15センチの男女

優和

第1話

ここは半二次元の世界。


人体は15センチの厚みしかなく平面上に表現されている。


今日は彼等の生態を見てみよう。


平面の世界に生きる彼等は横から見ると立てたコンニャクのようにゆらゆら生きている。


何をしているかわからない。


なのであらゆる行為はもっぱら側面的に行われ、表現は正面から行われている。


何を言っているのかわからないかも知れないが私もわからない。


ただ、半二次元とはそういうものだと思ってほしい。


生きていく為に必要な欲求が人間には3つある。


食欲、睡眠欲、性欲だ。


まずは食欲から見ていこう。

ここに丁度一組の男女がいる。彼等の行動から考察するとしよう。


どうやら彼等はまだ新婚のようだ。

男性被験者は42歳。女性被験者は22歳。


親子ほど年の違う彼等は食の好みも違う。


ーーーーー


〈食事〉


~朝~

夫「おはよう~(あ!またパンと牛乳だけか…)」


妻「おはよう!今日も腕によりをかけたから美味しく食べてね☆(本当は夜中までスマホゲームしちゃって寝坊しちゃった☆←いつも)」


夫「あ…あぁ…(みそ汁と炊きたてご飯が懐かしいな…ママ…)」


夫「あの…」

妻「なぁに?」

夫「せめてジャムかバターはないかなぁ?」

妻「無し」

夫「はい?」

妻「無し」

夫「はい」


朝から辛い状況ですね!まぁオッサンが22歳の嫁をもらったからにはこれくらい我慢しなければなりません。


あれ?夫の様子がおかしいですよ…


横です!横を向きました!これで表情を悟られません!夫、必死の抵抗です!ささやかな不機嫌さをアピールしています!さすがマザコンの年の功、ワガママに余念がありません!


妻は気にしてない様子ですね。いつものことなのでしょう。真正面から早速ライフが貯まったスマホゲームに夢中です。ちなみに彼女は7年前からこのゲームにハマっています。恋愛ゲームです。無課金で高レベルを維持するにはいつもスマホに触れている必要があります。


横を向いてパンを食べる姿がシュレッダーのようで笑えます。当然う◯こも紙のように出ます。


~昼~


妻はパートに出掛けます。夫はというと自宅で仕事です。夫の仕事はアフィリエイターで安定性はありませんが自前のマニアックなサイトがかなりの収益をあげているようです。


妻は安定志向なので、きちんと厚生年金を貰えるくらい働いているようです。


手作り弁当などはありません。いつもコンビニ弁当です。お金は妻が管理しているのでテーブルに1000円札が一枚置いてあるだけです。


この夫が若くて可愛い妻をゲット出来たのは町内の七不思議に数えられています。


コンビニでは「いつもの」で取り置きの弁当が出てきます。タバコも一緒に購入。余った小銭はせっせと貯金して年に三回(妻の誕生日、結婚記念日、クリスマス)のプレゼント代を貯めています。結構幸せそうです。


コンビニ弁当は焼き肉弁当です。中二の時からこれしか食べていません。

この話を妻にしたところ「あなたって絶対に浮気しなさそう☆」と誉めてもらいました。だからいつも同じ弁当です。


食べている姿を横から見るとかなりシュールです。やっぱりシュレッダーにしか見えません。たまにしょうが焼き弁当も気になるのですが、妻との見えない約束によりやっぱり焼き肉弁当にしてしまいます。そうやって彼は妻との愛を示しているのです。ちなみに妻はもうその事を忘れています。


お昼ご飯を食べたら夫はお昼寝。至福の時です。


~夜~


夕方パートから妻が帰ってくると晩ごはんを作ります。今日は肉じゃがのようです。妻が作ることの出来るレパートリーは決まっているので、肉じゃがやカレーが多いのですが、それでも夫は幸せそうです。


紙のように薄い食材を調理している姿はなんだかおままごとのようですが、妻は真剣です。

夫がトイレに向かう途中に妻の姿を見ては目を細めています。


テーブルの上に、紙のように晩ごはんは並べられていきます。それを二人はシュレッダーのように食べていきます。お互いに今日あったことを話し合います。妻の機嫌が悪い時は横を向いてご飯を食べる為に表情はわかりませんが、不機嫌なんだなぁというのはわかります。いずれにしても、二人にとっての大切な時間です。


ーーーーー

〈睡眠〉


妻の愛情たっぷりの食事のお陰で夫はかなりのメタボリックです。


「幸せ太りだね☆」と妻はご満悦そう。理想の男性は“シロクマ”な妻です。


さて寝る時間になりました。妻はお肌のことも考えて晩ごはん後に入浴、22:30には就寝です。


夫はこれからがゴールデンタイム。引きこもり時代に磨いた夜の集中力を活かして仕事に本腰を入れます。


夜中の3:00に仕事を終えた夫は、いそいそとシャワーを浴びながら歯磨きをして、一本だけ発泡酒を開けます。


4:00頃にウトウトしてきてソファで寝てしまうこともしばしばあります。

横からみたらマットが乗っているようにしか見えませんが、そこは夫婦。

朝方夫がベッドにいないのを確認すると、気持ちよく寝ている夫の髪の毛をむしりながら起こしてベッドに連れていきます。少しずつ髪の毛がむしられている為、夫の頭は薄くなってきました。


けれども夫は嬉しそうです。この時に妻が手を繋いでくれながらベッドに連れていってくれるからです。


朝5:00。

二人は至福の二度寝に入ります。基本、寝返りはしません。横になると半二次元の彼等は垂直になってしまうからです。


メタボリックな夫はベッドで寝るとよく呼吸が止まります。『睡眠時無呼吸症候群』と診断されたことがあります。医者に「痩せなさい。」と言われましたがそれから病院には行っていません。


寝ながらオナラをした夫が少し浮くのが面白いと、妻は何度も夫にそれを強要したことがあり、それから夫婦の夜のコミュニケーションはもっぱらオナラです。


夫は本当は少しイチャイチャしたいのですが、妻が腹を抱えながら本気の顔で苦しそうに笑うのが嬉しいので、毎日のオヤツには焼き芋を食べています。妻の機嫌によっては『オナラ浮き』も最近は構われなくなってきましたが、それでも夫は妻の笑顔が見たい為に毎日焼き芋を食べます。


ーーーーー


〈夫婦生活〉


基本的に夫婦生活は年に三回です。

お互いに時間が会わないというのがその理由です。

夫はもう少し触れ合いたいのですが、妻はあまり乗り気ではないので無理強いはしません。


誕生日とクリスマスと結婚記念日がその三回ですが、妻の生理が重なると無しになるので、実質は一、二回です。


夫も妻の笑顔を見ることが出来たり、夜に手を繋いでくれたりするのでおおむね満足しています。


今日も仕事終わりに寝ている妻の顔を見に行きました。

真横から見ると15センチの板のようですが、正面から見れば可愛くむにゃむにゃ寝ています。あまりに可愛いのでこっそりほっぺにキスをしました。


妻は苦しそうに「くさい…くさい…」とうなされますが、少しすると安心して寝付きます。

それを見て夫は(明日も頑張ろうか)と思います。


妻はみなしごでした。

夫が30代の引きこもり時代に、母のボランティアの手伝いに連れられて行った児童施設で出逢いました。

夫の母は夫に甘々でしたが、愛に溢れていた人でした。

それから空白の時間を経て、二人は再会しました。

夫のお母さんは癌に掛かりました。

妻はお母さんの担当看護師でした。

夫は毎日母の看病に来ました。

雨の日も、風の日も、嵐の日も、

毎日毎日母に会いに来ました。

全ての介護をしました。

お母さんが好きだったから。

努力の甲斐無く、夫のお母さんは亡くなりました。

夫は泣きました。

子供のように泣き崩れました。

その時に妻が夫を抱き締めました。

夫は生まれて初めて母親以外の女性に抱き締められました。


色々な書類が必要になったのですが、夫は子供のように泣き続けたので、妻が手を引いて夫の家まで付いていってあげました。

そして、それから夫の家は妻の家にもなりました。


15センチの男女。


ーーーーー


半二次元の世界はいかがだっただろうか?


世の中には不思議な世界がある。


また皆さんの目にお目にかかることを期待する。







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