第5話 らんざつな記憶


俺が初めてメレクと会ったのは"掟"の1つである5歳になった時点で執り行われるとある儀式の時だった。


その儀式はその月に5歳になる子供を集めて夜中に行われた、まず子供は親同伴で村の南の湿地帯にある沼を一望するために造られたであろう屋根がある休憩所?のような所に集められる。


その場所の沼には夜になると一年中光虫が飛び回りとても幻想的で穴場なデートスポットになっているらしい。(当然儀式の日は誰もいないが)


その月に集められた子供(といっても月に集まる子供は多くて2、3人)というのが俺とメレクの二人だった。

俺は子供だったこともあり夜中のその湿地帯がとても怖く感じグズって泣きべそをかいていた。そんな俺をみてメレクはやれやれといった表情をしており、その当時から今のように冷静で子供らしくない人格は出来上がっていたようで子供ながらに嫌味な奴だなと感じたのを覚えている。


子供が皆集まると親は先に帰らせられ、最長老とその日に集まった子供の人数分の長老で儀式となる場所まで連れていかれるのだがその時に覗き穴のついていない変な形のお面を被らせられる、最近になって聞いた話なのだがどうやらこの5歳の儀式とは集落の御神木に忠誠を誓う為に行われる儀式らしく、そのお面は御神木の根から造られた木製のお面で「我々は御神木様の加護を受けるに価する集落の子達である。」との意味合いがあるらしい。


その状態のまま長老達に手を引かれどこかの民家に連れていかれる。どこをどう歩いたのかはお面の隙間から多少見えてたといえわからず、お面をつけて森の中を練り歩き御神木の子達である事を示す必要があるらしく結構な時間歩かされた記憶があった。


その民家に着くとまずは民家の奥に連れていかれ座らさせられ、そこでようやくお面を外すことが許された。

民家の奥に連れていかれている最中に今の俺たちと同じぐらいの年齢であろうと思われる男の子の声が聞こえ、普通の家族が暮らしている民家なんだなと感じとれた。


お面を外し目の前にあったものは装飾を施された太い木の幹のような物とそれを取り囲むように置かれた祭壇だった。

その祭壇の上には豆粒ほどの草団子?のようなものが自分とメレクの目の前に置かれておりその民家の人間であろう夫婦が祭壇の両脇に立っておりにこやかな表情で俺たちを見下ろしていた。


お面を外した事を確認すると最長老がこの儀式についての概要を語り始めたのだが言葉が難しく半分も理解できなかった、分かったことといえばどうやらこの木の幹のようなものは御神木の根が突出して地上に出てきたものらしくそこにこの民家が建てられ5歳の儀式を管理する天命を授かった夫婦が暮らしているらしい事ぐらいだった。


見知らぬ場所でこんな長時間両親と離ればなれになるのは初めてのことであわあわと今にも泣きそうになっていた俺だったが、ふと横に座っているメレクを確認してみるとすました表情でただ前だけを見ておりその横顔に勇気をもらいなんとか泣くことを堪えることが出来ていた。


一通り最長老の語りが終わると祭壇の両脇に立っていた夫婦が目の前の草団子のようなものを口に含むようにと促し俺たち二人はそれに応じた、俺のとメレクのとでは少し色が違ったように見えたが口にいれてみると草の香りが広がり苦いような渋いような味がした。

すかさず木の根の上に置かれていた木の器を手渡され、その中には透き通りトロッとした木の蜜のような物が入っておりそれを口の中の草団子ごと飲み干すようにジェスチャーをされたのでメレクと同時にその木の器の中身ごと草団子を飲み込んだ。その液体はとくに味がするでもなくスッと喉の奥へと消えていった。


儀式は以上で終わりだったらしくまたお面を着けるように言われ手間どっていると入ってきたであろう後方の扉が開かれた、お面をつけきる前だったので少し扉のおくの廊下が見てとれたのだがその廊下の壁は集落では見たことない灰色をしており儀式の中でも不思議な光景だったのを今でも思い出す。


そのまままた前が見えない中森を歩かされ最初に集まった沼の前でお面が外され長老達によって家に届けられた。

その儀式ではたいしてメレクとは会話はしなかったのだが儀式中の落ち着いたメレクに興味をもった俺は6歳から始まった学校でこっちから話しかけ今の関係に至ったのだった。


子供の頃の記憶だったとはいえその儀式の時に訪れた民家がいったいどこにあったのか未だにわからず、今になってメレクとあの民家はどこにあったのだろうか?と話し合う事もあるのだが勝手に人の家に上がり込んで壺を破壊したりタンスを覗くわけにもいかず、二人で「もしかしたら柵の向こう側だったんじゃないか?」などと冗談混じりに話すいいネタとなっている。


「おいお前ちゃんと授業聞いてるのか??」とふいに後ろの席のメレクに問いかけられた。

「あ、あったり前だろ!授業聞き逃したことなんかないぞ俺は!」ととっさに返したのだがメレクにはバレバレだったようでふーんという顔をされた。

授業中にこの前洞穴で拾った鉱石をいじっていたらふとこの色が何となくあの時に民家でみた廊下の壁の色と似た色をしてるなと儀式を思い出した退屈な授業のとある一日だった。




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