04-07-04:仕事が早いって素晴らしいですね(限度がないとは言ってない)
仕事が早いって素晴らしい。
だが早すぎるのも考えものだ。
朝食をかじっていると、シェルタの代りにと領主の使いとギルドの使いがやって来た。
曰く『メディエ嬢には"今日は休み"であることを連絡している』と。
曰く『依頼が発行されたので来なさい』と。
曰く『『事態の収集にご協力ください』』と。
完全に息ぴったりなのは、互いに根回しが済んでいるということか。少なくともグインとサビオの仲は悪くないようだ。
「昨日の今日どころじゃないんですがね」
「まぁ、有能な上司って居るだけで組織が回るものねぇ」
感慨深く語るステラは遠くを見つめている。何か過去にあったのかもしれない。
だが端切れの記憶が『やった』『やってない』『しょうこがない』という、醜い祟りの押し付け合いが想起されているだけであった。
伝え終わると領主の使いは帰ってしまったが、ギルドの使いはそのまま残る。じっと見られて気まずいステラは、せめてもと芋を差し出した。
シオンが目を見開く中、受け取った使いは……なんとこぶし台の芋を一息に食べてしまう。
ごちそうさまと頭を下げる様に戦いたステラは、急いで食事をかきこみはじめた。こりゃあゆっくり食べてる時間はないとの判断である。
だが使いの彼は口の大きいリザードである。食事する時は基本丸呑みの一族なので、彼に急かすつもりはまったくない。料理を味わうことも確かにあるが、ふかし芋は味わう間でもなくただの芋である。
急いで食事を済ませた2人は、使いと一緒にギルドへと急いで向かった。
◇◇◇
ギルドにやってくれば即座に会議室へと通される。
部屋には不機嫌を隠そうともしない色白の美女と、宥める羊角の優男が居た。両者とも魔人族のようだ。
グインが言う『一番良いヤツ』がこの2人なのだろう。
(……黒髪の女性は鞭が似合うな。金髪の男性は薔薇でも持てば絵になるんじゃないか)
脳裏に思い浮かべていると、奥のペンギンが立ち上がった。ステラが目を丸くして3度見るが、ペンギンであった。葉巻をくわえたペンギン……。
「おう、遅かったじゃねえカ」
「?!」
ステラは大分この世界に馴染んだと思っていたが、まだまだのようだ。目の前のそれは恐らく獣人族なのだろうが、まんまる真っ白なお腹は明らかに喋るペンギンであった。
熱い視線を投げかければニヒルに笑う。
「俺に惚れるとやけどするぜエ」
「ぽんぽんなでたい(なんだそりゃ)――っおおん!」
同時にぺしんと尻を叩かれる。脇腹は急所、肩はちょっと高い、なので尻である。勿論ステラも同意済みなのでセクハラではない。
目を見開くグインがカカと笑う。
「俺の腹を撫でてぇなんて言うやつは初めてだゼ!」
だが笑って揺れるその腹に、都合4つの視線が向けられている。
たしかに見れば見るほど滑らかで、シルクのような光沢は……ちょっと撫でてみたいと思わせるものが有った。更にぽいんぽいんゆれるし、抱き心地だって良さそうである。タバコ臭いのが玉に瑕だが……もふぁっと撫でる価値はある。
実に、興味深い……。
どこか狩人めいた視線に気付いたのか、咳払いしたグインに全員が身を正す。
「で、アタシを呼び出した訳は? 眠いんだけど」
「エンビディエアよ、聞いてなかったのカ? エダルベアが20もでやがっタといったろウ?」
「……ハァ、聞いてたわよ。面倒だなって思っただけ」
「もしかしてこの2人が発見者かな?」
「ああ、ディセオ。そいつ等が『シュテルネン・リヒト』、今回の報告者ダ」
反応して2人がに振り返る。視線は驚きと呆れだ。
「よく生き残れたね……」
「運良くエダルベアの興味を引くものが他に居ましたからね」
言外にオトリを使ったと言えば、優男が顔をしかめる。
に美女は目を見開き、嬉しそうに笑った。
「今回集まってもらったのはエダルベアの討伐についてダ。
白金級『ナイト・リリイ』と、同じく白金級『ギアード・コーヴ』にそいつを依頼してエ」
「そんなの他に依頼すればいいじゃない……」
「おめエ、分かってていってんだロ?」
表情の読みづらいペンギンが葉巻をカフウと吐くと、美女がチッと舌打ちする。
「……ちなみに彼女達はどうするんだい? 呼び出したからには同行するんだろう」
「『シュテルネン・リヒト』の2人にゃバックアップに回ってもらウ。主に足止めだナ」
「ああ……成る程ね」
先日の一件について情報を得ているのだろう。ディセオがステラを見て爽やかに微笑んだ。
(よく分からんが期待されているようだな!)
ならば応えねばなるまい! ステラは腰に手を当て、ニカッとわらってピースサインを突出した。彼は拍子抜けしたように目を見開いて、それを見たエンビディエアが肩を震わせた。
「一応緊急依頼だからすぐうごいてくレ。祭りも近いからヨ」
「それは報酬次第だけど――」
「こいつぁギルドだけじゃねエ、サビオ様からも報酬を出すと来てんダ」
「あら、ステキじゃない?」
妖艶に笑う彼女は了承したようだ。
「ディセオ、おめえは――」
「私は構わないよ。美しいお嬢さんが心配だからね」
何度目になるか、視線が向いた事でシオンの裾を引っ張った。
「シオン君、ディセオ氏がキミを見て美しいお嬢さんだと……」
「いや十中八九ステラさんの事ですよね?」
「いやいや君って中性的な美少年だぞ? 女装したら覚醒する奴が現れる程度には……!!」
「着ませんからね?」
「ヱー」
茶番にディセオは眉根を寄せ、エンビディエアは顔を背けてプルプル震えた。視線が集まっている事に気付いてどうぞどうぞと会議の進捗を促す。
「我々足止めと聞いてるから、基本戦略はそっちにお任せだよ。
因みに落とし穴バンザイでいくつもりだよ」
「そういう訳ですので、上手く使ってください」
ペコリとお辞儀するのを皮切りに、細かい部分について打ち合わせていく。概ねやるべきことが決まった段で、翌日早朝に集合を取り決めて解散となった。
最後の最後でステラは昼食はどうか食事に誘われたが、これを固く……それこそ蒼きオリハルコンのごとく固辞する。実は今日、絶対に帰らねばならない事情がステラにはあったのだ。
(なにせ旦那さんのコロッケが待って居るからなぁ!)
そう、流したレシピが日の目を見ると……こっそり教えてくれたのである! このハレの日に帰らぬなど、頭おかしいとしか言い様がなかった。左様、ウルトラハッピーセットがステラを待っているのである。
珍しくシオンの手を引いてずいずい進む程度には、楽しみで仕方ないのだ。
「たまらねえぜ」
「え、何ですって?」
「帰ったら分かるよ!」
少し気持ちのにやにや笑いを浮かべるステラに嫌な予感を過ぎらせつつ、翌日に向けての準備を開始した。
===========
対象:緊急依頼※対象者指定『シュテルネン・リヒト』
顧客:ギルドクエスト/領主代行補助
依頼:エダルベア討伐補助
内容:森に出現したエダルベア20の討伐補助。
之に関する足止めを実施する。
報酬:100,000タブラ
期間:即時対応要
特記:同行者パーティーあり。
白金級『ナイト・リリイ』 /魔銀級・エンビディエア
白金級『ギアード・コーヴ』/魔銀級・ディセオ
===========
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます