7/25 土用の丑の日

今日は土用の丑の日。

頭にうが付くものを食べる日だ。


頭にうが付けば、瓜、海葡萄、独活、梅、うぐいす豆、うるい、うぐい、兎、鶉、烏骨鶏、牛、馬、ウインナー、うどん等、条件を満たせればなんでもいいとされている。

食品だけでなく食べ物という括りで考えていいのならば、ウォッカのような酒類や、ういろうのような菓子でも範疇のはずだ。


なので、私は土用の丑の日の食べ物としてうまい棒の蒲焼を提案する。


うまい棒とは駄菓子やスウーパーやコンビニならばどこでも売っているお菓子であり、一本10円という低価格ながらスナック菓子としては大きめの部類に入るのが特徴だ。

形状は真ん中に穴の空いた15cm程の筒状で、歯応えはサクサクしている。

このうまい棒は様々な味の種類があり、しばしばどの味が一番美味しいのかで言い合いになる事がある。


この普及率と価格でご飯に合うとなれば、昨今の鰻の減少問題を解決に導けるのではないだろうか。

何故この事に誰も気付かないのかは謎だが、そう決めた私はすぐさま駄菓子屋へと向かった。


この商店街には駄菓子屋が二つあり、片方は商店街の入口に、片方は商店街の真ん中に位置する。

今回訪れたのは商店街の入口のほうだ。店の大きさはどちらも同じぐらいだが、こちらのほうが品揃えが良い。


店に入ると、まずは奥に隠されているヤングドーナツを籠に入れる。

これだ。私は数ある駄菓子の中で、このヤングドーナツが好きだ。

小さいながらもしっかりと小麦粉と砂糖と卵で作られたドーナツの味がしており、上にかけられた砂糖が丁度良い甘さを感じられる。

しかも30円でこのドーナツが四つも入っているのだ。最近のコンビニで売り出し始めたドーナツなど敵ではない。

この味の良さと人気の高さからか、この駄菓子屋では通常の棚に陳列されておらず、こうして棚と棚が合わさる角の一番下に隠すように陳列されている。

大人気ない大人が所謂大人買いと呼ばれる買占めするらしく、大人ではなく子供にこそ買って欲しいという願いで、それを防ぐためにこの場所に陳列したらしい。

私は大人だがそこまで大人気ない大人ではないので、今日は一つだけにしておく。

これだけ人気の高いヤングドーナツだが、姉妹品でチョコ味のヤングドーナツもあり、こちらは少しだけ形が小さくなる換わりに五つ入っている。

このチョコ味のヤングドーナツは牛乳ととても相性が良く、駄菓子の域を超える完成度だ、

たった30円これほどまでに美味しいドーナツを食べてしまっていい物なのかと心配になる。

こちらは通常のヤングドーナツと比べて人気が無いのか、表側に陳列されている。通常のヤングドーナツに負けず劣らず美味しいのだが、やはり基本の味が強いのだろう。

他にも私のおすすめの駄菓子は……違う、違う違う。今日は駄菓子を買いに来たんじゃない。そうじゃない。


危なかった。

このままいつもの通りに駄菓子屋で1000円分の駄菓子を購入するという豪遊をしてしまう所だった。


今日はうまい棒のために来たのだ。

目的を忘れてはいけない。

籠に入れたヤングドーナツを元の場所へ戻…もど……戻さず、うまい棒が並ぶ陳列棚へと向かう、


先程も挙げたが、うまい棒は種類が多い。

サラミ味、テリヤキバーガー味、チーズ味、ピザ味、めんたい味、エビマヨネーズ味、チョコレート味、牛たん味、なっとう味、全ての味が一つの店にある事は少ないが、全部で30種類以上もある。

今日は蒲焼にするので、なるべく醤油と砂糖に合いそうな味の物が良い。

となると、牛たん味だろうか。

読み方は『ぎ』だが『うしたん』とも読めるので、丑の日の物としてぴったりだ。

さあ、味が決まったのなら早速家に買えって料理だ。

ついでにおにぎりせんべいとクッピーラムネも買う。これは蒲焼には使わない。食べたいから買っただけだ。


家に帰ってきたので、まずは米を炊く。

まあ、米の炊き方は今更説明しなくてもいいだろう。

主役はうまい棒なのだから。


まずはうまい棒を袋から取り出し、見た目も蒲焼に合わせるため横に二つに切る。

この時、一度で二つにしようとすると真ん中の穴のせいか力が分散して崩れやすいので、腹と背と別々に包丁を入れて二つにする。

次は鍋に火をかけ、酒、味醂を大匙四杯入れて煮立たせ、アルコール分が飛んだら醤油と砂糖を同量の大匙四杯入れる。

沸騰をしたら弱火にし、全体が馴染むまで10分程煮立たせる。

味見をし、タレはこれで良いと思ったのなら、先程二つにしたうまい棒の全体に片栗粉を塗し、タレの中へと入れる。

うまい棒はスナック菓子なので、何も付けずにそのままタレに入れると水分を吸ってぼろぼろに崩れてしまう。

そのため、タレの水分を表面で保持させて内部まで浸透しないようにと、タレにとろみを付ける為に片栗粉を使うのだ。

肉や魚ならばここで火が通るまで一緒にして煮詰めるのだが、うまい棒はそのままでも食べれるので煮詰める必要は無い。

全体にタレが絡んだら火を止め、丼にご飯をよそってから上にタレの絡んだうまい棒を乗せる。

これで完成だ。鍋に残ったタレを好みで上からかけても良い。


さて、見た目は悪く無いのだが、味のほうは…………うん………んん?………………うむ、微妙だな。


食べれない事は無いのだが、それはあくまでも蒲焼のタレがご飯に合うので、それでうまい棒の味を誤魔化しているだけにすぎない。

そして食感が悪い。

うまい棒が水分を吸わないように片栗粉を塗したが、それが半端に固まってぐにぐにとした食感になっている。

そのぐにぐに感とうまい棒のさくさく感が合っておらず、ご飯との相性も悪い。

せめてもっと硬さがあれば別だっただろう。

そうなると揚げれば良かったのか?でもそれだと蒲焼にはなるまい。


なるほど、これは難しい。

通りで誰も鰻の換わりにうまい棒を使わないわけだ。


取りあえず、口直しに鰻でも食べに行くかな。

確か商店街内に鰻の刺身を出す店があったはずだ。鱧や河豚のようなあっさりとして淡白な味らしい。

私は鱧も好きだが河豚も好きだ。そもそも白身魚が好きだ。これは期待出来そうだな。


うまい棒の結果は微妙な結果で終わったが、一応は食べれたのだし、何かの話のネタにでもなるだろう。

まあ、私も最初からうまい棒が鰻の換わりになるとはあまり期待していなかったので問題ない。

そもそも丑の日なのだから牛肉を食べればいいのだしな。


今年は土用の丑の日が二回あるらしいので、次回は牛肉で作ってみるかな。

でもますは鰻だ。鰻を食べに行こう。

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