第10話 夢のために動ける人は強い
折乃と敷町は夕暮れのオレンジ色に塗られた道を影を並べ歩く。
『アイドルは好きですか』
ただ、それだけが記事に書かれていた。皆が答えた質問に唯一、質問を返した。インパクトというか、記憶に残るものではあるが、何が言いたいのか。
「全くもって意味が分からん」
上門さんに訊いても明日になれば分かると言って、結局何も教えてくれなかった。
「アイドルと言っても色々あるしな」
敷町も首を捻る。
「そういえば、星野沙奈というやつもアイドルだし何か関係があるのか?」
考えれば考えるほど謎は深まるばかり。
「明日には、どちらにせよ分かるんだし、ここで結論を出す必要ないんじゃないか?」
なんともお気楽な考え方ではあるがその通りだ。そもそも、俺は彼女をあまり危険視していなかったはずなのに、いつの間にか注目し、躍起になっていたようだ。
「それもそうだな」
「そうだぜ。少しは自分の選挙活動に力を入れたらどうだ?」
「一週間前になったら色々できるようになるし、それまでは別に必要ないかなって」
選挙前の一週間はポスター貼り、野外演説など色々の活動が選挙当日まで解禁される。
演説の原稿も考えなくてはならない。かなり忙しくなることは、去年の経験から知っている。
だから、選挙に出たくなかったのだ。生徒会に入ったら入ったで、イベントの企画、提案、実施、運営、全てを管理しなくてはならない。
今年は本当に、春咲の手を借りることが多くなるかもしれない。まあ、来年は春咲が生徒会長になるかもしれないし、色々学ばせておくのもいいか。
そう、未来構想をする折乃だった。
☆☆☆
マニフェスト発表日、生徒達に一覧が配られた。
そこには立候補者の全てが書かれている。もちろん、上門も例外ではない。
「何これ……」
それを見た一ノ倉は呆れでも驚くでもなく青ざめていた。
理由は確実に一つ目のマニフェストだろう。
『ーー上門真弓
・生徒会アイドル化計画、『華の生徒会』。生徒会役員全てを女子にし、月一の学園ライブを行う。ーー』
まさに上門真弓の楽園を作ろうというのだ。この『華の生徒会』へ、一ノ倉さんを確実に参加させるために、書記に女子の立候補者が全くいなかったのだろう。
そして、本物のアイドルも参加させ、一定の需要を得る。
女子の立候補者に投票するやつは、上門さんに投票する可能性が一気に上がる。
男子を排斥しながらも男子の票は得る。上門さんにとっては完璧な策かもしれない。
これでは負ける。確かに予想できた。
誰かと組んで票の共有をしなくては勝てない……!だが、誰と……?いや、いるじゃないか。一番迷惑そうにしてる人が。
「一ノ倉さん、もし良かったら……」
「どうしようかしら、最近少し太って、細い衣装着れるか心配なのよね……」
「可愛らしい悩み……ってそっちかーい!」
「なんてね。冗談よ」
お茶目なボケするから、勢いでツッコんじゃったよ。
「アイドル?ライブ?面倒は全てお断りよ。手を組むわ。もちろん選挙に参加する元生徒会組全員で」
どうやら、上門が着けた火は燃やしてはいけない所に引火してしまったようだ。
「面白くなってきたな?」
「冗談じゃない」
愉快そうに笑う敷町にそう言った。
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