第八話「お話」

「美味しかった...」


 リリィーの手作りパイがお気にめし、イブはご満悦だった。


 物資が少ないと言っていたが、なけなしの砂糖を使って作ってくれたらしい。なんだかんだで頭が上がらない。何気にこっちに来てから一番世話になっちまってるし、後で何かお返ししないとな。


「もうちょっと休んでたかったわ」


「ダメだよ、リリィー。食べた後だから今動かないと眠くなってくる」


 シオンの言うとおりだ。あのまま休んでいたら寝てしまっていただろう。せっかく苦労してお宝を盗ってき——、いや、取ってきたのだから早く鑑定してみたい。


 物置に運んでおいたのをゴソゴソとみんなであさりながら高価そうなものを並べていく。先に並べてしまってからまとめて鑑定会をしようって算段だ。

 

 ガッチガチの甲冑や何か特殊効果のありそうなマント、他にはアーティファクトらしきものもある。

 アーティファクトというのは魔道具のことで、便利なものが多い。以上、俺が読んでいたラノベ知識より。


 いろいろ取り出してみたが、どれも装備品ばかりだ。邪龍に挑む奴らが硬貨を何枚も持ってくるわけないので、当然といえば当然かもしれない。


「こんなものかな?」


「よし、じゃあ鑑定していくかー」


 あらかた金になりそうなものは整理できたので次々と《鑑定》をかけていく。四人全員が《鑑定》を持っているので早い早い。





 名 前: 聖剣カラドボルグ

 効 果: 硬さ(大)

    切れ味(中)

    刀身変化




 名 前: 聖剣デュランダル

 効 果: 破壊不能武器

    切れ味(大)

    所有者への防御バフ(大)

 



 名 前: 龍殺しの剣

 効 果: 龍を相手にした時攻撃力バフ(大)

    殺してきた龍で攻撃力バフ(?)

    攻撃力バフの数により攻撃力バフ

    龍以外へダメージが通らない




 名 前: 神槍グングニル

 効 果: 雷属性(大)

    火属性(大)

    投げた際攻撃力バフ(特大)

    投げた後に手元に復元




 名 前: アイギスの盾

 効 果: 防御力(特大)

    所有者へ耐性スキル全て付与

    戦闘中では破壊不能

    自動防御





 などなど、他にも三十点近くもの装備品があった。かなり効果の良いものもあるし、これだけの数を売れば金に困ることはないだろう。

 しかし、これだけの数の人が邪龍の犠牲になっていたとは...


 俺が邪龍に殺された人に向け合掌しようとしたところ、シオンに止められた。


「それは違うよ、ユウキ。彼らは自分の意思で邪龍に挑み、逃げずに戦い続けたんだ。だから彼らを憐れむことをしてはいけない」


「...そうか」


 手をあわせようとして行き場をなくした手をコートのポケットにツッコむ。


「わー、これかわいい!」


「ん... きれい...」


 女性陣が指輪や首飾りなどのアクセサリーを見ながらはしゃいでいる。鑑定してステータスを出しているのに全く効果とか見ていない。


 イブもアクセサリーであんな顔するんだな。


「ユウキは神様にお熱だね~」


「別にそこまでじゃねーよ。ただちょっとした仲間意識みたいなもんだ」


 シオンがからかってくるが適当にごまかしておく。俺にまだそんな気持ちはない。


「それより、これだけの数をどうやって金に変えるつもりだ? こんな特殊な物、取り扱ってくれる店なんてそうそうないだろ」


「それなら大丈夫。僕が人間界の方でツテがあるから、明日にでもいってくるよ」


 この品々を正規で扱ってくれる店などないだろう。ってことは十中八九、裏の社会の人間との取引だ。勇者としてどうなんだと思わなくもない。


「なら任せるわ。あ、でも俺も人間界についてっていいか? 一度この目で見に行ってみたいんだ」


「うん、いいよ。」


 その場の思いつきで言ってみたものの、ちゃんと承諾を得られた。人間界か...どんなところなんだろうな。個人的にチンピラに絡まれるテンプレなんかやってみたかったりする。




「あー、こっちのもいいな〜」


 コクコク


 リリィーの言葉にイブがうなずく。こういう時女性は長い。


 それを見て俺とシオンは苦笑し、今後について話を進めるのであった。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 その夜、自室に向かう途中。


「ふぅ、さっぱりした」


 俺はリリィーに頼み込んでシャワーを貸してもらった。ちゃんとお湯が出てきたので、どんな仕組みでできているのか聞いて見たところ、魔法よ!という魔法の言葉で終わってしまった。マホウスゴイ。


 自分の部屋の前にたどり着き、ドアをあける。


 ......


「なんで俺の部屋にいるんだ、イブ」


「こんないたいけな少女を... 一人にさせる気...?」


「いや、お前神様なんだし結構なロリバっていててて、髪を引っ張るな!」


 そのままベットに引っ張り倒され馬乗りされる。


「なにをする」


「なにしてほしい...?」


 ......


 俺は身体を起き上がらせると、今度は逆に、馬乗りになっていたイブが後ろに倒れこむ。

 話が進まないので、イブに何の用だと視線で問いかけた。


「話... しに来た...」


「いいぞ、別に」


 イブはかすかに微笑むと、寝転んだまま俺を見上げて話だした。


「《転生者》... つけてるんだ...」


「ん?ああ、まあな」


 ここでいう転生者というのは、おそらく俺が持っている称号のことだろう。


 称号やスキルというのはスイッチのオン、オフと同じだ。必要なときは入れておき、必要なとき以外は切っておく、これが基本だと俺は思っている。


 考えても見てほしい《怪力》や《縮地》なんか使いながら生活していたら絶対事故る。《暗視》なんかつけたまま生活していたら違和感しかないだろう。

 だから俺は使ったら切るを徹底している。他のやつらもきっとそうだろう。


 ただ、例外もある。例えば耐性系のスキルだ。耐性系のスキルは日常生活で使っていても特に弊害はない。それに奇襲を受けたとき、スキルの発動が間に合わない可能性もある。つけておいて損はないだろう。



 そして、もう一つの例外がある。


 こちらの世界にきてから、ずっとつけっぱになっている称号、イブも口にした《転生者》だ。

 実は昨日の夜も確認しているが、この称号の効果をよく思い出して欲しい。



《転生者》

 精神安定作用がある。



 シンプルな説明欄だが、これは精神に影響を与える代物だ。

 最初この称号見つけたとき、気づいてしまった。何故俺はこちらの世界に来てに生活できているのかを。

 そこからは、この称号を切ることができなかった。今の俺が消え、怯えて何もできない俺が残される可能性があったから。




「やっぱりマズイのか?」


 聞いてみると、予想外にイブは首を横に降った。


「悪い物ってわけじゃない... ただ、気持ちの問題... どう受け止めるか...」


 なるほど。


「大丈夫... ユウキはユウキ...」


 珍しく長々と説明してくれたし、励ましまでもらってしまった。


「ああ、俺は俺だ。多少変わってしまっていても本質は変わらない」


 ユウキはニッと笑うと、イブの頭をクシャクシャにした。照れ隠しのつもりだろうか。隠せていない。


 イブはこれ好機とみるや、すぐに用意していた言葉を放った。


「じゃ... 寝よ...」


「お?おう、突然だな。おやすみ?」


 早いな、実際会話したの一分もなかったと思うけど。すると、イブがゴロゴロとベッドを転がりながら移動する。


 ピタ


 何故か俺のベッドを半分占拠したところで止まった。



 ......



「あのー イブさん?」


 仰向けで目を閉じたまま、ピクリともしない。早く隣に寝ろとのことらしい。


「きれいな顔してるだろ。死んでるんだぜ。それで」


「今... きれいって言った...?」


「人のボケをボケで返すのやめてもらっていいかな!俺が恥ずいんだけど!」





 足下にある布団を引っ張ってきて、自分とイブがはみ出ないようにかける。

 え?結局一緒に寝るのかって?

 俺は知っている(ラノベで)。このタイプの子は最後まで折れない。なら、無駄な争いはやめて黙って寝ようということにした。



「ユウキたちは、なんで... 世界平和なんて目指してるの...?」


 左に顔を向けると、イブの顔がすぐ目の前にあった。


「んー、俺はそのくらいしか目的がないからだな。他の二人は知らん」


「随分アバウト... 私も一緒にいていいんだよね...」


 俺のそでをちょこんとつまむ感覚がある。それは、ちょっとでも動かせば離れていってしまいそうなほど弱々しい。

 俺はイブの頭に手を乗せる。人は誰かに頭を撫でられると不安だとか恐怖が柔らぐらしい。


「当たり前だろ。だってその方が絶対面白い」




 イブの瞳に映る俺の影は、若干揺れて見えた。

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