第1432話「それは私だけの夏色」

午後七時の川辺。

浴衣を着たなりきり女子高生が現れた。

夏の思い出は浴衣(一般人が想定する和服の一種を指す言葉。平安時代、貴族が風呂に入る際に着用した湯帷子が原型とされる)よりもずっと美しい色に染まっていて、手を引かれて駆けていく先は僕たちだけの展望台。もうすぐ花火が始まるよ、と君が言って、平たい石に付いた土を払って座る。空を見上げてしばらく、まだ光の花が咲く様子はない。僕はふと隣に視線をやる。花の描かれた生地と鮮やかな色をした帯、頭にはウサギの面。打ちあがる時を今か今かと待ち焦がれる少女の表情は、花よりも綺麗に見えた。僕の視線に気づいた君が、どうしたの、と話しかけてくる。何でもないと顔を逸らした瞬間、ひゅうと花火が上がる音が聞こえた。彼女は空に向き直り、一心に空を見上げてきらきら目を輝かせている。花火よりも、何よりも、君のその姿が僕の色彩だった。

だがいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってきて、とにかくすごい攻撃で夏を破壊した。

四季が三季となり、夏に紐づいた思い出が消え去った。

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