第58話 『しぼめる花による序奏と変奏』 シューベルト

 ちょっと、また、このところ、なんとなく、うつぎみの、やましん。


 まだ生きているなんて、元職場の人たちに知られたら、なにか哀しい感じ。


 

 さて、この主題は、歌曲集『美しき水車屋の娘』の第18曲です。


 高望みの恋の末、あっさりとフラれてしまった青年が、涙ながらに、歌います。


「彼女が僕にくれたお花たち、みんな、ぼくといっしょに、お墓に入っておくれ・・・」


 こりゃあ、やましんより、危ない‼️


 4分の2拍子、最初はホ短調。ピアノは、ぼつん、ぼつん、と、とぎれとぎれの伴奏を刻みます。


 そこに、哀し気なお歌が乗って行きます。


 このお歌を主題にした、フルート独奏の変奏曲が、これであります。


 こうした変奏曲の、お決まりの形式は、まず序奏が置かれることです。


 この作品は、ロマン派時代に書かれた重要なフルート曲ですが、フルートパートがよく出来ている(なかなか難しい!)ことに加え、ピアノのパートが充実しているという特質があります。


 ま、そこがシューベ先生ならではなんでしょう。


 つまり、フルーティスト兼作曲家と違って、名人芸の披露が主目的というわけではなさそうだ、ということです。


 なので、多くのショー・ピースでは、序奏部分から、名人芸のちょっとしたお披露目になることが多いのですが、この曲の場合は、そういうわけでもありません。


 音楽的な意図が、まずは優先という感じなのです。微妙な転調も聞かせて、音楽の行く末に対するある種の期待(不安)というものを、いやがうえにも高めるのです。


 その後、主題の提示部になります。


 最初は、歌曲の伴奏と同じ、ぼつん、ぼつん、というピアノの左手の上に、右手が哀しいお歌の主題を歌います。


 9小節目から、フルートが、同じ主題を、孤独に歌います。


 ピアノとフルートの掛け合いで、お歌は進んでゆきます。


 後半部分のフルートは、かなり高い音になるので、ちょっとだけ、難しくなります。


 第1変奏は、こまかい、32分音符の連続。


 これも、後半には三連符が登場して、また、ちょっと難しくなります。


 第2変奏は、ピアノが主体。フルートは、飾りが基本。


 第3変奏は、ゆったりとした、美しいお歌になります。

 

 第4変奏は、前半の半分はピアノが主体。残りは、フルートが主役。


 そうして、中間部分の、フルートとピアノの掛け合いが最高です。(うまくゆけば。)


 第5変奏は、この曲中、終曲と共にフルートが難しいところで、聞かせどころでもあります。


 細かい音の連続で、指が団子状態になります。(やましんは・・・ですが。)


 特に後半は難しく、しっかり表情も必要なので、アマチュアには難関。


 第6変奏は、終曲への導入みたいな感じで、巧みな連結を作って、明るい長調が基本の終曲に至ります。


 この終曲も、後半部分の、沢山の音の連続がなかなか難しいところ。


 お口の中が張り裂けそうになりますが。


 最後は、大変元気よく、全曲を閉めます。


 ここが、興味深いところで、主題となるお歌は、もう、自殺を完璧に視野に入れたような、哀しい、哀しい、お歌なのですが、この変奏曲は、けっこう、ハッピーエンドになります。


 シューベ先生の、懐の深さが、うかがわれるのです。


 なかなか、じゅわっと、孤独な、さみしい魂を慰めてもくれる、でも、また楽しい、よい変奏曲です。


 機会があれば、元の哀しいお歌と共に、是非、どうぞ。 







 


 


 













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