少年(?)野球 3

 実家に帰って真新しいユニフォームに着替える。小学生の証明書を首から下げて河原のグラウンドに戻ってきた。

 たいして時間はすぎていないが、すでに試合が始まっており試合は3回の裏、うちのチームの攻撃で点数は3対1で負けている。

 監督の元へと行く。意外にも桐原きりはらさんがまだ残っていた、伝えたい事は言ったはずなので、てっきり帰ってしまうものだと、思っていたのだが……


 まず監督に戻った事を伝える。

「ただいま戻りました、負けていますね」


「おかえり、でもうちのチームも1点取ることができたよ、いつもだったらバットにかすりもしないが、今日はけっこう打てている。

きのうの君のバッティングピッチャーの練習がよかったのかもしれない」


「そう願いたいものです」


「打線的には五分五分なんだが、向こうの守備に隙がない、おそらく点差は開く一方だ。

どうしようもなさそうになったら君に投げて貰うから、それまではゆっくりと観戦しようじゃないか」


「そうですね」


「私は早めに対処を行った方が良いと思いますけど」

 と桐原さんが進言してきたが、私と監督はあえてスルーをした。



 そのまま子供の試合の行方を見守る。監督の見立て通りに相手チームの守備が良い。

 一方こちらのチームはたびたびエラーをして余計な進塁を許してしまっていた。

 ちいさなミスの積み重ねが点数に反映されていく、6回を過ぎたころには8対2とだいぶ離されていた。



 監督からお呼びが掛る。


「このまま行くとコールドゲームになりそうなので、君を使いたいんだが……」


「そうですね、でも相手の監督さんには話しておいたほうが良いのではないですかね?」


「やはりそうだよな、では話にいくか」



 相手の監督さんに声を掛ける。


「試合の途中ですが、なにかトラブルでもありましたか?」


 こちらへやってくる、さてどう話を切り出そうか。


「ええと私、少々事情がありまして、今は小学生をやっております」


「えっ、どういう事でしょう?」


 相手側の監督が目を丸くした。まあそうなるだろう。


「経緯は省きますが、今は身分的に小学生でして、こちらが証明書となっております」


「ええと、用はあなたが選手として試合に参加するという事でしょうか?」


「そうなりますね。参加拒否をされたら流石に出場は控えますが……」


 そう言うと桐原さんが口を挟んできた。


「彼は小学生です、出場する権利は持っています」


 相手側の監督さんが、不可解ふかかいそうな顔で聞いてくる。


「あなたはどなたでしょう?」


「文部科学省の再教育課の桐原と申します」


 そういうと桐原さんは名刺を両手でさしだした。


「ええと、ちょっとまってください、文科省お墨付きで小学生やっているということですか?」


 私が苦い顔で答える。

「そうなりますね」


 相手の監督は混乱している。まあ無理も無いだろう。


「うーむ……、ところであなたは守備位置は?」


「もし許可がおりるならピッチャーをやろうかと」


「球は早いのですか?」


「まあ、人並みには」


「なるほどなるほど、ではピッチャーで参加をお願いします」


「良いのですか?」


「いや、うちのチーム、自慢ではないですがそこそこ強いのですよ」


 うちのチームの監督が、口を出す。

「そこそこではなく、かなり強いですよね」

 と相手チームを褒めたたえる、ここまで試合を見てきたが、私もかなりの強豪チームだと思う。


「そう言ってもらえるとありがたいのですが、問題もでてきまして。

最近は天狗になっていると申しますか、自信過剰で練習をさぼりぎみになってきました」


「それは余り良い傾向にありませんな」

 うちの監督も相手チームの監督に同情をする。強いチームには強いチームなりの問題を抱えているらしい。


「そこでお灸を据える為に、ビシッと投げ込んでみてください、期待しています」


 なにやら変な期待のされ方をされてしまった。そんなに凄い球は投げられないのだが……


「できる限り、希望にお応えします」


 こう答えることが精一杯だった。

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