1-2.取り残された気分
「サークルの勧誘がすごいんだとよ」
カウンター席のいちばん奥で宮前仁が肩をすくめた。
俄かに大学生っぽい響きに正人は取り残された気分になってしまう。
「女子大なら安心くらいに思ってたのに衝撃だったね、入学式の帰り道」
女子新入生をターゲットに外部サークルの勧誘学生が校門前で待ち構えているのだそうだ。
「チラシ渡してくるだけじゃなくて、ナンパかって勢いでさらっていこうとするんだよ。そんな中にこんな人が出てってごらんよ」
ちらっと美登利に視線を流して船岡和美はため息を吐く。自分に向かってカップを差し出してくれた彼女を見て正人も切なくなる。
(先輩はきれいだから)
数々の伝説は伊達ではないのである。
「大丈夫だったんすか?」
「池崎くん、誰の心配してるのさ?」
「その、見知らぬサークルの人の方」
「さすがの正解」
和美に褒められたけどそんなのはあたりまえだ。嫌というほどわかってる。
「我慢はしたよ。あんな公衆の面前で蹴り飛ばしたりしたら傷害事件になっちゃうもん」
「それでどうしたの?」
「ヒールの踵でつま先思い切り踏みつけてやった」
にっこりと美登利は笑う。
本人以上にまいった様子で和美がまたため息をつく。
「そんなことが毎日だからさ」
「それで顔隠そうって?」
「そういうこと」
「こんなことなら大人しく西城に行ってれば良かったのかな」
友人に迷惑をかけているのが居たたまれなくなったのか、美登利が弱気なことを言う。
「ばっか、それだと今頃もっと大騒ぎだぞ。千重子ババアはおまえを広告塔にしただろうからな」
「そっか……」
宮前の言葉に美登利は疲れたような、寂しそうな顔をする。
「買物するならもう帰っていいぞ」
いつ来たのか、いつから話を聞いていたのか、いつのまにか志岐琢磨がカウンターの中にいて正人は驚く。どこから出てくるのか本当に不思議だ。
「あ、それならうちら付きあ……」
「船岡さん、お話があるのでまだここにいてください」
和美の脇腹をこっそりつねりながら坂野今日子が言う。
「池崎くん、時間あるなら荷物持ちしてくださいね」
「あ、はい」
「いいのに」
「美登利さん、お疲れのようなので」
あくまでにこやかに今日子は言う。
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