第124話

 中に入った勇海ゆうみは、立て続けに残りの榴弾を撃った。何人かの男達が向かい合う机にグレネードが着弾する。爆発で机が砕け、爆風で周りの男達が吹き飛んだ。

 残りの四発を生き残った連中の中心で炸裂するように撃つ。次々と爆発が起き、敵を吹き飛ばす。

 MGL-140が弾切れになると、勇海と入れ替わりに治谷ちたに雲早くもはやが突進し、持っているライフルを撃ち込む。爆発で態勢が崩れたマフィア達が、ろくな抵抗も出来ずに倒れていく。

「上から来るわ!」

 まどかが警告を送りながら、倉庫内をパーティションのように区切っていたコンテナ上を撃つ。ミニミから放たれた弾丸が、コンテナ上で銃を構える男達を仕止めた。

 勇海も武器を擲弾からSG552に変え、射撃に加わる。

 治谷が銃剣付きのライフルを持って前線で暴れ、その周りを囲もうとする敵にまどかがミニミの連射を行う。それでも仕止め切れなかった敵を、勇海と雲早が倒してフォローする。

 いつもの四人の定石となる戦い方だった。

 一〇分もしない内に、内部の敵の勢いはなくなる。

「よし、粗方片付いたな」

 治谷が、最後に残った敵の首を銃剣で裂きながら言う。

「あとは、製造設備だ」

 雲早も、武器をHK416からサイガ12Kショットガンに切り替える。

 二人が奥に向かったのを確かめ、

「始まってみると呆気ないな」

「油断は禁物よ」

 と、勇海とまどかが言い合う。

 とはいえ、これで製造設備を押さえてしまえばいい。いつものように、任務は完了する。


 ――この時まで、誰もがそう思っていた。


 事態が急変したのはそこからだった。

 倉庫の周りをマフィアの援軍が囲んだ。

 急いで迎え撃つ。

 飛び交う銃弾。弾ける血飛沫。

 多勢に無勢となり、まどかが負傷した。

 その時になって、ようやく雲早が駆けつける。


 しかし、治谷の姿は消えた。

 救援要請し、まどかを庇いながらたった二人で戦う。救援が来るまで、地獄のような時間が過ぎていく。

 二〇分近く経って、勝連かつら達が割いた救援が到着、何とか持ち返した。

 その状況になっても、治谷は姿を見せない。その日を境に、その男の姿は消えた。


 ある憶測が出た。

 ――実は、治谷が裏切っていたのではないのか?

 そう考えれば、辻褄は合う。最初ほとんど手応えのなかった敵に対し、多過ぎる程の増援。止めに、示し合わせたように姿を消した治谷――

 勇海は、そのようなことを考えたくなかった。

 ――あの男が裏切るなんて、何故考えられる? 理由は?


 その後、諜報部の捜索により、治谷の潜伏場所が判明する。漁港近くの民宿に偽名で泊まっていた。

 万が一戦闘になったときのため、幹部含めた実力者達で部隊を構成して向かった。それに、勇海も加わっていた。

 乗り込んだ勇海達への答えは、弁明の言葉ではなく銃弾だった。

 激しい戦いの末、数に圧倒されて治谷が逃亡を図る。場所が港に近かったため、クルーザーを奪って逃げようとした。

 最後、治谷を追った勇海がM686を発砲。記憶が正しければ、治谷の左胸に弾丸が命中した。

 船に乗ろうとした治谷が、着弾でよろめき、海面へ落ちていった。

 遺体を捜したが見つからず、「沖に流されて鮫の餌となったのでは」という結論でこの件は終わったはずだった。

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