フリーマーケット ~2~

 そしてフリーマーケット当日になった。


 夏樹先生の車には、おれと秋乃先輩と商品が乗ることとなり、春花と冬海は別に行くことになった。それは商品の搬入がおれたち三人の仕事だったからだ。夏樹先生の車は快適で、丁寧な運転だった。


 フリーマーケットが始まると、三人のコーナーは大盛況だった。おれが電卓を叩き、秋乃先輩がそれを伝える、会計はおれと秋乃先輩の二人だった。春花、冬海、夏樹先生はお客さんと話している。


 そして大きな波が去った後、おれは提案する。


「交代で買い物に行ってくるのはどうかですか?」


 それに全員が賛成してくれた。そして一番初めに、おれが行ってくることになった。


 フリーマーケットでは様々な店が参加している。おれは初めて参加するので胸が躍る。そして可愛いストラップを売っている店に目を吸い込まれた。


「こんにちはぁ、どうぞ見ていってください! って、蒼太くんじゃん。久しぶりぃ☆」


 そこの店番をしていたのは、おれの一歳年下の従姉妹である四ツ葉 紫穂しほだった。紫穂も姉ちゃんと同じで、平凡な見た目の四ツ葉の家系に生まれたはずが、一般的な顔立ちと比べると異色を放つ顔立ちだ。彼女は目鼻立ちがくっきりしていて、大きな瞳はいつも星が輝いている美少女だ。そしてギャルでもある。


「紫穂、こんなところで何してるんだ?」


 紫穂は頬を膨らました。そんな姿も、妹可愛さで贔屓目に見ても、とても可愛い。


「しほりんって呼んでって、いつも言ってんじゃん。今日はフリーマーケットだよぉ? ハンクラしたのを売りに来たんだぁ。ほら、見てってよ」


 ハンクラとはハンドクラフト、日本語でいうと手芸という意味だ。

そして紫穂が作ったというストラップを手に取ってみる。それはとても出来が良くて、思わず唸ってしまった。細部まで凝っていて、プロの技としか思えない。


「すごい上手じゃないか」


 紫穂は腰に腕を当てて、胸を反らした。誇らしげな顔な顔は、幼い子供が褒められてする表情のままで、幼い頃を思い出した。


「でしょぉ! ゆくゆくは四ツ葉の会社で、職人として雇ってもらうためにがんばってるんだぁ。絶対に蒼太くんと一緒に働いてみせるからね!」


 嬉しいことを言ってくれると笑顔になる。もう一度、ストラップに目を戻す。これなら新規部門も作れるだろうと確信した。


「おれもしほりんを待ってるよ。なあ、これより簡単なやつなら、おれにも作れるか?」


 紫穂は怪訝そうな顔をしたが、すぐに悩める職人の顔になる。そして、おれが持っているストラップを見た。それを確かめると、シートの一番外側に置いているものを取ると、おれの顔の前につきだした。


「蒼太くんって器用だから、これならすぐ作れるよ。どうしたの、ハンクラに目覚めちゃった系?」


 その質問に、ちょっと悩んでから頷く。良いアイディアを思いついたのだ。


「おれは今、四ツ葉荘の管理人をやってるんだ。それで、そこに住んでいるみんなにプレゼントできたらいいな、って思ったんだけど……」


 紫穂はキラキラと効果音が出そうな光をまき散らしながら笑った。


「なにそれ、めっちゃいいじゃん! あたしが教えてあげるよ!」


 ありがたく頼むことにしたおれは、また明日会う約束をして別れた。みんなのところに戻ったおれは、たいそう上機嫌だったらしく、みんなに理由を聞かれた。しかしサプライズをするつもりなので、秘密と言い張った。



 おれは学校が終わると、春花と冬海の三人で四ツ葉荘に帰った。そしてすぐに四ツ葉荘から一番近い駅で、紫穂を待った。


「おまたせぃ、蒼太くん」


 紫穂はおれの視界の外から現れた。突然声をかけられた驚きと紫穂の制服への驚きで、おれの肩は激しく跳ねた。


「しほりんって、花南女学院だったのか!」


 花南女学院、花女と省略される学校は、地域でも有名なお嬢様学校だ。街ですれ違う花女の生徒はみな清楚で上品な女子校生で、花女を知る男子の憧れの的だった。


「そうだよっ、この制服、かわいいっしょ?」


 紫穂はくるりと回ってポーズをきめて、おれに制服を見せる。確かに可愛い。


「確かにかわいいな」


 紫穂はニンマリと笑い、頭に手をやる。なんだ、そのポーズは。


「いやぁ、たらしの蒼太くんに褒められると、うれぴすなぁ」


「は? たらしの蒼太?」


「やっぱりなんでもないでぇす。早く四ツ葉荘に行きましょぉ!」


 話の逸らし方が雑だが、突っ込まないことにする。そして紫穂の重たそうなカバンをおれが代わりに持つと、紫穂は反対の腕にくっついてきた。


「歩きにくいから、ちょっと離れろよ」


「なぁんにも聞こえないなぁ」


 そんな軽口を叩きながら、四ツ葉荘に向かった。



 おれがハンクラを始めてから一週間が経ち、ようやく四つのストラップができた。春花にはピンク、冬海には水色、秋乃先輩には黄色、夏樹先生には赤、この四色をイメージした。


 これから渡そうと思っていた夕食後の管理人室はなぜか緊張感に包まれていた。


「あの、おれが作ったストラップを受け取ってくれないか?」


 おれが声を出すと、みんな嬉しそうな顔をしてくれる。想像していた通りで、とても嬉しくなった。


「蒼太の手作り! 本当に嬉しい! 一生の宝物にします!」


 春花はストラップを掲げて、喜んでくれる。


「あ、ありがとう……大事にするね」


 冬海は顔を真っ赤にして、小さな声で話す。とても照れているようで、こちらも少し照れてしまう。


「ありがとう、すごい上手だねっ! うわあ、どこにつけようかなぁ」


 秋乃先輩は褒めてくれた後に、すぐに悩み始めた。その悩み様はとても嬉しいものだ。


「ありがとな、嬉しいぞ。それに確かに上手だな。最近、蒼太が花女生を連れ込んでいたのは、このためか?」


 夏樹先生はストラップを揺らしながら、にやりと笑った。だが、人聞きの悪い言い方だ。


「従姉妹に教えてもらっていたんですよ。その子はすごい上手なんです」


 おれが言うと、春花と冬海は大きな息をついた。そして冬海が涙目で言う。


「いつの間にかに彼女ができてたら、どうしようと思ってた……よかったぁ」


 春花は今にも泣きそうな冬海を抱きしると、優しい声で言う。


「本当によかったねぇ。はあ、安心したよ」


 なんといえばいいのか分からずに黙っているおれに、秋乃先輩は大人の達観したような顔で言う。


「本当に蒼太くんって、罪作りだよねぇ。危ない、危ない」


「秋乃も、たまには冒険も必要かもな」


 夏樹先生がお茶を飲み、コップを机に置いて言った。秋乃先輩の顔は真っ赤になり、ふぎゃあと可愛らしい声を出した。


 それが面白くて笑うと、みんなもつられた様に笑った。


「今のは笑うところじゃないよ! もうっ!」


 秋乃先輩は、頬を膨らませるが、それも可愛くて、みんなの笑みはもっと深くなった。



 こんな風に、五人で暮らす夜は更けていった。

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