7-2.相変わらず

 目を泳がせる美登利の視界の端で和美がぴっと立候補した。

「それならうちら売り子やるよ。ね、坂野っち」

「そうですね。たまにはお役に立たなければ」

「どうもありがとう。良かったね、タクマ」

 そういうわけで夏祭りまでと当日の二日間はとてつもなく忙しかった。


 最終日の花火の後、見物客がいなくなるのを見計らって通りの片づけをしていると、小暮綾香がやって来るのが見えた。

「さっき予備校で森村くんに聞きました」

「何を?」

「休みに入ってから彼と連絡が取れないって」

「実家にいるんだよね? 血相変えることでもないでしょ」

「心配もしないんですか?」

「一人ぼっちでどっか行ってるわけじゃないでしょう。何をそんなに取り乱すのさ」

「ほんとに冷たいですね」

「私に言わせればあなたは騒ぎすぎ」

「そんな……」


「なにか不慮の出来事が起きてたとして、それならそれで知らせがあるはずでしょう、何もないなら本人がちょっと具合が悪いとか、携帯忘れてるとか、そんなんでしょうよ。あんまり大騒ぎすると後で恥ずかしいから少し落ち着いた方がいいよ」

 正論を畳みかけられて綾香は黙る。

「大体、私に言われても……」

「彼女でもないし?」

「わかってるならいちいち突っかかってこないで」

 綾香は悔しそうな顔で、それでもぺこりと頭を下げて帰っていった。


「相変わらずだね、小暮っち」

「ああいう人は何がしたいのかわかりません」

 囁き合う和美と今日子に美登利は苦笑してみせる。

「愛があるからだよ」

「愛ねえ」


 やれやれと片づけに戻ると、店の中から見ていた琢磨がぼそっと言った。

「勇人に聞けば安否はすぐにわかるだろうが」

「安否って」

「あそこの親父さんはちぃと過激らしいからな。田舎の建設業のボスだぜ、想像つくだろ」

「……」

 不安をあおる琢磨の言いように何をさせたいのかと美登利は眉をひそめる。


「連絡とってみるか?」

「タクマがしたいならすればいい」

「そういうことにしといてやる」

 わかったふうな言い方に少しムカッとしたが美登利は黙っていた。

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