15.革命

 エレベータ内で、イヤホンを外した。音を相殺するとはいえ、完璧にとはいかなかったようで、多少頭がフラフラとするが、特に問題はない。

 だが、それ以上に問題があった。

「―――がっ」

 息を一つ漏らすと、壁にもたれかかった。本当は座りこみたかったが、そうしたが最後、もう二度と立ち上がれないような気がして、我慢する。

 ついでに、傷口も碌に見ていない。こちらも撃ち抜かれた場所を見たが最後、それだけでショック死しそうだからだ。

 撃たれた脇腹は、痛みというか、熱さが酷い。されたことはないが、焼きごてを押し付けられ続けているようだ。息は荒いままだ。いくら吸っても足りない上に、上手く吐けない。

 それでも、と、血で濡れていない方の左手で電話を掛ける。

「もしもし、ユウか……」

『違うよ。テロリストさ』

 少し笑うと、気が楽になった。

「いや、むしろ、憂国の士だ。……ナゴヤのゲバラと呼んでやる」

『それはどうも、カストロさん』

 父親が配備した街の監視カメラを、サーバーごとすべて乗っ取ってくれた息子がそう言って笑う。

『良かったのかな。あの監視カメラ、恩恵を受けていた市民もたくさんいたと思うけど』

「それは……そうだろうな。ただ……どんなシステムにも穴はあるってことを教えてやるのも……重要……だ」

 この街の異様な支配体制が、ほとんどの人間にとって有益なものであったことは、川上親子が二代に渡って当選し続けたことからも明白だ。だが、歪みの上に立った城が真っ直ぐ建つはずもない。こうして蟻の一穴から崩れていくのもまた、当然の帰結だといえる。

「それに、お前の父親も、それを、望んでいた、ような、気がする―――いや、忘れてくれ」

 いよいよ、言葉が途切れ途切れになってきた。

『構わないよ。そんな気は、ボクもしていたからね』

「終わったら、とっとと、破壊しろよ」

『分かってるよ』

 そこで沈黙が訪れる。

『ねぇ、敢えて訊かないでおいてあげたけれど、本当に大丈夫なんだろうね』

「少々、腹の、風通し、が、よくなって、腹式呼吸、できない……」

『死んだら、君のPCのハードディスクを全世界に公開してやる』

 俺は声を上げて笑った。いよいよ血だまりで足が滑りそうになっている。

「地下に、着いた。じゃあな、弟……エデンで、会おう」

 ユウは何事か話そうとしていたが、電波が遠くなって聞き取れなかった。エレベータが開き、地下へと俺を誘った。

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