第14話
「あいつら……何を勝手に!」
応戦しながら
部下を失った
「
とりあえず、倉庫裏口に最も近かった
そのとき、トレスが単独で逃走を図ろうとした。
太刀掛はMP5Kのセレクターをフルオートにセットし、トレスの足元へ向け弾をばら撒く。そのうちの一発がトレスの左太腿に当たった。これで、トレスは素早い動きが出来ない。
「
「了解」
狙撃を続けていた
太刀掛は
「くそぉ!」
追いつかれると察したか、トレスが振り返り拳銃を向けた。
だが、引き金が引かれる前に、匠がナイフを投擲する。手の甲にナイフが突き立ち、トレスは拳銃を落した。左手で拳銃を拾おうとしたトレスの眼前に、太刀掛達三人が銃口を突きつける。
ついにトレスが抵抗を止め、力石と匠が抑えつけた。太刀掛は右手でMP5Kを保持しながら無線で勝連に報告する。
「トレスの身柄を確保しました」
倉庫内での銃撃戦は、より一層激しさを増していた。
見ると、逃げたはずの
何考えてんだ、と思う。銃撃戦の最中に戻ってくるなど、正気ではない。
だが、松澤の後に続いて、ルナと
案の定、こちらの銃撃から隠れていたヤクザ達が、侵入してきた女二人に向け撃ちまくっている。格好の的になるのは明らかだ。悲鳴が響いたが、女ではなく男のものだったので勇海はホッとする。おそらく、二人が撃ち返して倒したヤクザのものだ。
こちらとしては、気が気でないのだから心臓に悪い。
「どうしましょうかね、あれ?」
梓馬が聞いてきた。
「決まってるだろ、助けるんだよ」
そう言い、勇海は弾倉を交換したばかりのSG552を梓馬に渡す。ライフル弾の貫通力で、ルナ達に被害が出るのを防ぐためだ。
代わりに、勇海はヒップホルスターから
S&W M686――数多くの傑作リボルバーを世に出したアメリカの大手銃器メーカー、スミス&ウェッソン社製の拳銃で、「ディスティングイッシュト・コンバットマグナム」の愛称を持つ。材質は錆に強いステンレス製。4インチの銃身の下には、銃口まで伸びるフルレングスアンダーラグという部品があり、強力なマグナム弾の反動による銃口の跳ね上がりを抑制すると同時に、この銃のフォルムを力強く見せる。グリップは木製のものから握りやすい硬質ラバーグリップに替えられ、
勇海は親指で撃鉄を起こし、
「援護頼む」
「OK!」
と、背後の支援を梓馬に任せ、遮蔽物にしていたコンテナから飛び出した。
ルナ達に気を取られていたせいか、霧生組の反応が遅れる。
勇海から見て左のコンテナに隠れているヤクザの一人が、慌てて短機関銃の銃口を向けてくる。
勇海は顔を出したヤクザの頭目掛け間髪入れずトリガーを絞った。撃鉄が雷管を叩き、火薬量が多いマグナム弾特有の銃声が鳴る。爆発にも似た衝撃が勇海の腕を駆け巡った。
そのヤクザは一発も撃つことなく眉間を撃ち貫かれる。
他のヤクザも一斉に銃を勇海に向けようとするところに、梓馬による援護射撃が始まった。一部のヤクザが引っ込んだ。
他のヤクザの銃撃を回避しつつ、倒したヤクザの隠れていたコンテナの陰に飛び込む。
そこに隠れていたもう一人のヤクザが、飛び込んだ勇海を見た途端、何か喚きながらトカレフを向けてきた。
勇海は伏せながら発砲し、ほぼ同時にヤクザも撃つ。互いの弾丸が交錯し、マグナム弾が男の胸に当たった。一方で男のトカレフ弾は、勇海の頭上を無益に通過する。
身を低くしながら別のコンテナを窺うと、二人のヤクザが荷を盾にして梓馬の射撃をやり過ごしているのが目に入った。梓馬からは隠れられているだろうが、勇海の位置からは丸見えだ。相手が気付く前に一発ずつ撃ち込んで黙らせる。
これで四人。
ルナ達の援護に向かおうか一瞬迷ったところで、背後から金属音が聞こえた気がした。
勇海は咄嗟に前方へ身を投げる。
先程まで勇海がいた場所に、大量の弾丸が弾けた。前転をしつつ、短機関銃を撃つ男に狙いを定め発砲する。男の右肩に当たり、男が仰け反った。激しい動きをしながらでは狙いが逸れてしまったようだ。勇海は男の攻撃が止まっている間にもう一発撃ち、確実に止めを刺す。
これでM686の弾倉が空になった。
勇海がM686の弾を込め直そうとしたとき、これまでのヤクザとは明らかに体格が違う大男が襲いかかってきた。分厚い筋肉に覆われた腕には刺青が彫られ、手には鉄パイプを持っている。
勇海は素早く右手を上げ、鉄パイプの軌道を逸らすが、右手が痺れ、M686を落してしまった。
さらに男は水平に鉄パイプを振るう。
勇海が頭を下げると、鉄パイプが頭上を勢いよく通り過ぎた。
頭を上げて反撃しようとした勇海の顔に、男の足が迫る。その殺人的な蹴りを両腕で防御するが、勇海の身体が吹っ飛び、背中を床に打ちつけた。
男が鉄パイプを振りかぶり、倒れた勇海目掛け振り下ろそうとする。
勇海は左手でホルスターから、五発装弾の小型リボルバーS&W M649ボディガードを抜いた。胸に照準を合わせ、二度引き金を絞る。
男は鉄パイプを落とした。胸元に血の染みが広がり、男が倒れる。
勇海がM686を拾うと、呻き声が耳に届いた。どうやら仕留め損なったらしい。恐怖と苦痛に歪む男の眼前に、M649を突きつける。
「二丁拳銃は、映画や漫画だけのものじゃないぜ」
最後に一発、男の頭に撃ち込んだ。
撃ち返しつつ、二人は近くのコンテナに身を隠す。
相手は短機関銃や拳銃を絶え間なく撃ち続け、反撃する間も与えてくれない。
「女二人相手に大人気無いわね、あいつら!」
楠はベネリM3に予備の弾薬を込めている。
「今時のヤクザなんてそんなものよ」
ルナもMP7のマガジンを抜き、残弾を確認する。
そのとき、一際大きい銃声が轟いた。明らかに、ヤクザの持つトカレフやマカロフなどとは違う。さらに二、三度轟く度に、ヤクザによるこちらへの攻撃が弱まっていった。
「これって、マグナムの音よね? ひょっとして……」
「あんなの使うの一人しかいないでしょ」
ルナは、これが兄・勇海新による援護であることを確信していた。
「形勢は逆転したわ、行くわよ!」
ルナは銃撃が止んだところへ飛び出した。遅れて楠も続こうとするが、再開した銃撃に阻まれる。走りながらMP7をフルオートで撃ち、こちらを狙おうとしたヤクザを撃ちまくる。
別のコンテナに身を隠したところで、MP7の弾が切れた。マガジンを換えようとしたところに、死角から現れたヤクザがこちらにマカロフの銃口を向けてくる。ルナはMP7を捨て、レッグホルスターから拳銃を抜こうとするが、間に合わない――
そこへ、背後から一発の銃声がし、こちらを狙うヤクザの頭から鮮血が弾ける。
振り返ると、入り口近くのコンテナから、こちらにG36Cを向ける
手を挙げ、感謝の意を示すと、久代は頷きつつ別の敵を撃つ。
ルナはホルスターから小型拳銃H&K USP Compactを抜き、松澤を追った。
途中で出てくるヤクザには、冷静に二発ずつ撃ち込み、確実に仕留めていく。三度程繰り返したところで、ようやく松澤を見つけた。
ルナは松澤が持っていた拳銃を撃ち落とし、「動くな」と言おうとしたとき、横から迫る影に気付き、後ろに跳ぶ。
次の瞬間、ルナの持つUSP Compact拳銃が半ばから斬り飛ばされた。気付くのが遅れたら、右手を持っていかれたかもしれない。
「無事かい、松澤さん」
「おぉ、
柳と呼ばれた男は抜き身の日本刀を右手に構えている。
いくらUSPがポリマー製とはいえ、中の銃身ごと切るとは恐ろしい腕前だ。
ルナは使い物にならなくなった右手のUSPを柳に投げつけた。
柳は最低限の動きで弾く。
ルナは右手でナイフを抜くと、柳へ肉迫し、首目掛けナイフを振るった。
だが、柳はその一撃も日本刀で防御した。両手で柄を握り、脇を締めた無駄のない動きでナイフを逸らすと、ルナの左肩へ袈裟に斬り下ろそうとする。
しかし、ルナはその動きを読んでいた。
左手でもう一丁のUSPを抜き、左肩と日本刀の間に割り込ませる。今度の斬撃は動きが小さい分勢いが足らず、刃がUSPのスライドに食い込んで止まる。
ルナは柳の右膝へ蹴りを放った。動きをコンパクトにまとめながら、関節の一番脆い部分を確実に狙い、相手の膝の皿を割る。
柳が片膝を着いた。
ルナは押し切られる前に右手のナイフを再び柳の首へナイフを突き出す。柳は咄嗟に左手を柄から放し、首を守ったため、ナイフは左腕に刺さった。
ルナはナイフから手を放すと、今度は相手の右手首へ手刀を打ち込んだ。この打撃で手首の骨を砕き、刀を奪い取る。相手が残った左手で捕まえようとするところを後退し、奪った刀を振りかぶった。刃を振り下ろし、柳の眉間を両断する。
鮮血が傷口から噴出し、ルナの顔を紅く濡らした。
柳は虚ろな目を天井に向けながら倒れる。
ルナは軽く刀を振って血を払い落し、松澤に切っ先を向けた。松澤は「ひぃっ」と情けない悲鳴を上げ、逃げようとする。暴力団の幹部にしては情けなく見えるが、今のルナは返り血を浴びた上に、血が滴り落ちる刀を握っているのだから、そんな姿を見て臆さない方が無理というものだろう。
そこへ、銃声と共に松澤の足元で銃弾が跳ねた。
「おっと、こっちは通行止めだぜ」
勇海新が、左手でM686を構えて現れる。そして、ルナの方を見ると、
「おいおい、少し見ない間に酷いメイクになっちまってるな」
と、軽く冗談を飛ばしてくる。
「そう言う兄さんこそ、いつの間に左利きに?」
「さっき鉄パイプを持ったお兄さんに矯正されてな」
二人は冗談を言い合いながらも、
「さて、もう逃げられないぜ?」
勇海が松澤を取り押さえようと近づいたとき、近くの窓が割られ何かが投げ込まれた。
その正体に気付いたルナは「兄さん!」と警告し、その場から離れようとする。
投げ込まれたのは、アメリカ製MkⅡ手榴弾だった。この手榴弾は爆発するとその破片によって半径5~10mの標的をズタズタにする。
MkⅡ手榴弾は窓を突き破った瞬間レバーが外れ、信管が作動していた。そして床で跳ねた数秒後には爆発し、辺りにいた人間を巻き込んだ。
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