第21話
AM5:00、まだ冬の夜が明けぬ頃、静寂を爆音が引き裂いた。
「総員、突入!」
勝連の号令と共に隊員が銃を構える。砕けて門の役割を果たさなくなった板の間から敷地に入った。
その先陣を切ったのは、
二十人近く倒したところで、建物からタウルスPT92やUZIを持ったヤクザが出てくる。
「
「了解」
H&K社の傑作ライフルG3を基に作られたHK11Eは機関銃らしからぬ高い命中精度を誇る。ドラムマガジンには7.62mmNATO弾が七十五発装填されている。
7.62mmNATO弾の射程は、拳銃弾の比ではない。ヤクザが照準を付ける前に撃ち抜く。
そこへ勝連も加わり、M14で狙撃した。相手は一発も撃てぬまま打ち倒されていく。
防衛省特殊介入部隊――通称MDSIの面々は
目的は、テロ組織ナインテラー幹部、トレスの捕獲。
投入された人数は突入部隊、後方支援合わせ二十人に満たない。作戦の指揮は幹部の勝連武と
数字だけ見れば不利な状況をMDSIは隊員・装備の質でカバーする。
「何事だ!」
離れでトレスが起き上り叫ぶ。
「襲撃の模様です!」
ナインテラー構成員の一人が現れ、事態を告げる。
「トレス様、ここは危険です、非難を!」
「う、うむ」
トレスはナインテラーの構成員達に守られながら、離れから出た。しかし、脚に傷を負ったせいでその足取りが重い。
そして、その瞬間を待っていた者達もいた。
MDSIの駿河申、
「何っ?」
ナインテラーのメンバーが持っていたイングラムM10短機関銃やVz61スコーピオンを構えようとする前に、三人の怒涛の攻撃が始まった。
まずは望月。先頭の男の銃を手刀で叩き落とすと、顎に拳を振るう。二人目の首を手刀で折り、三人目の銃を蹴り飛ばして鳩尾に拳を叩き込んだ。
次に匠。握ったナイフで一人の頸動脈を撥ね斬り、慌てて銃口を向けるもう一人の首を掻っ斬る。次の瞬間にはその手からナイフが飛び、離れている別の男の首を貫いた。
そして、三人の中で一番苛烈だったのが駿河だった。
肝臓、鳩尾、顎の順に殴って一人沈め、別の構成員に組み付く。脇腹に膝蹴りを叩き込み、腰を曲げる男の首に肘を打ち込んだ。その男を敵に突き飛ばし、跳躍からの上段回し蹴りを繰り出す。あまりの大技に意表を突かれた相手は、頭部を蹴られ吹っ飛んだ。
「ヒョオオオオオオオオ!」
駿河は奇声を上げながら、ナインテラーの男達を次々と捩じ伏せていく。銃を撃たせる間など、与えない。
いつの間にか、残るはトレス一人となった。
「う……あ……」
あまりの光景に、絶句するトレス。
そこへ、望月がゆっくりと歩を進める。特に身構えることなく、自然体そのものだ。
「う、うわあぁぁぁ!」
トレスは恐怖に顔を歪めながら慌てて右フック気味のパンチを望月に放つ。
それに対し、望月が左足を左前に踏み出しながら、左手で相手の右肘を外側へ払い、鳩尾へ右拳を叩き込む。
トレスの身体が前屈みになりながらふらついた。
「ほい、おしまい」
匠がナイフの柄頭で首筋を打つ。その一撃でトレスは気を失う。
「あ! ここまで侵入者が!」
「撃ち殺せ! トレスさんを奴らに渡すわけにはいかんぞ!」
金牛会のヤクザが別邸の通路からこちらを見て叫ぶ。指示を出したのは組長の
駿河は背負っていたAG320付のG36Kを構える。すでにグレネード弾は装填済みだ。安全装置を外し、グレネード弾を発射する。
別邸の壁が崩れ、ヤクザが爆発に巻き込まれた。さらにG36Kで銃撃を加える。一分も掛からずにヤクザ達を片付けた。
「牛頭に逃げられましたね」
匠が多少悔しそうに言う。匠と望月も銃口から硝煙の立ち上るブルパップ式のカービン銃を構えていた。
「まぁ、一応トレスの捕獲は出来たし、私等は撤収よ、撤収。後は、勝連さん達のチームに任せるとしましょう」
勇海が構えるのは、HK416アサルトカービン。アメリカのM4カービンをH&K社が大胆な改修をした銃だ。発射方式を変更したことで射撃時の安定性と信頼性を重視したモデルとなっている。ハンドガード下にはレールシステムによってAG320を追加。サイドアームはS&W社の回転式拳銃、
レイモンドの主武装は梓馬や通津同様ミニミ機関銃。さらにフランキスパス15を背負っていた。
警備しているヤクザを勇海が次々と撃ち、敵主力の待つ離れに辿り着く。
離れではM16A2アサルトライフルを持った金牛会の精鋭達が慌しく戦闘準備していた。
そこへ勇海はグレネード弾を撃ち込む。爆発で何人かの組員が吹っ飛び、炎と煙にのた打ち回った。
相手が反撃を開始する前に、レイモンドがミニミで弾幕を張る。
その隙に勇海はAG320に弾を込め直し、もう一発グレネード弾を見舞った。
離れは完全に崩壊し、抵抗を試みたヤクザ達を飲み込む。
「よし、次は……」
と、勇海が周りを確認すると、新手のヤクザが現れる。その中の一人に目を留めた。
「レイモンド、牛頭だ!」
「こっちにもいたかぁ!」
牛頭がベレッタM12短機関銃を乱射した。
それを合図に、周りのヤクザが次々と持っている銃を撃ち始める。
勇海とレイモンドも応戦した。
勇海のHK416が弾切れし、弾倉を交換しようとする。
その時、気配を殺して潜む男達が一斉に勇海に襲い掛かった。
「ユーミ!」
レイモンドは慌ててミニミを向けるが、射線上に勇海がいるため撃てない。
その男達は銃ではなく、日本刀を持っていた。その数九人。刀を抜き放ち、勇海に斬りかかる。
勇海はHK416を捨て、右手でM686を抜いて即座に撃った。.357マグナム弾が先頭のヤクザの胸を貫く。二発目を撃つと、別の男の日本刀の鍔辺りに命中し、日本刀が手から勢いよく飛んだ。三発目で、丸腰となった男を撃ち倒す。
「はぁっ!」
間合いを詰めた男が刀を水平に振るった。勇海は後ろに身体を投げ出す。顔面すれすれを刃が通過した。背中を地面に着けると、M686を一発男に撃ち込む。
さらに別の男が仰向けの勇海を刀で突き刺そうとした。勇海が転がってやり過ごすと、地面に切っ先が突き立つ。片膝立ちの姿勢でM686を撃って片付けた。
さらに刀を振り下ろそうとする男に、勇海はこちらから組み付いた。振り下ろされる前に体当たりを食らわせるが、その男は体格がよく、耐え切った。勇海はM649を左手で抜いてゼロ距離から二発撃つ。貫通した弾丸が赤い帯を空中に描いた。
そして、しつこく斬りかかろうとする男の刃を、先程撃った男を盾にしてやり過ごす。
再び地面を転がりながら、M649でまず足に一発、膝を着いたところへさらに一発。
これで六人倒した計算になる。勇海の銃はM686、M649共に残り一発ずつ。まだまだ血に飢えた日本刀を持つ男がいる。
「おらぁ!」
そこへレイモンドが乱入した。ミニミを捨て、男の一人にドロップキックを炸裂させる。
別の男が日本刀を振りかぶり斬りかかるが、振り下ろされる前にレイモンドの右腕が投げ縄の如く男の首を捉えた。ラリアットを食らった男は地面に叩きつけられる。レイモンドは背負っていたスパス15ショットガンを構え、男に止めを刺した。
「うぉおおおお!」
ドロップキックを食らいながらも立ち上がった男と、残った最後の一人が挟み撃ちの形で突進してくる。
勇海は両手の銃をそれぞれ男に向け、同時に引き金を絞った。
「……これで片付いたな」
勇海が拳銃に弾を込め、カービンを拾うと、レイモンドが思い出したように言う。
「……牛頭は?」
別邸の駐車場には、霧生利彰が滞在時に使うものも含め多くの車両が並ぶ。
明智はMP5短機関銃を構えている。日本の警察に照らし合わせれば最上級の装備だが、他の三人と比べた場合貧相であった。
太刀掛は米軍に愛されて止まないM4カービンとM203グレネードランチャーの組み合わせを使用。ルナは駿河や久代同様G36KカービンにAG320グレネードランチャーを装着している。楠はミニミ軽機関銃を装備していた。
作戦開始時刻と共に、正面門から爆発音が聞こえた。銃撃と爆発の音が続き、屋敷内で火の手が上がる。
「こちらも行くぞ」
太刀掛が合図し、ルナと共に止まっている車に向けグレネード弾を発射した。見張りのヤクザを巻き込みながら車が吹き飛ぶ。
そこへ楠がミニミを撃ち始めた。二、三発ずつ区切った短連射で一人ずつ確実に仕留めていく。
ミニミを撃ちながら進む楠に、車の陰からヤクザが銃を向ける。
だが、楠は相手が撃つ前に跳躍し、さらにボンネットを蹴って高く跳んだ。機関銃を抱えたその姿からは到底予想付かない動きだ。そのアクロバティックな動きに翻弄され、相手は一発も撃てずに、楠の跳び回し蹴りを首に受けた。
そのヤクザの首から、骨の折れる不気味な音がする。
楠は着地の際に受け身を取り、殺し切れなかった勢いのままに地面で背中から一回転。その隙を狙おうとしたヤクザ達は、太刀掛とルナによって討ち取られた。楠は体勢を立て直し、再びミニミで撃ちまくる。
明智も別のヤクザ目掛け、MP5をセミオートで撃った。ヤクザの左胸付近に命中する。
――やったか?
しかし、ヤクザは一瞬怯んだだけで、明智に銃口を向ける。
明智は慌ててもう一発撃とうとしたが、引き金を引く前にヤクザは頭から鮮血を撒き散らした。
「相手を一発で無力化したいのなら、頭に確実に当てることね」
ルナは明智に素っ気ないアドバイスを残し、別の敵に向かった。
三人の戦い方は鬼気迫るものがあった。
グレネード付きのカービンを持つ二人は、的確にヤクザを撃ちながら、グレネードで車両を破壊していく。
楠はミニミを連射しながら、時に手榴弾を抜いては投げつけた。銃撃から身を隠すヤクザを車ごと爆破する。
一方で、明智が出る幕はほとんどない。明智が撃とうとした頃には、すでに相手が片付けられている。
大半の車両を破壊し、見張りと迎撃に出てきたヤクザの殲滅を終えた。
そのとき、別邸に繋がる塀の出入り口から、ヤクザ達が何人も出てきた。その中には、直前のブリーフィングで見た顔が混ざっている。
金牛会組長の牛頭と若頭の
そして、明智以外の三人もすでに気付いていた。確保対象はトレスだけなので、楠がミニミを掃射しようとする。
だが、それより早く宍戸が楠に詰め寄った。その手には、鞘に納められたままの日本刀が握られている。
宍戸の右手が刀の柄に掛かり、刃が鞘走った。
宍戸の刀が煌めき、楠は右肩を斬られた。ミニミを落した楠は、バックステップで間合いを取りながら左手でバックアップ用の拳銃を抜こうとする。
しかし、抜く前に再び刀が弧を描いた。ベルトが切れたレッグホルスターが、地面に落ちる。
楠の太腿が斬られ、派手に鮮血が飛んだ。太腿には重要な動脈が流れているため、そこが傷つくと失血多量の危険性がある。
「クッス!」
ルナが悲鳴にも似た声を上げる。
明智は宍戸に向けMP5を撃つが、相手の動きを捉えられない。
そこへ、砲音が響いた。
実際には、大口径リボルバーから撃たれたマグナム弾の銃声だが、聞き慣れていない明智は大砲と勘違いした。
そして、腹部に衝撃を感じた瞬間、明智の身体が浮いた。誇張でもなく着弾の衝撃で浮いたのだ。
明智は背中から車に叩き付けられる。
その衝撃に、明智は意識を失った。
勇海新が牛頭を追って駐車場まで来たとき、ちょうど明智が牛頭に撃たれたところだった。
牛頭の握るタウルス社製大口径リボルバー、レイジングブルの銃口からは硝煙が上がる。
「よくも!」
勇海は怒りのままに、牛頭へ向け乱射した。
牛頭は素早く車両を盾にし、周りにいたヤクザだけが撃ち貫かれる。
車ごと吹き飛ばそうと勇海はグレネードランチャーを構えるが、運悪く相手の増援が到着した。SUVの窓から霧生組の組員が次々とこちらを撃ってくる。
「くそっ!」
勇海は増援の先頭車両に目標を変え、AG320の引き金を絞った。グレネードの直撃を受けたSUVが炎を上げながら横転する。
その間にルナとレイモンド、太刀掛の三人が明智と楠を退避させた。
勇海は時間を稼ぐため、組員達にライフル弾を浴びせる。弾が尽きると、弾倉交換の手間を惜しみ拳銃で応戦した。
そこへ、支援部隊と合流した勝連武達が乱入した。防弾処理を施したワゴン車で突っ込み、勇海達と霧生組の間に割って入る。ワゴン車が盾となり、窓から次々と霧生組のヤクザ達に銃撃が加えられた。
「早く乗れ!」
「だが、牛頭が!」
勇海は勝連の命令に歯向かう。牛頭を仕留めなければ、勇海の気が済まない。
「トレス確保という目的は達せられた! これ以上持ち堪えるのは無理だ! 脱出する!」
「ちくしょう!」
勇海は吐き捨て、ワゴン車に乗り込んだ。他の四人も搭乗したらしく、すぐにワゴン車が発進する。発進と同時にありったけの手榴弾とグレネードが、置き土産代わりに霧生組に贈られた。爆発で相手の態勢が崩れている隙に、この場を去る。
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