第40話 時間配分

「また、食べすぎちゃったわ……しかも、猛烈に……」


 瑞菜はまだ引きずっていた。

 今、俺達はイタリア料理クチーナ(イタリア語で台所)から近くのスーパーへ歩いている。

 

「今日の夜は私が、ローカロリーなご飯を作ります!

 買い物に行きましょう!」


 瑞菜さんの力強い宣言だ。お弁当にするつもりだった俺の意志は遠くへ吹き飛ばされた。


「気を取り直してメニュー考えないと……満腹のときってメニュー浮かばないよね」


「確かに。ほんとに美味しかったしねぇ……」


「そうなの、ホントに……」


 歩きながら昼を食べたばかりの状態、しかも超満腹、その状態で夕飯の献立を考えるという高難易度クエストだ……


「8時からダンジョン攻略だね」


「装備もそろえて次の階層行きたいよねー」


「瑞菜は作成系は何いくつもりなの?」


「料理か裁縫かなぁ……琉夜は?」


「鍛冶だろうねぇ、ラックは製薬だし、ケアさんは錬金って言ってたし。

 誰か一人いないとってのもあるし、鍛冶ってやっぱ男の子は好きなんだよ」


「頼りにしてます! でも作成レベル上げにも時間回さないといけないのかぁ……

 時間がいくつあっても足りないね!」


 こういう感じでお互い共通の趣味があることは嬉しい。

 一般的にゲームの話だといい年してと言われてしまいそうだけど、瑞菜なら安心だ。


「俺も、色々と動き始めたら、時間は減るなぁ……」


「それでも、出来る時にやればいいよ。お互いに気張りすぎないでね」


「うん」


 瑞菜が手を繋いでくる。暖かく、柔らかい。


「手をつなぐだけで、こんなに幸せなんだね」


 人と手を繋いで外を歩く。それだけで心が暖かくなる。


「瑞菜との時間も出来る限り作りたいしね……」


「家近いからすぐ会えますね?」


「そうだね、そこは運が良かったよ」


 そんなことを話しているとスーパーに着いた。

 今日は特売日らしく、夜のおかずを求めた主婦たちで混雑している。


「混んでるんだね……」


「ここ、安くて物がいいからいつも混んでるんだよー」


「そういえば、献立決まった?」


「……実際に物を見れば思いつくかなーって……」


「そうだね」


「琉夜は何か食べたいものある?」


「あーーー、スーパー来たら思い出した。

 俺さ、ほとんど刺し身を食べたことがないんだよ、お弁当で出ないから」


「お! それは、もう、決まったような……うーん。

 自分から言い出しておいてアレなんだけど、もし龍夜がよかったら夜も外で食べない?」


「俺は全然かまわないよ?」


「ちょっと今日は贅沢しちゃおう。せっかくそんなに久しぶりのお魚なら連れていきたいお寿司屋さんあるんだ!」


「それは楽しみだなぁ」


 結局お茶とかそういう消耗品を買って帰ることになった。

 即売会していたおにーさんに、

「奥さん! 旦那さんと一緒に今晩のおかずにいかがですか?」

 なんて言われて帰り道はずっとニコニコしていた。


「えへへへー。奥さんに見えるのかなー?」


「お父さんって言われなくて俺はホッとしております」


「えー、なんかそれやだなー」


「いや、嬉しかったよ。でもさ、ちょっと不安になるよ瑞菜可愛いし、俺老けてるから……」


「可愛いは嬉しいけど、琉夜のどこが老けてるのかわからないよ!

 肌は綺麗だし、身体は引き締まってるし。

 40近い人でその見た目はむしろ反則だと思うんだけど……」


「そうなの?」


「うん。もっと自信持っていいよ。

 あんまり卑下されると彼女としての立場が悪くなりますよー」


「……それは、確かにそうかも。わかった。

 出来る限り瑞菜の隣りにいても恥ずかしくないように頑張る」


「だから、そのままんでも十分かっこいいよ琉夜」


 そう言いながら瑞菜は腕にしがみついてくる。

 ああ、幸せだ。バカップルだ!

 我ながら、人生変われば変わるものだ……


「人生って、変わる時はあっという間に変わっていくんだね……」


 瑞菜の言葉にドキッとする。


「今ちょうどおんなじことを考えていたからびっくりしたよ」


「そうなんだ! ついこの間までお弁当屋でアルバイトしながら、毎日同じことの繰り返しだったのに、今はこうして琉夜との時間を楽しんでいるし、リフクエも楽しいし……充実してる……って言っていいのかなゲームで……うーむ……」


「あ、何となくそれわかる。でも、いいんだと思う。

 ゲームだって、立派な趣味だよ!」


「うん! 琉夜と付き合えてよかったー。こういうの言ったら男の人引きそうだし、女のくせにーって……」


「そうなのかな?」


「うん。琉夜は先入観なく私を見てくれるから好きなんだよね」


「ゲームをやる女性ってこと?」


「それもそうだけど……だってさーー、私に何か言ってくる人ってみーんな私の胸をチラチラ見ながら体目的みたいな人ばっかりなんだもーん……」


 ぐっと胸を押し付けてくる。わざとやってるな。

 でも、ごめんね瑞菜。俺も君のことをそういう風に見ていたこともあるんだよー。

 というか、男としての機能を回復してもらったんだよなぁ……


「エッチなこと考えてるでしょ……」


 気がつくと瑞菜が覗き込んでいた。

 危ない危ない……


「駄目だよ、夜まで我慢して……」


 耳打ちする瑞菜のセリフに天元突破するほど興奮するのでありました。

  

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