第17話 『正義の味方』と『ヴィラン』



 何を持って正義の味方というんだろう。

 正義を名乗るってなんだのだろう。

 ヴィランって一体何なのだろう。



 ダークはとあるビルの屋上にたっていた。

 ビルの中のとある会社が入っている階層は混乱を極めており、それが彼にとっては心地よかった。

「ダーク様、まだ来ないんですかねェ」

「その通りだ、遅いな」

「じらすのが好きなのかしらー」

 Dr.の言葉に、ダークとカオルが肯定の言葉のような台詞を言う。

「さて、正義の味方とは名高いが高潔かと言われたらそうでない者も多くいるつぎはぎの部隊で、私をどうやって止めるかが楽しみだ」

「ダーク様を止められる輩なんてみた事ありませんよォ」

「というか今まで止めれた奴いないしねー」

 楽しげに笑うダークの言葉に、彼らにとって良い意味での否定の言葉をカオルとDr.が言う。

 屋上の扉が勢いよく開かれる。

 銃を持った様々な国の人間を集めて作ったと思われる部隊が突入してくる。


「――ようこそ『正義の味方』諸君」


 ダークは邪悪な笑みと、部隊の人間全員に通じる言葉をもって、彼らを出迎えた。

 その直後弾丸が放たれるが、ダーク達に当たる寸前で、空中に静止してしまう。

「やれやれ、それが貴様等の挨拶なのか、随分と野蛮だな」

 ダークは見下しの笑みを浮かべながら、持っていた杖をカツンとならす。

 杖をならすと、弾丸はそのまま何事もなく地面に落ち、ころころと転がってそれ以上の反応を示さなくなった。

「んーダーク様、面倒になったからやっちゃう?」

「まぁ、面倒なのは解るが待て」

 若干苛立ったようなカオルを静止して、ダークがニヤリと笑って一歩前に出る。

「ようこそ、『正義の味方』諸君。私と敵対する気にようやくなってくれたようで嬉しいぞ」

 ダークの言葉にもひるまず、銃の引き金を引き弾丸をはっしゃするが先ほど同様の反応をおこし、ダークの体に触れることなく屋上の床に落ちることとなった。

「さて、君らについても調べさせてもらったよ。 まずは隊長殿のアドルフ君だったね、君は確かに数々の部隊を率いたすばらしい経歴があるが、過去に酒癖が酷く酔ってはたびたび元妻に暴力をふるってしまい、離婚済み、子ども等からも会いたくないと拒否されているようだね」

 指示していた立場の人間が、酷く同様したように思える。

「今は先ほどの弾丸のお礼に隊長殿についていっただけだ、全員、君ら全員の情報はすでに仕入れ済みだとも!」

 ダークが楽しそうに様々な言語でいうと、部隊全員に動揺が走る。

 ダークの語った言葉は、全て隊員各自の母国語だったからだ。

「二発もらったからな、特別もう1人言及させてもらおうか、葛谷隆一君」

 再び全員に解る言語で喋ると、目当ての人物の名前を指さした。

「君は会社等では有能な人物と呼ばれているのは知っている――が、女性関係でトラブルを起こしたようだな」

 全員が顔をかくしているため解らないはずだが、1人が酷く動揺したような動きを見せる。

「君は、結婚を考えていた女性――恋人がいたそうだが、周りの先輩がよくなかったのか、君の下半身や女性への扱いの悪さが災いしたのか、先輩の言うとおり、初な恋人に手を出さない変わりに、セフレや風俗通いがひどかったそうではないか、結果セクハラに思い悩んでいた恋人は君の行動に酷く傷ついて君との別れを要望した、医師や弁護士に頼ってまで」

 ダークは邪悪な笑顔をしているが、傍にいるカオルとDr.にだけは解るほどの怒気を放っていた。

 必死にダークは怒気を解放しきってしまわないようにしながら、しゃべり続ける。

「君は未だに元恋人に未練があるが、元恋人には心身衰弱時に出会った男性とつきあいはじめ、君は医師や元恋人にこれ以上近寄るなら警察沙汰にすると警告までされた」


「元恋人に近づいたのは復縁を申し込むため。元恋人に復縁を申し込みにいったのは、この部隊に抜擢されたからだろう? 違うかね?」


 ダークは目当ての人物を――葛谷隆一をにらみながら言い切る。

「……うわぁ、ダーク様めっちゃ怖くて顔みたくないですなァ」

「いやー顔は笑顔だと思うよ、ただしうちらだけには解るレベルで怒気放つレベルを押さえているのはすごいと思う」

 後ろにいるカオルとDr.が他の人物に届かないようにひそひそと小声で話し合う。

「さて、他の隊員の経歴も話そうかね――?」

 怒気をなんとか押し込んだダークが朗らかに話す。

 邪悪に笑いながら。




「……」

 翌日の新聞を見て、マイは若干目を丸くする。

 自分が元いた会社が数々の問題を暴露され、株価なども暴落し、内部も末端レベルで混乱がおこっているとのことだった。

「……」

 そして、部隊を構成していた隊員全ての過去経歴が露わにされ、最後にはこの部隊を支援している他の企業の問題も全て白日の下にさらされ、部隊を組織できなくなり、解散することになったになったと新聞に書かれていた。

 何となくテレビをつけてみたところ、一部のチャンネルをのぞいて、ほとんどのチャンネルで先ほど新聞で見た内容で特集がくまれていた。

 先ほどからピンポンとなっているのは多分それに関わることだと思うとマイは怖くなりその場にうずくまる。


 カーテンは締め切っている。

 小屋も鍵がかかっている。

 でも、どうしよう、マスコミになんて顔をだしたくない。

 うずくまっていると、何か表で声が聞こえた。

 言葉は聞き取れないけれど、声は四条院先生の声だと理解できた。

「先ほど――から連絡をもらい、代理人としてきました」

 なんとか聞き取れた言葉で、体の力が抜けるのが解った。

 私は電話してないから、念のためにカオル先生か、彼が連絡していたに違いない。

 事情を知っている四条院先生なら、大丈夫だ――と力が抜ける。

 少しだけ耳をそばだてていると、私に関しては現在マスコミの相手をするのは困難な体調であることを伝えてくれた。

 そして、必要最低限の言葉で、マスコミ全てを追い払っていくのが人の気配が減っていくので何となく理解できた。

 そして、しばらくして人の気配がほぼゼロになると、扉の鍵が空く音がした。

 玄関にかけよろうとしたけど、うまく力が入らずへたりこんだままになってしまった。

「……マイ、安心しろ、マスコミなら『四条院先生』が追い払ったぞ」

「その言い方はやめてくれ、では私は帰るぞ」

「ああ、助かった」

 という会話が聞こえ、ダークがリビングに入ってきた。

「全く、マスコミは本当に暇だな」

「ダーク……さん」

 へたり込んで動けない私に近づくと抱き上げて、ソファーに座らせる。

 そして隣に座ると、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「すまんな、隊員全員のことやら会社のことで色々やったらこんなになってしまった」

「ううん、いいの……マスコミは怖かったけど、少しだけすっきりした」

「そうか、なら良かった」

 私の言葉を聞くと、彼は少し安心したような表情を見せる。

「しかし、つるし上げはまだまだ行うぞ。奴ら絶対こちらにもきそうだからな、私がお前の傍にいよう」

「本当……?」

「まぁ、ともかくお前は外に出るときは私と居ればいい。わかったな」

「……はい」

 彼の台詞に心が落ち着く。

 安心するのだ。

「しかし――『正義の味方』とか言ってはみたものの、全くそんな部隊ではなかったな!!」

 彼は退屈そうな、見下しているような邪悪笑顔を見せて言う。

「……そもそも『正義の味方』ってなんだろう……」

「いっそ敵対の『ヴィラン』と言えばよかった――いや、同じ『ヴィラン』になんぞされてたまるか、やはり彼奴らは『正義の味方』の方が私にとっていい」

 少しムカついたような表情の彼を見て、私はくすりと笑ってしまう。

「何故を笑う!」

「……ううん、そうだね。 だってダークさん達は『ヴィラン』だもん、同じように『ヴィラン』にしたら、同類扱いになっちゃうかもしれない、だったら『正義の味方』でいいやって」

「――ああ、その通りだ。貴様は物わかりがいいな」

 彼は満足そうに笑って、私の頬や髪を撫でる。

「ヘルメット越しからも解る動揺っぷりで楽しかったぞ」

「それならいいな」

 私は邪悪に笑う彼に撫でられながら、うなづいた。

「……でも、私の問題でもあるから、私がなんとかできるようになれたらなぁ……」

「思うのはかまわん、貴様の負担が大きくなりそうなら、その時は私が支えてやろう」

「……ありがとう、ダークさん」

「かまわん」


――嗚呼、彼に選ばれてよかった、彼が恋人で良かった――


 彼に愛おしむように撫でられながらそう思った。



 『正義の味方』も『ヴィラン』もいろんな見方によって変わる。

 彼は私にとっては一般的には『正義の味方』だというかもしれない。

 それでも、彼は『ヴィラン』なのだ。

 それ以外何者でもないと、私も思う。

 彼は『ヴィラン』、だからこそ――

 私は彼によって救われ、再び誰かを愛せるようになったと、そう思えるのだ。




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