第22話 あなたはダレですか?

 ガキィーン、剣が交差するたび火花が散り金属音が鳴り響いた。リンカは、速攻型の使い手だ。高速の剣を俺めがけて何度も打ち込んで来ていた。


「やるじゃないか、リンカっ」

 もう、ゴブリンスレーヤーと言われた頃のリンカではなかった。今ならばドラゴン相手でも遅れを取ることはないだろう。


「タケルこそ、この成長の早さは尋常じゃないぞ、さすがは、選ばれし者だ」俺の剣は、風をうならせ岩をマシュマロのように切り裂いた。重くて剣が振れなかった、あの頃が嘘のように……


 俺達が、お互いを讃えながら剣を打ち合い、修練に励んでいると声をかけるものがあった。


「くっくっく、笑えるじゃない。それで剣士だなんて…、僕は、またお遊戯かと思ったよ」


「誰だ、お前は!」

 俺は、声の主に向かって叫んだ。


「選ばれし者がいると聞いて来てみれば、全くやれやれだ、その程度だなんてガッカリするじゃない」


「もう一度言う、俺の名はタケル、お前は何者だ」


「ふっ、僕の名はグライド、いずれ魔王になる男さ、って言ったらどうする」

 グライドは、サーベルを構えて俺達の方へ一振りした。

 なっ、速いっ⁉︎

「リ、リンカっ、大丈夫かっ」

 リンカが斬撃を受け倒れていた。


「くっ、わたしは大丈夫だ。タ、タケルっ、このままやられっ放しじゃ……」


「だよなっ!」

 やられっ放しは、性に合わない。

 俺は、剣に全力を込めてグライドに打ち放ったのだった。


「と、いう夢を見たんだよ」


 俺は、リンカの家でパロアパイを食べながら今朝の夢のことを語っていた。

 ちなみにパロアパイとはパロアと言うフルーツを使ったパイの事だ。


 甘酸っぱいフルーツがパイ生地に調和して見事なハーモニーを醸し出している。つまり美味しいと言う事だ。


「タケルっ、今はパイの説明はどうでもいいじゃない。それより、その先は、どうなったのよ」


 あれっ、俺いま声に出して言ってないよね。やっぱり俺の心の声ってきこえてるの?

 あと、リンカのキャラ、素に戻ってるし…


「いや、残念ながら、そこで目が覚めたんだよ」

「ええーっ、一番いいところなのに」

「また、続きを見たら報告に来るよ」

「ほんとだよ、絶対約束だからねっ」


 リンカは、俺の夢の話が気に入ったのか、随分テンションが高いようだ。

 さっきからずっと素に戻った喋り方をしていて結構かわいいのだった。


 せっかくなので俺達は、少し剣の練習をする事にした。

 グレムリン討伐の時より、レベルの上がった俺は、何とか剣が振れるようになっていた。


 リンカと俺がゆるゆる剣を打ち合っているとどこからか笑い声がした。


「ぷっはっはっは、これは、面白いじゃない。新しい踊りかい、ソレって」

 あれっ、どこかで聞いたようなセリフだ。一応俺は、言ってみた。

「誰だ!お前は!」


「くっくっく、君たちには、名乗る価値もないし、聞かない方がいいと思うよ」

 ですよねーっ!なんか危険そうですし


「ここには、偶然寄っただけだから、面白いものも見れたし、じゃあ僕はこれで」

 そいつは、笑いながら去ろうとした。正直、俺はホッとしていた。

 何だかすごく嫌な予感がしたからだ。


「待て、グライド!バカにするのもいい加減にしろ!」

 おいっ!お前が待てよ、リンカっ!

 てか、グライドは、夢の中の人だから


 そいつは、足を止めて振り返った。

 目が殺気に満ちているのは俺でもわかった。


「お前ら、何で僕の名前を知っている」


「「えっ⁉︎」」

 まさかの正解だった。

 と言うか、言ったリンカも驚いていた。


「怪しいな、生かしておいちゃダメじゃない」

 グライドは、サーベルを抜いて俺達に構えたのだった。

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