接触

 真田の勝敗が決定してからはや二週間、ミオが部活に入ったこと以外の変化は特になく真田との付き合いもいつも通りだった。

 この前、技術室に行ったときはスピーカーを作っていた。本人曰く、キットと道具があればできるそうでスピーカーの音の出る部分を作るまではいっていないから大丈夫だと言われた。

 正直、そこまでいくと料理をするのにコメの栽培からと言われているのと同等なので自分の中で別次元の話として処理するよりほかはなかった。

「ーーねえ、聞いてた?ナオ」

「えっ、何が?」

「ほら、やっぱり聞いてない。だから、今日の髪型どう?って聞いたんだけど」

「うん、似あってる似あってる」

「何その適当な言い方、ぼやっとしたところがモテないのよ」

「はいはい、そうですか。なあ、それよりもさあ」

「ん?なに」

「何じゃなくて、いい加減離れてくんない」

「えーいいでしょ、別に。ミオがいなくて寂しい思いをしているであろうナオに人肌のぬくもりを感じさせてあげてるんだから」

 そういって、有里はさっきよりもさらに強く腕に抱きついてきた。

「別にそこまで人肌に飢えてるわけじゃない。だから、離れてくれ」

「彼女いないのにどうやって人肌の恋しさをうめているの。あっ!もしかして最近真田君に会いに行ってるのって……そういう…こと?」

「違う。断じてそっちじゃない」

「だっ、大丈夫よ。中性であることを受け入れるぐらいなんてことないわ。私に任せておきなさい。わたし、ナオのためならなんだってするわ。なんだったら、男役で受けでも攻めでもこなして見せるから安心して!」

「いや…だから違うって」

 なんかもう、反論する気も起きないぐらいしんどい。

「それともなに、もしかして私や堅香妹ですら入り込む猶予もないほど出来上がってるの?あつあつなの?」

「どうしてそこで堅香妹が出てくるんだよ。あと、そうじゃないし。もうほっといてくんない」

「ほっといて!もしかして、ナオと真田君と村瀬の三つ巴?いや、今は裏もいるからさらにバトルが激化してるってこと?」

「おーい、帰ってこーい」

 ダメだ、会話が成立してない。もう完全によくわからない世界に入り込んでる。

「ナオ、ちょっとどいて」

 さっきまで空気になっていた有里花が唐突に口を開いた。まあ、従わない理由もないのですぐに有里から離れる。

「アイス・ダン・フォール」

 そういうと、有里の頭上に直径10センチの氷塊が形成されて「フォール」のかけ声とともに有里の頭上めがけて垂直に落下して見事命中した。

「いったー。何すんのよバカ有里花!殺す気?」

「ええ、その程度で死んでくれるなら勝負しなくていいから私も楽でいいわ」

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

「ナオは黙ってて!!」

 こういう時に限っていきピッタリなんだよなあ、この二人。

 「まあ、仲良くやってください」と思いながら、揉み合っている二人を放置していくことにした。

 そういえば、この二週間で変化したことが一つあった。それはー

「きゃっ」

「すいません。大丈夫ですか」

 考え事をしていたせいか、目の前にいた女子生徒にぶつかったみたいだ。

 ぶつかって尻もちをついてしまった生徒にすかさず手を差し出す。

「ごめんなさい。ありがとう」

「いえいえ、お礼なんて。もとはといえばちゃんと前見てなかった俺が悪いんで」

 よく見ると制服にエンジのラインが入っている。

 うちの高校は学年を一瞬で判断するために制服に色のついた線がラペルについている。

三年生から順にエンジ、青、深緑となっていて、この人はエンジのラインがついたブレザーを着ているから三年生ということになる。

「ありがとう。じゃあね、ナオ君」

 あれ?どうして、この人は俺の名前を知っているんだろう。三年生に知り合いはほとんどいないはずだ。いたとしても、部活の先輩か同級生の兄弟ぐらいしかいないと思う。見た感じ知っている顔じゃなかった気がする。気になったので後ろ姿をよく見ると、さっきまでどうして気づかなかったのかと思うほど髪が真っ赤だった。

 真っ赤な髪の毛って…まさか…いやいやそんなことはないない。

「ナオさんどうしました」

「いや、なんでもないよ。さっさん。ちょっと見覚えのある人を見た気がしただけ」

 なぜか汗だくのサツキが目に前にいた。

 その後に続いて、四姉妹の残り三人も来た。

「おはよう、Wツインズ」

「Wツインズ言うな!」

 肩で息をしながら”裏ツツジ“こと”リツ“が吠えた。

「それよりも、どうして全員同じ髪型なの?」

 よく見ると、今日は全員同じ髪型でポニーテールが四つ並んでいる。いつもは姉同士、妹同士のツーペアで髪型が一緒なのに今日に限ってはフォーカードとも言えそうなぐらい同じ顔が並んでいる。

 (そういえば、同じ顔って何人そろえばその人が消えるんだっけ?)

 そんなことを考えている俺をよそにリツが話し始める。

「よくぞ聞いてくれたわ。今回は私たちのみごとな連係プレイによって遅刻を免れたのよ」

 「へえー」できるだけ聞く気がない感じを出してみたのだがリツには相手の反応は全く関係ないようでそのまま話をつづけた。

「まず、朝寝坊して遅刻しそうになった私たち四人の身支度をサツキの”一心同体“の能力を発動してもらったの。でも、”一心同体“は相手に会わせる能力だからこれだと起きているサツキにみんなが合わせられないから私の”反転インバース“で”一心同体“をみんなが合わせる能力に変えて全員同時に準備をしていつも準備に一時間かかるところを半時間で終わらしたの!さらに、それだけじゃないのよ。それでも、時間が危なかったから同じようにして猛ダッシュで来たわ」

 「どう、私たちすごいでしょ」といわんばかりのどや顔なのだがそもそも早く起きればいい話なのでそんなにすごいとは思えない。むしろ、ちゃんと起きていたさっさんをほめてあげたい。

 有里花に起こしてもらっている俺が言うのも変だけどそれでも家を出る一時間半前には起きてるし寝過ごしても40分前には必ず起きる。

 というか、よく考えたら残りの二人何もしてねえ。ただ、準備してもらって走っただけじゃねーか。

 もう、連係プレーもあったものではない。

「それは朝からご苦労様」

「ほらほら、これを考えた私をもっと褒め称えなさい」

 子供かよと内心突っ込んだ。まあ、褒めてやるつもりもないけど。

「さっさん、今日は、俺お昼はちょっと寄るところがあるから」

「ええ、わかりましたけど用事でも?」

「うん、まあ気になることがあって」

「わかりました。じゃあ、ミオちゃんにも伝えておきますね」

 「よろしく」といってそのまま並んで校舎に向かう。リツは後ろで何かわめいているがスルーしておくことにした。

「こらーナオ!なんで、私たちを置いてくのよ」

「来たな、ツンデレとビッチ」

「うるさいツインズ!ダメ人間とガキの集まりは黙ってなさい。それに、私は誰かれかまわず体を許すような人間じゃないわ。私にそういうことをしていいのはナオだけよ」

 なんだかんだで、この二人も仲いいんだよな。けんかするほど仲がいいというやつだろう。

 「有理香とさっさんは止めなくていいの」ととりあえず二人に聞いてみたが、「別に、勝手にやらせておけばいいでしょ」とか、「じゃれ合っているのを止めるのもそれはそれでしんどいので」って感じだった。

「そうだ、有里花。昼休みに人がほとんど通らなくてそれでもってベンチのある場所知らない?」

「うーん、それなら第二視聴覚室の前とか…かな。あそこなら、特別教室ばっかりで基本的には人こないし今日はどの学年も使うことないみたいだから。でも、何に使うの?」

 「うーん、それは内緒」


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