自宅での途方もない時間

 授業が終り一通り遊んで帰宅をする、時計の針はまだ5時をすこし過ぎたころ。空は真っ赤に染まっていた。


 日が沈む、太陽は赤く膨れ上がって、雲はやや紫がかった色合いをしている。

 明るいうちに帰れるというのは久しぶりだ。


「毎日こうやって太陽は沈んでいたのか」


 思わず足を止めてしまい、見入る。

 こんなにゆったりと夕日をながめていた事はあっただろうか? 記憶をたどっても思い出せなかった。

 太陽をながめていると見る間に空から山の中へと吸い込まれ、またたくまに暗くなってしまった。あんなに早く動いているものなのだなと感心する。


 久しぶりに面白いというか、良い風景がみられた気がした。

 薄暗い、街灯の少ない舗装の乱れた道を、ゆっくりと自宅へと向かう。



 自宅に着き、ドアをあけるとうまそうな匂いがただよってきた。


「お母さん、ただいま」


「お帰りなさい、晩ご飯まではもう少しかかるわ。ところで学校はどうだった?」


「まあ、ぼちぼちかな、帰りにはクラスメイトからお誘いを受けて少しあそんできたよ」


「あら、よかったじゃない、安心したわ」


「ちょっと引っ越しの作業が途中だったんで続きをするよ」


「わかったわ、夕飯ができたら呼ぶわ」


「うん、よろしく」



 自分の部屋にもどり、引っ越しの作業の続きをする。


 まずは段ボールをあけて中身を確認するところから開始しなければならない。

 引っ越し業者が適当につっこんだので、どこになにが入っているのか分らないからだ。


 しかしまあ時間には余裕がある。持て余すほどに。


「もともと部屋にあったものもこの際に整理しておくか」


 部屋の奥をゴソゴソと整理をしていると、学生時代のノートが出てきた。もったいなくて、捨てに捨てられず取っておいたものだ。

 二度と使うことはないだろうと思ったが、ここに来て役に立つかもしれない。


 紙の質が劣化して、セピア色になりかけたノートを開いてみると、汚い字でなにやら書いてある。

 読めないことはないのだが、とにかく読みにくい。まあ、自分が書いたものだから、読めて当然かもしれないが。


 いくつかの教科では、これらが役にたつかもしれない、復習と予習を兼ねてすこし見直しをしても良だろう。

 とりあえず手を付けるとしたら数学あたりだろうか。この教科は時代によっても変わりようがないのだから、まずはここから手を付けることにしよう。


 数学のノートをながめていると、全体の2~3割ほどしか覚えていなかったが、まあ何とかなるだろう。

 字が汚くて難解な書を読み解いていると、時間が過ぎていき。


「ご飯ですよ~」と母親からおよびが掛る。


 その声で我に返る。引っ越しの作業がまったく進んでいなかった。



 ゆったりとした時間の中で、食事をとり風呂に入る。

 休憩がてらにリビングでテレビをみて時計に目をやると、まだ9時頃だった。


 母親に、「まだ少し片付けをするよ」と言って自室に戻った。


 片付けをやりながら独り言がもれる。


 「いまは引っ越しの作業があるものの、この作業が終わったら、膨大な時間ができてしまう、さてどうしよう?」


 予習と復習に費やすにしろ、時間が余りすぎる気がする。


 「しかし字が汚かったな、漢字も書けなかった文字も多かったし、これはペン習字の教本でも買ってみて練習したらちょうどいいだろう」


 しかし教本は学習に含まれるのか? だとしたら経費として請求できるのだろうか?

 なんにせよこういった事に関しては役人はうるさいから、一度確認をしておいたほうがいいだろう。


 そいえば忘れていた。たしか文部科学省の再教育課に報告書を上げなければいけなかった。

 メールで打っておこう。


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報告書


○月×日


本日は理科と体育の授業がありましたが、体操着を忘れてしまいました。

準備不足でした。次からジャージを用意します。今後は気をつけます。


放課後、クラスメイトに誘われて、クラスメイト宅にて

『モンスターハンティング エックス』を借りて遊びました。


ペン習字でもやろうかと思っていますが、教本は経費として請求したほうが良いですかね?

額はたいしたことないので、経費がダメだったら自費で取り寄せようと思っています。


その他

上履きのサイズが無いようなので、スリッパで過ごします。

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 こんな感じでいいのだろうか?

 まあ、ダメだったら翌日なにか言ってくるだろう。


 問題のないこの報告書は何かダメなところがあったらしく、翌日に電話が掛ってきた。

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