Ep.4

 看護婦さんは優しかった。


 ぼくが明日で退院の話をすると「さびしくなるね」と言って、ぼくがあげた缶ジュースに口をつけ飲んでいた。


 ぼくが購入したジュースは、野菜炭酸ジュースだった。最初の一口で「ああ、あわないな」と判断し、その看護婦さんに譲ったのだ。


 ぼくは、今日目覚めたばかりで、この世界のことをよく知らない。ぼくは、看護婦さんに記憶消失という部分がばれないようにして話しを繋がらせながら、ぼくはこの世界のことを訪ねていった。


 質問と回答の繰り返しだったけども。その看護婦さんは丁寧に教えてくれた。とても優しかった。けど、足元から見える白い糸がだけが妙に嫌な気がしてならなかったのは秘密だ。


「看護婦さんはいつから、この病院で仕事しているの?」

「そうね、私は…」と缶ジュースに手を添えながら首を傾げつつ、閃くかのように「8年前からかな。ちょうどあの事件の後からか…」


「事件?」


 ぼくは、戦慄した。もしかしたら殺されたあの事件に関する内容なのかもしれないと。


「一家が殺された事件。とてもひどい殺され方だったそうよ。そのとき、私はまだ新人で、まともなことはできなかったけど、運ばれてきたその家族を見て、人目て助からないと思ったわ。けど、息をしているから助かる見込みはあるといって、緊急手術が始まったのは覚えているわ」


 ぼくが関係している事件じゃなくて少し安心した。


「でも、結局は助けられなく、その場に亡くなってしまったのよね、悲しい事件だったなぁ」


 そう言って看護婦さんは再び缶ジュースを飲みほした。一揆のみだった。


 ひと段落したあと、ぼくは足元にある糸のことをついて尋ねた。


「糸? そんな糸が私の足元に??」


 足元を何度も目を向けつつ、手で触っていく。その糸に触れることなくすり抜けていく感じは、ぼくにだけにしか見えない幻だったのだとそう思った。


「ごめん、幻…みたいだ」


「そうなの? まさか、君は幻覚症状に悩んでいるの?」


「いえ、じつは起きたときやその前の時は何も見えなかったのですけども、つい1時間前に見えてしまって、怖くなったのですよ」


 照れ臭さを隠しながらそう告げた。


 看護婦さんは「ふご」と笑いだした。


「面白い人ね。まるで、この病院で治療して見えるようになった…みたいないい方ね」


 その看護婦さんは一定時間笑った後、「ジュースありがとうね。もし、よかったら、そういう話また聞かせてね」といい、立ち去っていった。


 ぼくは残された缶ジュースの空き缶をゴミに捨て、もう一度ジュースを買おうとしたとき、ちょうど通りかかった別の看護婦さんに見つかって、怒られた。


 ぼくは、その看護婦さん(見た目は先ほどよりも少し年取っているような感じて、少し横に太い人)の足元を見つめたが、なにもなかった。


(やっぱり幻覚だったんだな)


 看護婦さんに無理を言って、ジュースだけ飲んだ後、ぼくがいる部屋まで一緒についてきてもらった。


 そのあと喉が澄んだことによって、ぼくは安らかに眠ることができた。

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