給食の時間

 さて、午前の授業が終りひとときの休憩時間が訪れる。

 時間割を見ると、給食が準備もふくめて40分、昼休みが30分、そのあと掃除が20分となっている。


 社会人にも60分間の昼休みは法律で保証されているはずだが、仕事がずれこんだり他の仕事の準備に追われたりと休憩時間が削られる事が多い。

 しかしここではそのような事は起こらない、ゆったりとした時間が過ごせそうだ。

 


 給食の開始時間になると、なにやら机の移動が始まった。となりの席のきりんちゃんが「机をこういう風に移動して」と身振り手振りをまじえて、教えてくれる。その通りに動かすと、机を付き合わせたちいさな島がいくつかできた。

 ひとつの島は、机は6個ほどでできていて、どうやら対話をしながら食事を取るらしい。


 これは困った、何を喋ればいいのだろう。

 となりの島の会話を聞いていると、どうやらテレビアニメだのマンガなどの話をしているらしいが、サッパリ分らない。



 一部の生徒はエプロンに身を包み、給食を配る準備をする、給食係というやつだ。

 どこからか寸胴ずんどうのようなバケツをもってきて、配膳の用意をする。しばらくすると準備が整ったらしい。するとうちの島の男の子が「はやく並ぼうぜ」とまっさきに列に付く。

 それを皮切りに、ほかの男の子たちも争うように列に付いた。女の子は落ち着いていて、男子を尻目にゆっくりと列に並ぶ。


 私の記憶によると、全員に配膳はいぜんが行き渡ってから食事が始まるはずだ。急いだところで変わらないはずだが、なにかと競争したがる年頃なのかもしれない。



 しかし大人の私が給食をもらっても良いのだろうか?

 不安を抱えながら、申し訳なさそうに私は列の最後尾に付く。


 順番が巡ってきて給食をもらう番になる、どうやら私も頭数にはいっていたらしく、配るものが足りないなどといった事態にはならなかった。


 配られたものは、コッペパン、サラダ、トマト味のスープ、魚の揚げ物、牛乳。

 いささか量がすくないが、最近メタボ体型になりつつある私にはちょうどよいかもしれない。



 美和子先生は生徒に食事が行き渡ったのを確認してから、


「それではいただきます」


 そう言うと、生徒たちは待ってましたと言わんばかりに


「いただきます」


 と声を出して食事を始める。


 こうして見てみると男の子はなにかに急かされるようにがっついて食べている子が多く。女の子は喋りながらゆったりと食べている子が多い。

 ここらへんの男女の特徴は社会にでても変わっていない気がする。すくなくとも私の周りの男性は、かっ込むように食べていた。


 食事の途中に、元気そうな男の子が口に食べ物を入れたまま喋りかけてくる。


「俺様は、せいりゅうっていうんだ、おっさんよろしくな!」


「こちらこそよろしくね」

 最近の親御さんは少し変わった名前をつける。



「ところでおっさんはいつも何食べてたの?」


「うーんそうだな、定食屋とかも多かったけど、一番多いのはコンビニでおにぎりやサンドイッチだったかな」


「コンビニのがおいしくて好きだったの?」


 素朴な質問だった。そうか小学生から見れば大人は大金を持っていて、好きなモノをいつでも食べられる。一番うまいモノだから一番多くたべる訳か、なるほど。

 だがコンビニ飯を選ばざるおえない悲しい大人の事情がある。


「いや、手軽だったし時間がもったいなかったからかな。昼休みにもかたづけなきゃいけない仕事があったし」


「ふーん」

生返事なまへんじが返ってきた。仕事などといった話には興味が無いのだろう。


「ところで体育の時間にちょっといってたけど、おっさんは野球やってたの?」


「ああ、高校時代に少しね、2軍で補欠だったけど」


「じゃあ、昼休みに野球してあそぼうぜ!」


 野球のお誘いを受けてしまう。

 まあ、食後の軽い運動にはちょうど良いのかもしれない。


「いいよ」


「そうと決まったら早くメシくっちまおう」


 そう言うと男の子は信じられないスピードで食べ始めた。食事が次から次へと消えていく。

 年をくった私がまねをしたら、食べ物をへんな所に詰まらせてしまいそうだ。

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