たまには釣りでもいかが? 1

 長い夏休みに入った。


 学校に行くのは、週に2回のプールのみ。ほかにやることといえば、ピアノの習い事ぐらいで、空いた時間は二級建築士の勉強に当ててはいるが、ここまで時間があると使い道に困る。


 夏休みに入って間もなく、せいりゅうくんとようたくんがゲーム機を片手に我が家へとやってきた。どうやら彼らも時間を持て余しているようだ。

 すでにやり尽くしたとも言える『モンスターハンティング ダブルエックス』をまた始める。おおよその敵は狩り尽くしているので、ほったらかしだったつまらないクエストを始める。キノコをたくさん集めたり、卵を運搬したり、釣りをして珍しい魚を集めたりと、まったく面白くなさそうなクエストをそつなくこなしていった。


 釣りのクエストをしていたときだ、ようたくんの発言から妙な方向へと話が動き出す。

「ねえ、実際の釣りってどうなの?」


 せいりゅうくんが、ゲーム機片手に、生返事をする。

「うーん、わかんねぇ」


 どうやらせいりゅうくんとようたくんは、釣りの経験が無いらしい。



 ところで、海沿いに住んでいる人が、みんなサーフィンをやらないように、川沿いに住んでいる人は、あまり頻繁には釣りをしない。私も社会人になりたての時ぐらいまではやっていたが、ここ10年くらいは縁遠い。

 もちろん釣りが好きな人はいるが、川釣りは海釣りと違って食べられる魚がすくなく『食べる』という楽しみがひとつ減ってしまう。この食べられないという点は意外と大きい。以前、釣りの好きな友人からもらったカレイなどは肉厚で油がのっていて、まことに美味だった。


 川釣りでも食べられる魚も釣れることは釣れるが、一匹あたりの食べられる量が少なく、味も淡泊で物足りない。

 たまに魚屋で見かける川魚は、大きさの割に値段が高いので敬遠されがちだ。この間、スーパーで見かけたときは鮎に600円と値札が付いていた。私はあれならサンマの方を値段で選んでしまう。ただ、川魚は香りがよく癖がすくないので、食欲のあまり無い時期にはいいだろう。



 そんな事を考えながら、ゲームの中で釣りをする。このゲームに出てくる魚たちはあまり美味そうには見えない。骨が多そうで身はパサついて臭みがありそうだ。


 せいりゅうくんが、魚のアタリにあわせることが出来ずに逃がしてしまう。

「ああ、失敗した、本物ならうまくいく言ってたのに」

 と、やった事もないのに強がりを言う。


 そこで私は、

「それなら一度、経験してみるかい?」

 試しに誘い出してみた。


「やる!」「やってみたい!」

 せいりゅうくんとようたくんを見事に引っかける事が出来た。こうして釣りをする事になったが、しかしどこで釣りをしよう?


 近所の川でも釣りをすることは出来るのだが、しかしやはり、釣りをするからには食べられる魚の方が良いかもしれない。

 渓流釣りでは食べられる魚が釣れる比率が上がるが、難易度が跳ね上がる。はたして初心者が釣れるだろうか?

 それらの打開策として釣り堀を使うという手もある。うちの市では渓流の釣り堀も運営しているのだが、観光客向けで少々お高い、たしか半日ほどで3000円ほどしたはずだ。


 安く妥協するか、まったく釣れないかもしれないリスクを取るか、それらを金で解決してしまうか。


 判断が付かずに子供達に聞いてみる事とした。

「近所で安上がりに釣りをするのと、釣れないかもしれない場所で釣りをするのと、3000円はらって食べられる魚を釣り堀で釣るのとどっちが良い?」


 すると即答で返事がくる。

「釣り堀で」「釣り堀がいい」

 最近の小学生は金回りが良いらしい。

 サラリーマンのランチは500円で済ますという人も多いというのに……


 少し、この子らの金遣いが気になった。まずはご実家の方へ確認が必要だろう。

「でもお金掛かるから、家に確認をしよう」

 そういって、自宅に電話を促す。


「わかったに確認してみる」「俺様も確認する」

 ふたりとも自宅に電話をかける。通話をしている最中にハンドサインを送ってくる、どうやら『OK』が出たらしい。


 こうして夏休みの一日を高級釣り堀で過ごす事となった。

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