第7話アルシーナ国、ロードグレイ帝国、

 ファトゥナート大陸の中央より西側に、広大な面積を有する国がある。


 アルシーナ神聖王国である。


 現在、中央東側のロード=グレイ帝国とその同盟国で大陸北東部に位置するオルファノ連合と交戦状態で、やや押されていた。


 そんなアルシーナ神聖王国の騎士団の一つ【白騎士団】別名【ヴァルキリー隊】の若き騎士団長【レベッカ=ストリーム】は、国王であり法王のベイソリュート三世から、ある命を受けていた。


「‥‥‥どうしたら良いんだろ、ボクなんかに出来っこないよ‥‥‥」


 レベッカが受けた命は、漠然とし過ぎていて何から取り組めば良いか解らず、暗中模索あんちゅうもさくしていた。


「団長、少し宜しいですか?」


 ドアがノックされ外から女性の声が聞こえた。


「ティファさんかな? 良いよ、入って下さい」


 その声を聞き、ドアが開き女性が入ってきた。


「団長‥‥‥部下に『さん』付けは止めてくださいと何度も言っているではありませんか?」


 開口一番、ティファと呼ばれた女性はレベッカに小言を言う。


くせだから中々難しいんだよ、直すの‥‥‥」


 申し訳なさそうにレベッカがこうべを足たれた。


「その弱気も何とかしてくださいと何度も‥‥‥」


「うー、何でティファさんが団長じゃ無くてボクなんかが団長なんだよぅ‥‥‥」


 白騎士団内で、その高い能力を遺憾いかんなく発揮はっきするティファと自分を比べて項垂うなだれる。


「ヴァルキリー隊の前団長が決めた事です、それに団員は皆納得していますから‥‥‥皆の総意ですので諦めてください」


 ティファの言葉に、レベッカは唇を尖らせて不貞腐ふてくされる。


「‥‥‥それよりも団長、何かお悩みですか?」


「え? うん‥‥‥法王様から白騎士団に勅命ちょくめいが来たんだけど‥」


 そう言って、勅命の書かれた紙をティファに差し出す。


 何も言わず紙を受け取りながめていたティファが、顔をしかめながらレベッカに目線を送る。


「‥‥‥『神託が降りた、西に怪異の兆しありとの事、原因を調査しれを収めよ』‥‥‥何ですかこれ?」

「ね、何なんだろうね‥‥‥」


 二人揃そろって首を傾かしげる。


「漠然とし過ぎています、それにこの時期に白騎士団の人員を割くとは、納得がいきませんね‥‥‥」


 戦況が不利な上、漠然とし過ぎている勅命の為に、ある程度の人員を割いて事に当たらねばならないとティファは目算した。


「白騎士団は戦力にならないって法王様は考えているのかな?」


「それは有り得ません、神の加護を受けているからこそ『色』付きの騎士団なのです、戦力としては王国でも上位です」


 アルシーナ神聖王国の騎士団にとって、色をかんする事は非凡ひぼんな能力をゆうする事と同義どうぎであった。


「だよね‥‥‥でも、なら何でウチに勅命を出してきたんだろ?」


 現在の情勢から、帝国との状態を考えて色付きの騎士団を戦線から離脱りだつさせる意味をつかみかねていた。


「もしかしたら、加護付きで無ければ遂行に支障を来すレベルの怪異なのかも知れませんね」


「‥‥‥そんなのだったら、団員達でも危険じゃ無いかな?」


「これは、私達白騎士団の中の上位クラスで当たらなければならないたぐいのものかも知れませんね、ノートルダム大神官様に詳しい話を伺って来てみます」


 ティファがレベッカの懸念けねんを解消する為に提案した。


「お願いします、ティファさん」


「‥‥‥さん付け、何とか直してくださいね、では、行って参ります」

 そう言うと、ティファは早速行動に移す。


「うー、嫌だなぁ‥‥‥ボク、こんな事の為に騎士団に入ったんじゃ無いのに‥‥‥」


 レベッカの独り言を聞くものは誰も居ない。


ーーーーー


 ロード=グレイ帝国、その巨大な国有面積を持った国は、皇帝メシュケイアの下二大派閥により権力抗争が幅を利かせている状態である。


 その二大派閥の片翼、左大臣ガルネが掌握する組織に、部下のアノス=レイフィールドが有する『十二使途』と呼ばれる組織がある。


 昨今、造反者・離反者が増えていて、組織としての力が弱まってきていた。


 そんな十二使途のおさ、アノスの部屋に左大臣ガルネが訪れていた。


「ほぅ、魔天衆からの報告ですか‥‥‥ならば信頼度は高そうですね」


 アノスはあごに手をやりながらガルネに尋ねた。


「ああ、魔天衆を使うために大司教アルムスク様にかなりの手土産が必要になったがな、お陰で足取りが掴つかめたよ」


 しぶい顔をして答えるガルネ。


「造反者『リリス』と『アイアンメイデン』‥フューゾルに逃げ込んでいたとは、ね」


 二人の顔を思い出しながらアノスが言った。


「『焔帝』に関しては未だに詳細が掴めておらぬがな」

 ガルネが憎々しげに言い放つ。


「‥‥‥まぁ良いですよ、それでどうしますか?魔天衆に始末を頼むのですか?」


「これ以上アルムスク様に恩を重ねられん、コルセイ=リングス達を使う」


 コルセイ=リングスの名を聞き、アノスの表情が歪んだ。


「リリスとアイアンメイデンは、腐っても元十二使途ですよ‥‥‥あの者等ではいささか荷が勝ちすぎるかと」


 アノスが懸念けねん吐露とろする。


「ふふ、あの者等は十二使途の空きの椅子を欲しがっておってな、その椅子が手に入るならば隠し玉を使う、と言っておったわ」


「隠し玉‥‥‥? 十二使途に対抗出来る様なモノがそう有るとは思えませんが?」


 その言葉にクックッと笑い、ガルネが言う。


「元より期待はしておらぬよ、成功するならば御の字、仮に失敗しようと私の腹は痛まぬからな」


「成る程、御尤ごもっとも」

 そう言い返すと、アノスは口角を少しだけあげて笑う。


「では、引き続きいくさでの更なる功績を期待しておるぞ、アノス」


 そう言って、ガルネは部屋を出ていった。


「‥‥‥たぬきが、貴様にとって十二使途も自分の出世の為の道具でしかあるまいが」


 憎々しげにガルネの出ていった扉に呪詛を投げ掛けた。

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