Ep.6

 小さな小河原で昔遊んだ記憶があった。

 幼いころで両親に連れられ、友達3人でよくその小河原ではしゃいでいた時期があった。


 その通りを車で通過していく。窓は閉めたまま、でも外の景色は見える。ぼくは、その小河原を見たとき、一瞬だけ頭痛が走った。


 痛みは一瞬だったけど、その小河原はかつての記憶がぼくに伝えるかのように、見知らぬ友達とはしゃぐ光景が目に焼き付けていた。


 自宅に戻るなり、今のぼくであるという記憶がどうも変な感じがする。過去から未来へタイムスリップしたかのような感覚に似ている。いや、そんな風に思っていたのかもしれない。


 車で通り過ぎていった風景は生前の記憶を呼び覚ますかのように一枚ずつ映写機を1秒間の間に頭に入ってきては、また今の時間に戻される。


 そうやって繰り返していくうちに、ぼくは、未来へと転生したのだと知った。それは、寂しいようで悲しい気持ちもあったが、生前の死を糧に、ぼくは友達や両親を大切にするという優しさが失っていた感触だった。


 ぼくは、今の記憶はあいまいだけど、なんだか暖かい感覚に満たされるような感じで、ぼくは、彼らをとても大切にしたいと思っていた。


 自宅は2階建ての木造。田舎という一言で片づけてしまうのはどうだろうと思うような左右には民家がなく、代わりに畑や田んぼが広がっているばかり。


 高い塀は1メートル越でぼくの身長の方が高く感じた。塀を進んでいくと、小さな門があった。その隣に人間が通れる門があるのだが、ぼくは、その小さな門が気になった。


「ねえ、この小さい門はなんなの?」


 ぼくは、両親に指をさしてこの小さい門について尋ねた。門は直径15センチほどのサイズで、ぼくの頭が通れるかどうか微妙な高さと幅だった。


「そんなのどこにあるの?」


 両親が疑いの目でぼくに聞き、ぼくがその門に指をさすも両親は「ないけど…」と心配そうな顔へと変貌していくのが見えた。


「まだ、治りだてだもんね、変なものも見えるはずだよね」


 と父がそう言って、ぼくを早々に家の中へと進ませる。母はその門に手を触れていたが、まるで透明の壁に手を置くかのような感触で触れていた。


 いや、そこには門はなく、本来壁で埋まっている箇所に手を置き、壁という感触に浸っていた。ぼくは、そこに本当は門なんてない、壁だけだなんだ。


 そう、幻覚だったのかもしれない。


 その時はそう思うことにした。


 少しして、細い糸のような白色の糸が自宅から小さな門へとつながっているのが見えた。その白い糸の先は小さい門からどこへ続いているのかわからないほど緑に包まれた門になっていた。


 小さい門は、外から見れば小さく小人が通れるほどのサイズしかない門なのだが、家の方から回ってみると、小さい門は明らかに別の場所へとつながっているかのように映っていた。


 ぼくは興味を抱き、その門に手を伸ばした。


 すると、「いったいなぁ!」と何かをつかんだ同時に発せられた。その声の主は小人と思わせるほど10センチにも満たないほどの小柄で緑色の笠をかぶった猫のような姿をした者がそこにいた。


 ぼくの手はちょうどその猫のしっぽをつかんでしまっていたようで、その猫はとても奇声を上げ怒っている様子だった。


 ぼくは慌てて手を放し、素直に謝った。前世では謝ることなんて一度もなかったはずなのに、なんだか変な感触だ。


「吾輩に失敬な奴だニャ」


 吾輩――子のネコ一人称は吾輩というらしい。茶トラのような毛皮で、触れたときモフモフとして気持ちよかったのは内緒だ。


「す、すいません!!」


「まあ、よしとして、おまえさん、ニャ(名)はニャン(何)というのかにゃ」


 名前を聞かれているのか。


「日下部(くさかべ)希人(きひと)です」


 と頭を下げながらそう申し入れた。すると、猫はニャンニャンと言いながら、「吾輩のニャはトラと申す」と、笠を下げた。


 やはりというか、笠を下げた頭は猫そのもので猫耳である。ぴくぴくと動くしぐさにぼくは、思わずその猫耳に手を触れてしまった。


「ニャニャニャ!」


 と訳が分からない言語が飛び出し、トラは威嚇を上げながら一歩後退してぼくに睨みつけながら声にならない声を上げていた。


 ぼくは慌てて再び謝る。でもトラは機嫌を損ねたのか、「こんニャ失礼ニャやつだとは久しぶりだニャ」と、ふてくれた様子で小さい門から姿を消していった。その門はトラがいってしまった後、消えてしまい。


 元の壁へと変わっていた。


 それ以降か、その門が再び現れることはなかったが、つい最近、しゃべる猫が家に餌を欲しがって遊びに来るようになったのはまた少し先の話だった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る