第138話 死神ちゃんとパンク野郎
死神ちゃんが〈
「やべえ! マジでパネェ! 普通、死神っつったら骸骨に黒ローブだろ! なのに、こいつ、幼女だってよ! パネェ! めっちゃロックだ! すげぇパンキーだぜぇ!」
思わず、死神ちゃんは逃げ回った。パネェパネェと連呼する奇抜な格好の若者を睨みつけながら死神ちゃんはヒョイヒョイと飛び回っていたのだが、若者はめげることなく死神ちゃんを追いかけ回した。そしてようやく死神ちゃんの捕獲に成功すると、彼は腕の中の死神ちゃんを見つめて「パネェ!」と叫んだ。
「すっげ、こいつ、本物の幼女みてぇ!」
「でも死神だからな。お前、死んだら灰になるぞ。とり憑いたからな」
「マジか! パネェな!」
身を
彼は奇抜というよりも、危ない格好をしていた。それも、呪い的な意味で。死神ちゃんは一層顔をしかめると、彼から少し距離を取りながらボソリと言った。
「お前、全身禍々しい装備で固めてて、装飾も悪魔やら骸骨やらばかりなのに、何で呪いのオーラ纏ってないんだよ。黒騎士か
「いやだな、どう見ても俺、ただの
呪われたアイテムというのは、厄介な呪いが込められている反面、性能が凄まじく良いことが多い。しかしながら、黒騎士や悪魔族など〈呪いの効かない者〉以外が装備してしまうと、解呪を行うまで身につけっぱなしとなってしまい、自由に着脱が出来なくなってしまう。さらに、装備した状態で解呪すると、呪いが解けるのと一緒に装備品も粉々に砕けてしまって使い物にならなくなる。そのため、呪いによるダメージとは真逆の効果のある〈祝福された装備品〉を他の部位に身につけて呪いを打ち消し、その素晴らしい性能を享受しようという者も少なからずいる。
だが、彼はその手の者とは違った。呪われた装備品特有の〈嫌な演出〉が彼に纏わり付いているということが一切なかったのだ。どうしてなのかと聞いてみると、彼は呪いの品を身につける前に解呪したのだという。何でも、錬金術と魔法を組み合わせて特殊な作業を行うと、装備品から〈呪い〉を引き剥がすことが出来るのだそうだ。
「でも、そのために必要な材料自体がレアで手に入り
「へえ。その面倒臭い作業、もしかして自分でやったのか?」
「おう。すげぇパンクっしょ?」
顎の辺りにVサインを掲げてベロリと舌を出すパンク野郎を、死神ちゃんは〈見なおした〉とでも言うかのような感心の眼差しで見つめた。ただの馬鹿な不審者と思っていたら、結構な秀才だったというわけだ。変わり者であることには変わりないが。
そんな変わり者のパンク野郎は本日、さらなるパンクなものを求めてダンジョンにやってきたのだそうだ。その途中で〈死神の姿をしていない死神〉なんていう
「俺のテク的に、俺は錬金術士としては普通に凄腕の部類に入るんだろうけどな。でも、俺の人生、ロックでパンクでなきゃ駄目なんだ。普通なんてもんにゃあシビれねぇし、
死神ちゃんは相槌を打ちながらも、何となく複雑な気持ちになった。そうこうしているうちに、パンク野郎の目的地へと到着した。――そこは五階〈水辺地区〉であった。
パンク野郎はあちらこちらと歩き回り、お目当ての者を見つけるとコソコソと近づいていった。日当たりの良い岩場で毛づくろいしていたそれはパンク野郎の姿に驚くと、美しい顔を醜く歪めてスウと息を吸い込んだ。
「あああ、これが噂に聞く〈金属的に輝き響く、死の歌声〉……。すげぇシビれる! すげぇパネェ!」
セイレーンの絶叫を浴びながら、パンク野郎はうっとりとした顔で叫んだ。そして彼が嬉しそうに身悶えし、セイレーンのヘトバンに合わせて一緒になって頭を激しく振るのを、死神ちゃんは呆れを通り越して表情もなく見つめた。
彼はそのまま興奮気味に頬を上気させ、セイレーンとともに絶叫しながらいろんな意味で果てた。艶のある声と灰を、その場に残して。
「どうしよう。やっぱり、ただの馬鹿だったかも……」
死神ちゃんはげっそりとした顔でポツリとそう言うと、ため息をつきながら消えていった。
**********
「あんた、ああいうのと気が合うんじゃないの?」
「えー、ああいうファッションはちょっと、あちし、美しいとは思わないんだよな~」
待機室に戻ってくると、クリスとピエロが仲良くモニターを眺めていた。ファッションじゃなくて、と言うとクリスは苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「自分の〈好きなこと〉のために高度な錬金術駆使しちゃうっていうところが、
「あー、そういうことね。それだったら、そうかも! あちしもね~、そこはすっごくこだわりあるんだよ~。えっとね~……」
ピエロが何やら小難しい話をしようと口を開いたのと同時に、クリスに出動要請がかかった。彼の後ろ姿を名残惜しそうに見つめていたピエロは死神ちゃんに気がつくと、ニヤリと笑って近づいてきた。
「
「おっと、俺もまた出動要請かかったわ」
死神ちゃんはピエロに背を向けると、そのままスタスタとダンジョン出入り口へと向かっていった。話を始めることが一向に出来ずに消化不良のまま置いて行かれたピエロの文句が、待機室にこだましたのだった。
――――人に迷惑がかからないのであれば、たとえそれがパッと見おかしなことであっても、好きなことのために技術をとことん突き詰めるのはいいことだと思うのDEATH。
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