8/3 麻婆豆腐

ゴツゴツした岩のような塊。

赤くどろりとした粘度を持った液体。

表面には黒々した粒が浮かび、時折浮かぶ気泡は奥底にたゆたう泥の中の空気を表面へと運ぶ。

その香ばしい匂いは食欲を湧かせると共に、摂取すれば苦しみを味わうだろうという危険を知らせる警報となる。

この、地底奥深くから現れた溶岩のような食べ物が、麻婆豆腐だ。


麻婆豆腐は陳と呼ばれるお婆さんが考案した料理と言われており、少ない材料で労働者を喜ばせるために作ったのだと言う。


そんなお婆さんの優しさの詰まった麻婆豆腐だが、味は全然優しくなく、四川料理に相応しくとてつもなく辛い。

本当に辛い。

辛いだけでなく、舌も痺れる。


こんな物を食べて味が分かるのかどうかと疑問に思うだろうが、麻婆豆腐は辛いだけで無く深い美味さも持ち合わせており、この辛さと痺れによる美味さは慣れると病みつきになってしまう。

とてつもなく辛い麻婆豆腐だが、人によってはその辛さと痺れを求めてどんどん過激な麻婆豆腐を摂取するようになり、内臓を壊しても麻婆豆腐を食べるのを止めない程だ。


率直に言って、私は麻婆豆腐は麻薬の一種ではないかと思っている。

最初の文字も一緒だしな。


麻薬だと言っても直接麻婆豆腐から麻薬の反応が出ることは無いだろう。

麻婆豆腐を摂取することで脳内で反応が起き、それによって麻薬を摂取したと同じ状態になるのではないかと私は睨んでいる。


中国四千年の歴史なのだ。

薬物の反応が出ずとも、食べ物によって麻薬を摂取したような状況を作り上げることが出来ても不思議では無い。


恐るべし中国。

美味いだけでなく、体にこんな影響を及ぼしてしまうとは。


なんとかして、この技術を上手く活用できないだろうか。

違法性も無く食事で民衆を支配できるのならば、領地内の争いを減らすことも、税を無駄なく集めることも可能なはずだ。

いや、領地だけで無く、国自体を支配するのも可能になるはずだ。

凄いな。流石は四千年だ。

これはなんとしても身につけなければなるまい。

そのためにも、まずはこの辺りの麻婆豆腐屋を巡るとしよう。

昨日も麻婆豆腐を食べた気がするが、美味いので大丈夫だ。

今晩も麻婆豆腐を食べるし、なんなら今から食べても良い。

さあ、麻婆豆腐を食べねば。麻婆豆腐を食べるのだ。

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