ケモ耳娘着替えました
「は、春斗さん……私のここ、濡れちゃってますぅ……」
「お前絶対にそれ外で口に出すなよ?」
玄関でスニーカーの紐を結びながら、スカートを握り何かを押さえるような格好のアズキに突っ込む。
「うぅ、でも、冷たくて不快感が……」
「お前が大人しく乾くまで我慢しないからだ」
財布とスマートフォンをズボンのポケットにしまい、準備完了だ。
え?アズキの耳と尻尾はどうするかって?
耳は帽子で隠してある。
尻尾に関してはどうしようもないのでそういう趣味の人感を醸し出してもらうことにした。もちろん、アズキには内緒である。
「さて、行くか!」
「どうかリードと首輪を」
「M女か!」
尻尾はやした美少女に首輪なんかつけたらそれはもうR-18なビデオの撮影と勘違いされるだろうが。
「さて、行くか!」
「二度目ですよ春斗さん」
「お前がよけいなボケを挟むからだろ!」
さすがに三度目は口に出さず、俺とアズキは外に出た。
普段ならここで車に乗るのだが、今日のメインは散歩なのでその必要はない。
「春斗さん、どこへ行きましょうか?」
「まあ待て。既に行き先は決まっている」
頭にクエスチョンマークを浮かべているアズキを無理矢理連れ、ある場所に向かった。
俺達の住んでいる地域はお世辞にも都会とは言うことが出来ない。
駅の周辺は割と有名な私立高校や様々な店舗が立ち並び、活気があるのだが、どうしても離れるて行くと緑や茶色と言った自然の色が多く見られるようになってしまう。
俺の借りているアパートがある場所も例外ではなく、周辺には数件の一軒家とコンビニくらいしかない。近くのスーパーでも十分ほど歩かなければいけないのだ。
しかし、今となっては好都合だ。緑や茶色の自然の色が多い?近くのスーパーが十分かかる?そんなもの、犬の散歩に適しているだけではないか。
「んー!太陽の下って、やっぱり清々しいというか、心地良いですよね!」
普段と変わらない笑顔を浮かべて先行するアズキに思わず微笑を浮かべてしまう。
「さて。ここが今日の目的地だ」
散歩を開始して十分弱。
ある場所についた俺は足を止め、アズキを制止させた。
「あの、ここって……」
俺はさっき近くのスーパーと言ったな?
あれは嘘だ。
ごめんなさい言いたかっただけです。
俺達が目的地として向かっていたのは大型ショッピングセンターだった。
何だか不機嫌そうな表情のアズキの手を引き、中へと足を進めた。
「なぁ、何で機嫌悪いんだ?」
「……わんちゃんとのお散歩に、貴方はショッピングモールを選ぶんですね。おかげで、人からの視線が痛いです」
う、確かに、人々からの俺達を見る目が痛い……
なるほど、こいつ、あまり目立ちたくなかったのか……
「悪い事したな」
「お詫びとして、今日私と夜戦してください」
「!?」
焦る俺に、してやったという顔をしながらアズキはエスカレーターに乗っていった。
うぅ、周りからの冷たい視線が痛い……
「春斗さーん!早くしてくださーい!」
エスカレーターで二階へと先に着いたアズキは声を張り上げながら俺のことを呼んでいた。
あいつは目立ちたくないのか目立ちたいのかどっちなんだよ。
て言うか……
「相変わらず切り替え早いな」
「私、メリハリの付け方には自信があるんです!」
お前のそれはメリハリって言うか二重人格だろ……。
「ところで春斗さん!勢いで上に来ましたけど、よかったんですか?」
「ああ。目的の店はすぐそこだ」
俺が指さした先にあるのは服屋だ。
女性の服が主に売っているそこそこの価格がする所だが、まあ、上と下の一セットくらいは高くてもいいだろう。他のはユニ○ロだな。
「服ですか!服ですね!?やったぁ!」
「はしゃぐな!落ち着け!お前は猫か!」
俺の突っ込みはスルーされ、アズキは店内へと足を進めていった。
「可愛い服がたくさんですねぇ」
「連れてきておいてなんだが、俺がこの場にいるのはいたたまれないんだが……」
右を見ても女性服、左を見ても女性服、さらには正面に下着ときたら童貞の俺には少々厳しい環境だ。
落ち着け、落ち着け俺。俺はもう子供じゃないんだ……。
「春斗さん!」
「ん?」
「これなんてどうでしょうか?」
アズキが手にしたのは黒のブラとパンツだった。
一瞬、この下着を着用しているアズキを想像してしまい、顔が赤くなってしまう。
「まぁ、いいんじゃないか?」
「あれ?何で目を逸らすんですか?もしかして私で何か想像して恥ずかしくなっちゃいましたか?」
「てめぇ……。帰ったら覚えとけよ?」
「ごめんなさい許してください調子に乗りました」
全力で謝り倒してくる駄犬をスルーし次の場所へ向かう。次って言ってもこの服屋だけどな。
「春斗さーん。これ可愛くないですか?」
アズキが次に持ってきたのはオレンジのチェック柄のミニスカートだった。
「お前、今スカート同じようなやつ履いてるじゃないか」
今のアズキの服装は、安物の無地の黒帽、白シャツにデニムのジャケット(母の物が俺の荷物に紛れ込んでいた)、さらにピンクのチェック柄の膝より僅かに高いミニスカートだ。ちなみに尻尾はスカートに穴が開いていた。こいつの服全部穴開けなきゃいけないのか?
「可愛ければいいのです!後はこれを元に組み合わせを考えます!」
そこら辺は自分に任せよう。
俺は服のことは知らんよ。
「ちょっと探してみますから試着室の前で待っていてください」
何で犬に待てされなきゃいけないんだ?てかそんな飼い主いるか?
……いったい何分待たされるのだろうか?
さっきから店員さんからの視線が凄いんだが。
もう心がくじけそうだよ。
「お待たせしました!」
「おお。戻ったか……」
「はい!忠犬アズキ!ただ今帰還しました」
まるで軍隊の敬礼のようなポーズをしながらにこりと笑った。
「では、少し着替えてきます。覗いちゃだめですよ?」
「覗かねえよエロ犬」
「時々放たれる春斗さんの毒舌、意外と心抉られるんですよ?」
何かを言い残し、アズキはカーテンの中へ消えていった。
さて……
「帰るか」
「ちょ!それはないですよ春斗さん!」
「冗談だから帽子外してから出てくるなよ!」
周りに人いなくてよかったぜ……
「待っててくださいよ!?絶対ですよ!?」
「お、フリか?」
「違います!」
まんまと俺のペースに乗せられたアズキは逃げるようにカーテンをしめた。
中から聞こえてくるのは布がこすれる音のみ。
い、いかん!これ割と精神が削られていく!
本気で逃走しようか迷ったその時、カーテンが開いた。
アズキの格好はオレンジのチェック柄のミニスカートに、中はわからないが同じくオレンジのコート。そしてまたもやオレンジのキャスケットだった。
普通に黒髪の女の子には少し微妙な格好(個人的に)だと思うが、栗色の綺麗な髪のアズキには似合っていると思う。
「どう、ですか?」
「普通に可愛いと思うぞ?」
「えへへ、ありがとうございます」
この後、レジにて驚きの価格に目を剥くことになるのだが、まぁ、これでこいつの笑顔が見れるなら、それでもいいのかもしれないな。
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