を終えたエクシオスの全体攻撃魔法だ。
ヒナは、すぐに防御魔法に切り替えたようだが、召喚呪文を詠唱中のアリサは、防御が間に合わない。
「アリサっ、よけろーーーーっ!」
俺は、闘技場に向けて声を振り絞った。
他の出場者が、防御でしのぐ中、光の閃光がアリサを貫いた。
俺が、思わず目を伏せる中、グライドの声が響いた。
「う、嘘だろ、二重詠唱だって!そんな事が出来るなんて……」
俺が、恐る恐る闘技場を見ると無傷のアリサが立っていた。
「ど、どう言う事なんだ、グライド」
「あ、あいつは、召喚呪文と防御魔法の呪文を同時に詠唱してやがったんだ。そんな事が、出来る奴は、魔族でも記憶にないぞ」
グライドの驚いた様子でそれが、どれほど高度な技術であるかは、俺にも感じ取れた。
壊れキャラだと思っていたアリサは、俺の予想を超えるぶっ壊れキャラだったのだ。
俺たちの心配をよそにアリサの顔は、何事もなかったかのように涼しげであった。
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