第87話
外来棟二階に上がった
少し駆けていくと、敵に遭遇する。
雲早の持つHK416が火を噴き、爆発に混乱する二人の中国軍崩れを撃った。二人とも、一発の弾を撃つことなく倒される。
銃声に気付いた構成員達が、わらわらと現れた。雲早達の姿を認めると、持っているトカレフ拳銃を二人に向け発砲してきた。
雲早は、近くの診療室から出てきた敵を撃つと、開きっ放しの扉へ跳び込む。空中でカービン銃を連射し、さらに何人か撃ち倒した。
「リロード!」
部屋の中から、ルナへ向けて叫ぶ。
ルナがG36Cカービンを撃って敵を牽制している間に、雲早は弾倉交換を行った。
「シュウさん、新手!」
ルナが警告を送ってきた。
新たに95式自動歩槍を構えた中国軍崩れ達が現れた。その数九人。
それに勢いづいたのか、生き残っていた三人のチンピラ達も攻撃を畳みかけてくる。
敵の一人が、アサルトライフルを連射しながら、雲早の隠れる診療室まで突撃してきた。弾をばらまいてルナを牽制し、部屋の中を撃ちまくる。
朽ち始めていた診療用のベッドや机に、次々とライフル弾が弾痕を刻んだ。
だが、肝心の雲早には一発も当たっていない。
「どこに行った?」
男は雲早の姿がないことに疑問を抱きながら部屋に入ってきた。
それが、致命的なミスだった。彼は、入り口の死角に目を巡らせなかった。
入り口側の隅で、壁に手足を着けて天井の隅に貼り付いていた雲早が、男に飛びかかる。押し倒し、組み付いて、首の骨を圧し折った。
まず一人。
『さらに二人、部屋に接近』
耳に着けたイヤホンから、ルナが小声で知らせる。
雲早は素早くスリングで吊ったHK416の銃口を入り口に向けた。人影が見えた瞬間に、発砲。胸に弾丸を受けた敵が、もんどり打って部屋の中に転がってくる。
もう一人は、咄嗟に身を引いて雲早の射撃を避けていた。入り口で隙を窺うつもりだろうが、雲早からは見えなくても、ルナからは丸見えだ。敵の弾幕の間を縫って、ルナがその中国軍崩れを射殺する。
これで三人。
雲早は、撃ち倒したばかりの敵の死体を持ち上げ、外へ投げ出した。
案の定、死体を雲早と勘違いしたチンピラ三人が、トカレフを撃ちまくる。攻撃が死体に向いている間に、雲早がカービン銃をフルオートで撃ち、三人を瞬く間に穴だらけにした。
中国軍崩れが気付いて雲早へライフルを撃ったが、その時には雲早は診療室内に身体を引っ込める。代わりに、ルナがそいつの額を撃ち抜いた。
残り五人。
「ルナ、スタングレネード持っていたよな?」
雲早は無線で尋ねる。
『持っているけど、効果出ないわよ?』
ルナから即座に答えが返ってきた。
効果が出ない、と言ったのは、敵がいる位置の問題だ。激しい光と爆発音で、敵の視覚と聴覚を一時的に狂わせるスタングレネードは、狭い室内で最も効果を発揮する。この二階のスロープは一階と吹き抜けになっていることも手伝い、かなり広い空間だ。音が反響し辛く、効果時間が期待できない。
「構わん。一瞬だけ、敵の目を潰せればいい」
雲早の指示に対し、ルナが「わかった」と応える。
雲早は入り口で音と光に備えた。入り口の壁に潜み、目と耳を守る。
ルナが、閃光手榴弾を投げた。
壁越しに、炸裂音を聞くと、雲早は診療室から飛び出す。薄暗い廃病院の中、網膜に焼き付いた激しい光に混乱する敵に向け、一気に駆けた。
雲早の目論見通り、目を潰された敵はろくに銃が撃てず、容易く接近を許す。
敵が遮蔽物に使っていたベンチと机を跳び越えると、ライフルを持って右往左往する中国軍崩れ二人にライフル弾を浴びせた。
雲早が着地すると、ちょうど一人、目を押さえてうずくまる敵がいた。至近距離でスタングレネードの光を直視してしまったらしい。雲早は苦しむ男の首を踏みつけ、頸椎を無慈悲に砕く。
ここに来て、ようやく一人が視覚の異常から回復した。雲早の姿を認め、慌てて95式自動歩槍を連射。
雲早はその射撃を横に転がって回避する。すると、射線上にいたもう一人の中国軍崩れが、味方の弾を食らって倒れた。
同士討ちをしてしまい、「あ」と相手が驚いた頃には、雲早は照準を合わせていた。引き金を絞り、男の頭をライフル弾が貫く。
「片付いた」
雲早がルナに伝えた。彼女は周りを警戒しつつ、雲早に合流するため近付いてくる。
その時、雲早に向け、飛来する陰があった。ルナが「シュウさん!」と警告を送る。
雲早は咄嗟にHK416で、飛来物を受けた。柳刃飛刀が、ハンドガードに突き刺さる。
次の瞬間、銃口がそっぽを向いていたライフルを、別の男の攻撃が弾き飛ばした。
男が持っていたのは、一メートル程の長さの樫の棒だった。中国武術では幅広い流派で使われている武器、棍だ。
男は銃を払った棍で、雲早の頭を薙ごうとする。その打撃を転がって避けた雲早の傍らに、柳刃飛刀が突き立つ。
ルナが援護しようとするが、棍使いの男と雲早が邪魔で飛び道具を使う男を狙えない。下手をすれば、誤って雲早を撃ってしまう可能性もあった。
男が棍を突き出した。
雲早は僅かに身をずらして避けると、棍を左脇に抱えるように押さえ込む。無防備になった男の顔面に、右肘を突き出した。
しかし、相手はそれを読んでいたかのように、左手を棍から離して肘打ちを受け止めた。
今度は雲早が無防備になったかと思われた。そこに向け、柳葉飛刀が再度投擲される。
だが、相手は肘打ちは読めても、同時に放った下段蹴りを見逃していた。雲早の右足が、男の左膝を折る。
男の踏ん張りが効かなくなった。
雲早は右手で棍を掴み、引き寄せるように振り回す。棍を握ったままの男の背中に柳葉飛刀が刺さった。盾になった男が痛みに呻く内に、棍を奪う。雲早はその男に向け棍をフルスイングした。肩を強打された男の身体が、欄干を越え、吹き抜けから一階に落下していく。
下の階から絶叫が響いた。
再び、柳葉飛刀が飛んでくる。
雲早は手元に残った棍で飛刀を弾くと、片手に持ち替え棍を投げた。槍投げのように飛翔する棍が、次の飛刀を投げようとしていた男の喉に直撃する。
「無事?」
ルナが尋ねながら、倒れた男の胸に銃弾を叩き込む。
「なんとかな」
そう言い、雲早は非常階段を睨む。先程の男達は、どうやら上から来たようだ。
「まだ上にいそうだな」
呟いた直後、足音が響く。それも、二方向同時からだ。一方は非常階段、もう一方は二人の後方――二階のスロープだ。
「ルナ、上の奴らを頼む」
雲早は指示を出し、ホルスターから大型拳銃サイズの短機関銃、KBP PP-2000を抜き、各腕に一丁ずつ構える。
ルナが階段に向かったのを確認し、雲早は曲がり角から聞こえる足音が大きくなった頃合いを見計らって飛び出した。突然飛び出した人影に驚いた陰に向かって、両手のサブマシンガンを撃ちまくる。9mm口径のアーマーピアシング弾が、ヤクザ達を貫いた。
「おのれ!」
叫び、ライフルを構えた男がいた。
雲早は転がって弾幕を回避しながら、両手の銃を撃ちまくる。
鷲尾も動き、互いに弾丸を当てられない。
代わりに、鷲尾の取り巻き達が血の海へ沈んでいく。
互いの銃が弾切れを起こした。
鷲尾が、ライフルを捨て、両手で、拳銃を抜いた。スタームルガー スーパーレッドホーク。四四口径のマグナム弾を使う回転式拳銃が、各手に握られ、次々と砲声が響く。
雲早が一瞬対応を考えつつ立ち上がった瞬間、動きが僅かに鈍り、マグナム弾が命中した。胸と腹に、一発ずつ。衝撃で肺が止まり掛けた。雲早は両手からサブマシンガンを落としつつも、何とか残りの弾丸を避ける。
鷲尾がレッドホークを撃ち尽くした。
今度は、雲早がショルダーホルスターから二丁の拳銃を抜いた。愛用の、Cz75だ。
まさか、相手はさらに銃器を持っているとは思いも寄らなかったらしい。雲早の立て続けの連射を受け、鷲尾の身体が踊る。拳銃を弾き飛ばし、急所に次々と穴を穿つ。
二〇発近くの弾丸を受け、ついに鷲尾が倒れた。
雲早は、荒い呼吸をしながら、壁に寄りかかる。撃ち込まれた弾丸は、防弾用のセラミックプレートが止めていた。だが、着弾の衝撃を完全に押さえられるわけではなく、思いっきりバットか何かで殴られたような痛みが続いている。
「片付いたが……やっぱり慣れないことするものじゃないな……」
そう呟き、雲早は壁にもたれ掛かるようにしながら腰を下ろした。
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