6/30 シャリアピンステーキ
シャリアピンステーキというステーキを知っているだろうか?
牛肉を良く叩いて筋を無くし、微塵切りにした玉葱に漬け、焼いてから玉葱の微塵切りのソテーを上に乗せた、とても柔らかいステーキの事だ。
これはシャリアピンという歌手が口内の不調により固い物が食べれなかったため、当時宿泊していたホテルの料理長がもてなしの心で考案した物と言われている。
玉葱には肉を柔らかくする効能があり、それを漬け込む事と一緒に咀嚼する事で二重に作用させている。当時は今ほど食材の効能が知れ渡っていない時代になのに、よく考えたものだ。
しかし、しかしだ。
今の時代の技術ならば、もっと肉を柔らかくすることが可能なのではないだろうか?
低温調理や真空調理という専用の機械を使った柔らかいステーキを作る方法はあるのだが、漬け込む材料を工夫することでシャリアピンステーキよりももっとシャリアピン向けなステーキを作れる可能性があるはずだ。
そう思った私は、とにかく思いつく限りの材料を混ぜ合わせ、そこにステーキ肉を漬けこんでみた。
まずはシャリアピンステーキの代名詞でもある玉葱。これを摺りおろす。
そして同じ摺りおろす食材として、林檎、大根を同量ずつ。
微塵切りにする食材には舞茸、パイナップルの二つと、念のために玉葱も微塵切りにする。
そして漬け込み液として、ヨーグルト、キウイジュース、バルサミコ酢、日本酒、ビール、コーラを混ぜた物を使う。
それらで牛肉を浸けるのだが、微塵切りが液体に浮かんで散らばるのを防ぐためにガーゼを用意した。
牛肉を満遍なく舞茸とパイナップルと玉葱の微塵切りで包み、それをガーゼで包む。
そしてその周りを摺りおろした玉葱、林檎、大根で覆い、さらにガーゼで包む。
最後にそのガーゼを混合液の中に入れ、このまま半日待つ。
そして時間が来たらガーゼを取り外し、牛脂を敷いたフライパンで焼く。
結論として、実験は成功だった。
触っただけで肉が凹む程柔らかく、筋繊維が溶けてしまっていて、肉とハンバーグの中間の様なぶよぶよとした感じだった。
焼いた後もその柔らかさは保たれており、なんと肉汁も相当な量が溢れてきた。
現代の技術と知識を持って肉を軟らかくするように漬け込めば、シャリアピンステーキより柔らかいステーキを作る事が可能だと判明したのだ。
だが、大きな問題が発生した。
甘いのだ。
肉が色んな食材の味を吸ってしまい、とてつもなく甘いのだ。
漬け込んだ後の色も紫色という食欲が湧かないドギツイ色をしていて、食べても大丈夫なのか心配した。どう見ても痛んでいる色だ。
実験を終え、「なるほどな」と感心した。
私程度が考えれる発想など既に他の誰かが試しており、実用的で無いと判断されたから残っていないのだなと。
昔からよく言われている事だが、実際に自分が経験してみないとこの感覚は分からないな。
とりあえず我慢してこのステーキは全部食べるが、漬け込んだ後の液体はどうするべきか。
棄ててもいいよな?
漬け物の汁も棄てる物だし、多少勿体無いが棄てても仕方ないな?
よし、棄てよう。
八百屋と農家の人、すまない。この償いは何時の日か必ずする。私の名に誓って。
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